第11妄想 変化2
妙なことにここ最近、俺の周りでは以前とは比べものにならない程に変化が起きている。
この変化についていくのは大変だ。
かなり戸惑っている。
例えばみゆうが、かなり馴れ馴れしくなっている。
休み時間にほぼ必ず話しかけに来る。
だいたいがどうでもいい話しだ。
好きな歌手だとか芸能人だとかテレビの話しを一方的にしてくる。
みゆうはゆーた達といる時間が少し減ってきていると言っていた。
ある日、俺は正直に胸の内を話した。
「あ。あの……ですね。ゆーた君とあきら君はいい人ですが、さくらさんとミズナさんはちょっと性格が悪いような気がします……」
「あん? まだ緊張してんの? 敬語じゃなくていいし普通に話せって。まぁーあの2人は意地悪だからねぇー」
にしし。と笑いながら何でもないようにみゆうが言う。
とても可愛い。
「あの。どうしてそんな意地悪な人と付き合っているんですか?」
「あん?」
「その……みゆうさんは、話せば分かりますが、い。いい人です。ゆーた君やあきら君と同じです……ですが、あの2人は」
「あぁ。あいつらとツルむなってことが言いたいんだ?」
俺の言葉を遮ってみゆうが言う。
ちょっと言葉にトゲがあるような気がする。
「普通にいい奴らだよ? っつーかあんたの方があんなキモいのとツルんでんじゃん」
「お。俺の仲間はキモくない! いい奴だ!」
「あぁ? うちの仲間はキモいって言いたいのかよ」
「そうじゃなくて、意地悪な人と付き合う必要ないって言ってるの!」
「んなのちゃんと話したことないおめーには分かんねーだろ!」
みゆうがヒートアップするにつれてオレもどんどんヒートアップしていった。
周囲の目なんて気にせずだ。
「そっちだって俺の仲間とちゃんと話したことないじゃないか! いつも勝手に見た目だけでキモいとか決めつけて!」
言ってやったぞ! 性格とかも悪いなら文句は言えない。
人の第一印象が見た目というのも理解できる。
でも、だからってその人間全てを見た目だけで否定するのは間違ってる。
俺は実際にサクラやミズナをこの目で見て、確かにしっかりと話したことはないけど、それでも性格が悪いと思った。
ギロり。と思いつく限りの睨み方でみゆうをねめつける。
「「……」」
2人の目が合う。
驚いたことにみゆうは起こっていなかった。
驚いた表情をしていた。
「確かにあんたの言う通りだわ。うち勝手に決めつけてたわ。今度あんたの仲間紹介しろよな」
生まれて初めてだった。
異性、いや他の人と言い合いをしたのは……
「悪かったな。それとあんた。友達のことになると熱くなるんだな」
にひひ。と笑いながら手を差し伸べてくる。
これが噂に聞く、仲直りの握手というやつか。
ふむ。昨日の敵は今日の友とはよく言ったものだ。
「うちさ。あんたのこと益々気に入ったわ。ダチを大切にしないやつはサイテーだ。自分のことは何を言われてもあんたはそんなに反論しないのに、ダチのこと言われるのは気に食わないんだな」
握手しながら、俺も自分の言動が意外なことに気が付いた。
確かに今までの俺だったなら、れんやともやが何を言われても反論しなかった気がする。
「んじゃ。今度紹介しろよな」
そう言ってみゆうは、ゆーた達のところに行ってしまった。
●
「すごい喧嘩してたね」
委員会の時間の時にみずほが言う。
「そうか?」
「うん。みんな見てたよ」
「ふむ。みんなに注目を浴びるのが勇者の宿命とはいえ、目立ちすぎるのはよくないな」
「……」
みずほが俺を見てくる。
しまった! うっかり勇者と名乗ってしまった。
どうやってごまかそうか……
「あなたが有名な勇者様ですか!」
なぬ?
「お目にかかれて光栄です」
ほう? 半獣のくせにみずほはラノベまで読むんだな?
「うむ。だが俺が勇者だと知れると困る」
「敵に狙われる可能性が高いですもんね? これからはマスターと及びしてもいいですか?」
みずほが目を輝かせてくる。
それにしてもマスターか。いい響きだな。
「ふ。2人きりの時は勇者様と呼ばせてください」
ぐいぐいくるな。
さてはみずほ。相当のラノベ好きだな?
「誰にも聞かれていないと確信ができる場所のみ許可する」
腕を組んで偉そうに言う。
とうとう俺は半獣を支配下に置いた。
「勇者様。そういえばミサキちゃんがダイキくんと別れたの知ってる?」
「なぬ? それは本当か?」
「はい!」
にこりと微笑む。
みゆうの笑顔を見た後だと、みずほの不細工っぷりが際立つな。
「みずほよ。でかしたぞ!」
ぽん。と頭に手を置いて撫でてやる。
半獣だからな。ペットが頭を撫でると喜ぶのと一緒だろう。
「勇者様」
なんだこいつ? 頬を赤くしてる。
ははーん。周りに誰かいるかもしれないと思って緊張しているな?
「安心しろ。ここにはめったに人は来ない」
みずほは、俺と秘密を共有する仲だ。悪いがれんやともやよりも上位になってしまった。
こういうフォローはしっかりとしてあげないとな。
●
あぁ。彼がイメプ好きだったなんて知らなかった。
しかもラノベも好きだったのね。
今度、【悲報】シリーズを紹介してみよ。
あぁ。やっぱりミサキちゃんのことが好きなのね。
それに最近はみゆうちゃんとも一緒に居るし……
みんな少しずつ、彼の良さに気づいたんだね。
嬉しいけどちょびっと寂しいな……
あ。頭を撫でてくれるなんて!
やっぱり私は彼のことが好き――
「安心しろ。ここにはめったに人は来ない」
彼が見当違いのことを言う。
はぁー。やっぱり私のことなんて眼中にないのね……
私はがっくし項垂れてしまった。
●
「ねぇ勇者様」
みずほが帰り道で声をかけてくる。
「なんだみずほ?」
驚いた。
まさかみずほが【悲報】シリーズを全て読破していたとは。
しかも明日俺がまだ読んでいないシリーズを貸してくれると言うのだ。
なんていい奴なんだ!
「今度ミサキちゃんと一緒に図書館に行くんだけど、勇者様も一緒に来る?」
な、何だと!
みずほ……見た目はキモいが、本当にいい奴だな。
「いいのか?」
冷静さを装って聞く。
「だって勇者様」
ん?
「ミサキちゃんのこと好きじゃん」
なっ! バレていただと? うぬぬ。みずほめ。侮れないやつだ……だがまぁ。隠し事はよくないよな。
「まぁな。いい人だと俺は思ってる。みずほはどう思うんだ?」
「ミサキちゃんはいい子だよ? みゆうちゃんもいい子だけどね」
いたずらっぽい笑みを浮かべる。
うぬ。こやつめ。勇者である俺をからかっているな?
だがまぁ。悪い気はしない。
「勇者をからかうと成敗するぞ」
「ごめんなさーい勇者様ー」
うりゃーと拳をあげながら、走って逃げるフリをするみずほを追いかける。
ふと気が付いた。
「そうか」
俺が立ち止まるとみずほも立ち止まって、傍まで寄って来た。
「どうしたの?」
「いや。みゆうさんの友達のさくらさんとミズナさんが、みゆうさんのことを遊園地でからかっていたんだけど、俺はそれが意地悪な人と受け取ったんだ。でも今のみずほみたいに意地悪じゃないってこともあるんだな」
「そうだね。私たちみたいな人には、意地悪されるイコールいじめって直結させちゃうから、いじるって概念が理解できなかったりするよね。でも私も今、人生で初めていじるってことを体験した気がする」
エヘヘ。と不細工な笑みを浮かべてくる。
そうか。これがいじるか。
「笑っても不細工だなみずほ」
「ひどーい。勇者様だって私と対してルックス変わらないからねー?」
「なぬ!」
後でみゆうに謝らないとな――