第0幕「プロローグ1」
ガラガラと扉が開き担任の先生が教卓の前に立つ
「じゃあHR始めます」
憂鬱な月曜日、今日もHRがはじまる。
---------------第0幕「プロローグ」---------------
僕、田中優には少し苦手な先生がいる。
「連絡事項は…特にないですね。あ、田中君昼休みご飯食べた後で良いので相談室まで来てください」
それは今教卓の前で喋っている松井先生だ。
松井先生は少し変わった先生として有名である。
基本無表情だし、生徒に対しても敬語だし、でも顔は比較的整っていて女生徒の中では1部で人気があったりする。
ただ僕がこの先生が苦手なのは…
コンコンッ 「失礼します」
「お、来ましたね」
…昼休みになり相談室に入ると窓側に立って煙草を吸っている松井先生が
「来ましたねじゃないですよ!!毎回毎回毎回毎回言ってますけど!!!生徒呼ぶんなら煙草吸わないでください!!」
…そう。この先生人目のつかない相談室で基本煙草を吸っているのだが僕を呼ぶ時も吸っているのだ
「いやぁ…窓開けてますし、私の数少ない趣味なんですよ」
「窓開けていても!!煙草吸ってない人からするとめちゃくちゃ臭いするんですよ!?さっさと火消して消臭剤振りまいてください!!」
「そう言われましても…今火つけたばかりで…」
「…吉田先生」
「すみません。すぐに火を消させていただきます。消臭剤もそこの棚に置いてますのでどうぞお使いください」
そう言って携帯灰皿にそそくさと煙草を突っ込み、席の準備をする先生。その間に僕はこれでもかと消臭剤を振りまく。
お互い席につき一息ついた後、彼は口を開いた。
「で、田中君。友達は出来ましたか?」
「新手の煽りですか?僕の担任なんだから普段の様子知ってるでしょ」
ここで少し僕の話をしようと思う。
僕、田中優は皆から避けられていて、ボッチである。
これは今に始まった話ではなく、人に話しかけるのが苦手な僕は幼稚園の頃から友達がいなかった。
そして極め付きは僕のこの目付きの悪い目。
一重で、目は人より少し細めな僕はコミュ障なのも相まって昔からヤンキー扱いされていた。
そして、身長も高く中学3年生時点で180センチ、今は高校1年生6月時点でも少しずつ伸びておりもう少しで185センチにさしかかろうとしている所である。
中学までは喧嘩で人のこと病院送りにしただの、悪い人達と絡んでいるなどの噂が出回ってたので隣の県の高校に進学し高校デビューを果たそうとしたのだが…
「にしても、田中君もどうしてそんなに避けられてしまうんですかね…やっぱり宮城さんとの一件が?」
宮城楓、僕のクラスにいるそいつはクラスの中心人物である。
容姿端麗で、明るく、やりたがる人のいない委員長も積極的に手をあげるような子。
入学してからたった二か月しか経っていないのに彼女の周りにはいつも人が寄ってくる。
そんな宮城楓と入学初日、各教室でクラスの確認をしている時に入口付近で話をしていた宮城にぶつかってしまったのだ。
軽く飛ばしてしまったのでごめんと声をかけようとしたのだが…
「え…あ…」
とっさに出た言葉がこれである。それであっという間に心配した周りの友達に囲まれた宮城に謝る事も出来ずに自分の席へ座ってしまった自分は、以降美少女を吹き飛ばした挙句睨みつけ「あ?」と威嚇したやべえやつとして認定されてしまったのである。正直僕がこんな見た目をしていなければあの陰キャきもっくらいで済んだのに…つくづくこの見た目には苦労する。そもそも声が出なかっただけで威嚇なんてした覚えはないのだが…
「あの時は声が出なかったんですよ…と言っても多分今ぶつかられても同じような反応したと思いますけど」
「本当に田中君は見た目で誤解されますよね…話をしてみればただの根暗な優しい子なんですけど」
「根暗は余計ですよ先生。普通に傷つきます」
「あぁ…私としたことがつい」
一応冗談で言っているつもりなのだろうかこの先生は??でもこの先生無表情だから冗談が冗談っぽくないんだよな。んーむ扱いづらい。
「まあ…宮城さん自身は特に気にしていない感じでしたし、周りが勝手に田中君を悪く言っているだけですからね。あくまでこの話も小耳に挟んだだけですし、ただ田中君がこのまま一人というのも担任としては中々無視出来なくはあります。どうやってか誤解を解ければ良いんですけど」
「無理ですよ。だって僕人と目を合わせることすらできないですし、なんなら目を合わせても多分睨まれたと思って怖がらせちゃいますし」
「無理なことないですよ。こういう感じで自然な風に喋る事が出来れば自然と友達も出来ると思うんですけど」
「そう言われても…」
僕だって好きでボッチになっているわけではないし、友達だって欲しいとは思う。でもどうやっても人と話するのは苦手なのだ。この先生は見た目で判断せずにこうやって6月になっても定期的に呼んでは声をかけてくれる。だからここまで話できるのであって普通は怖がられてるし無理なものは無理なのだ。
「そういえば先生。今回呼んだのは何か用事があったのでは?」
「あ、そうですそうです。田中君…部活やってみませんか?」
「いや嫌ですよ。この学校入ったのも部活強制じゃないからって理由が大きいんですよ?そもそもこんな奴を迎えてくれる部活なんて…」
「いや違いますよ田中君。作るんです君が、部活を」
「は?嫌ですよ。めんどくさい手続きとか沢山ありそうで嫌です」
大体部活を作るとなるとやれスピーチだの、部員何人からだの面倒くさい手続きがいっぱいありそうだ。
そんなの嫌だ、帰って早く休みたい。
「それがですね…うちの高校担任のハンコさえあればサクッと一人から部活作ることが出来るんですよ。あまり変な目的の部活とかだと却下されますけど。」
「え、そうなんですか?いやそれでも嫌ですよ僕にはメリットがない」
「いやありますよ?まず部活に入ると将来の進学、就職活動に有利です。というより、田中君このままだと灰色の高校生活送りそうですし思い出作りとしてやっときません?面接の時に話するネタ出来ますよ」
まあ、一理ある。確かにこのままだと文化祭とか体育祭とかでも端っこのほうにいそうだし、高校生活何を頑張りましたか?と聞かれた時に勉強ですかネーくらいしか言えなそうだ。それはめちゃくちゃ困る
「そこまで言うならまあやってもいいです。先生も手伝ってくれるんですよね…?でもなんの部活やるんですか?帰宅部…?」
「もちろん先生は放課後基本暇なので手伝いますけど帰宅部ではないです。そうですね、こんな部活はどうでしょう」
先生がにやりと珍しく口角を上げる。
「お悩み相談部!!これどうでしょう!!」
「…は?」