前フリ
それは突然の事だった。放課後に生徒会室で仕事をしているとアレクサンダー殿下が「アリエッタとユリシーズ嬢に大事な話があるんだ」と深刻そうな顔で言ってきた。
いつもなら生徒会役員の5人で仕事をしており今日は3人しかいない事を疑問に思っていたが、そうゆう事かと納得しつつ書類を見る手を止めた。
「アリエッタ。申し訳ないのだが君との婚約を破棄させて欲しい。君の今後に響かないようにこちらの有責であるとして発表させて貰うし、公爵家には相応のお金を支払う」
そう告げたアレクサンダー殿下はアリエッタ嬢に頭を下げている。え、ちょっと待って。突然殿下の婚約破棄宣言にも驚きだが、この場に私が呼ばれた意味が分からない。
「…アレク様、婚約破棄したい理由をお聞かせ頂けますでしょうか?」アリエッタ嬢は問う。
「すまない。私はアリエッタという素晴らしい婚約者がいるにも関わらず他に好きな女性が出来てしまったのだ。何度も君がいるからと忘れようとした。でも無理だった。他に好きな人がいるのに君をずっと婚約者として縛り付けておくのも酷だろう?だから…」と下を向くアレクサンダー殿下。
いやいやいや。やっと辛い王妃教育を終えてあと数ヶ月で卒業&結婚出来るって喜んでたアリエッタ嬢に対して、何言ってんの殿下!!とツッコミを入れたい衝動にかられるがとりあえず空気を呼んで無に徹する。
「その好きな方とはこの学園の人ですか?」
そう。それだよアリエッタ嬢!報告によると殿下と特別親しくしていたご令嬢はいないはず、と疑問に思いながら殿下の言葉を待つ。
「アリエッタも知ってる人さ。というか今、君の隣にいるユリシーズ嬢の事だよ」
殿下の爆弾発言に室内の時が止まる。え、私…?
数秒後、ハッと現実に戻ってきた私はアリエッタ嬢を見ると、こちらと同じく驚愕の表情で見てきた。
アイコンタクトで私は何も知らない、聞いてないと伝える。
「アレク様はその事をユリシーズ様にまだお伝えしていないのですか?」
「婚約者がいるんだ。不誠実な事はしたくなかったのでまだ何も告げていない」
「そうですか…」
アリエッタ嬢は頭を抱えてしまった。私も頭痛がしてきた。微妙にズレた殿下の気遣いやら、突然の告白やら、何がどうしてそうなったのか。頭痛すぎて吐き気がしてきた。
「アレク様、突然の事に私もユリシーズ嬢も困惑しております。後日改めて席を用意致しますので、本日はここで退席する許可を頂けませんか?」
「アリエッタ達はこのままで良い、私がこの場を去ろう。あと話し合いの場は私が王宮に手配しておく。2日後は如何だろうか?」
「私は問題ありません」
「私も大丈夫です」
「では、そのように」
そう言ってアレクサンダー殿下は部屋から出て行った。
「「はぁぁぁぁぁぁ…」」
深い深いため息が出る。
「ユリシーズ様、これは一体どうゆう事ですの?」
アリエッタ嬢の顔が怖い。王妃教育での成果か笑顔なのに圧が凄い。
「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ。私は何にも知らなかったんです!無実です!」
「貴方、男の身でありながらアレク様を誘惑したのではないでしょうね?」
「有り得ませんよ、何が悲しくて同性を誘惑しなきゃならないのですか…それに私はいつもアリエッタ嬢と一緒に行動してたじゃないですか!」
「ふふっ、すみません。有り得ない事態につい冗談を。それにしても殿下には困ったものですね」
「全くですよ…とりあえずこの後に定時報告の為に陛下にお会いするので、真実を殿下にお伝えしても良いか確認して来ようかと思います」
「分かりましたわ。では明日結果を教えて下さい。それにしても少し喉が乾きましたわ。ユリシーズ様も時間があるならお茶は如何かしら?」
「喉がカラッカラだったので助かります。あ、私が入れましょうか?」
「いえ、大丈夫です。王妃教育の一環で習った成果をお見せしてあげますわ!」
アリエッタはティーポットを持って部屋を出た。
部屋に1人になった私は椅子に座ったまま目を深く閉じ、これまでの経緯について振り返ってみる事にした。