第15妄想 デートプラン
その日の夜にみゆうからメッセージが来た。
『今度遊びに誘えよな。ところで勇者の友達のことはいつ紹介してくれるの?』
「あ。忘れてた」
れんとともやに連絡先すらまだ聞いてなかった。
明日にでも聞いてみるか。
それにしても、結局俺のこと勇者呼びしてるじゃん。
『今度、れんとともやに連絡先聞いておくよ』
これでよしと。
『まだ聞いてなかったんかい!笑』
返事はや!
いやでもそうなんだよな。
同じパーティ―のメンバーなのに、れんにもともやにも連絡先を聞いていない。
これはまずい状況というものだ。
ここは俺の眷属になりつつあるみずほに連絡先を聞くしかあるまい。
『眷属のみずほよ』
『私は弟子なので眷属じゃないですよ勇者様』
返事はや! みゆうもそうだけど、みずほも同じくらい早いな。
『愛弟子みずほよ。れんとともやの連絡先を知らぬか?』
なんか変な喋り方になっちゃった気がするな。
しばらく待ってみたが、連絡はない。
まぁそのうち返事は来るだろう。
今のうちに風呂でも入って精神を集中させてくるかな。
●
ミサキは震える手で、スマホを握りしめていた。
自称勇者にメッセージを送ろうとしつつ、その指先が止まっていたのだ。
勇気が出ないというやつだ。
ミサキは自称勇者をデートに誘おうとしているのだ。
わざわざ連絡先をみずほに聞いてまで準備をしたというのに、いざとなると勇者が出なかった。
「はぁー。なーんであんなやつなんかに緊張しなきゃいけないんだろ」
今まで気にもとめていなかった者の存在が急に大きくなることは稀にある。
人はそれを恋に落ちると呼ぶ。
しかしその対象が根暗オタクで、クラスの嫌われ者だった場合には理解するまでにかなりの時間がかかる。
加えて今回の場合、なぜかその嫌われ者が最近人気になりつつあり、女子からもモテはじめているという事実だ。
ミサキが混乱するのも無理ないし、なかなか受け入れられないのも頷ける。
それでもライバルが多い事実は変わらず、早くデートに誘う必要がある。
ミサキは知る由もないが、自称勇者は今ミサキのことが好きなのでデートを誘えば有頂天になるのだが、知らぬが故の緊張。これが恋愛の難しいところである。
●
風呂から出るとみずほから返事が来ていて、そのままれんとともやに連絡をした。
なんて言えばいいのか迷ったけど、結局素直に彼女を紹介するとメッセージを送った。
その結果、そのままとんとん拍子に話が進み、トリプルデートをすることになってしまった。
さて困った。
いくら勇者の俺でもデートをしたことはない。この前の遊園地や図書館をデートと呼ぶならば別だが……
「勇者様はデートしたことあるの?」
朝みずほが、俺の心を見透かしたかのように問いかけてくる。
「ない」
堂々と言ってやるぜ。
「だと思った」
なんだと!
「れんくんとともやくん達とトリプルデートするって聞いたけど大丈夫?」
小首を傾げてくる。
正直、大丈夫じゃない。
どういうわけか、俺にデートプランを考えろとみゆうが言ってきたのだ。
無理だと言ったのに強制的に決められてしまった。
「なんで俺が……」
ボソリと愚痴ると、みずほがキョトンとして答えてきた。
「勇者様のことが好きだからじゃない?」
「……」
呆気に取られて言葉も出ない。
一体全体、女という生き物は、好きだからという理由だけで、全くやり方も分からないデートプランを練ろと言えてしまうものなのか……
「いや。そもそもみゆうが俺のことを好きってのがおかしいことで」
俺がブツブツ文句を言い始めると、みずほがそれを咎めにきた。
「またそうやって否定する。勇者様は魅力的だよ? みゆうちゃんにも変わったって言われたんでしょ? もっと自信持ちなよ」
ちょいちょいみずほは俺のことを慰めるというか、元気づけてくれるな。
「それなら一緒にデートプランを考えてくれよ」
そこまでみずほが言うなら責任を持って貰わねばな。
何しろ俺は勇者。失敗は許されない。
ベストなデートプランを考えて貰おうじゃないか。
「じゃあ委員会の時間とかその後とかに一緒に考える?」
ふむ。確かに休み時間では時間が足りない。委員会は暇だし十分に時間が確保できる。
さすがは俺の眷属みずほ。頭が冴えているな。
「よかろう。委員会の時間と放課後に作戦会議だ」
腕を組んで威厳たっぷりに見えるように言う。
「わかりました。勇者様」
ふふふ。と笑いながらみずほが微笑む。
なぜか胸の鼓動が早くなった気がするが、きっと気のせいだろう。