親と子②
「てめぇ、なんのつもりだよ?」
「……後ろにいる人たちの中に俺の両親がいる。 辞めてくれないか」
自分がそう言うと目の前の男は笑い声を上げた。
「ヒッ、ヒヒヒヒ! ハハハハァハ! 親!? アンタ、マジで言ってんのか?」
「……なにがおかしい」
「あんなぁ、俺たちは生まれ変わったんだよ! もう、そこに居る親と呼ぶ奴らとお前は何の関係もねぇんだよ!」
「そんなこと……」
「そんなことがあるんだよっ!!!!」
只野の言葉を荒げた声で目の前の男は塗りつぶした。
その声には怒りの感情が簡単に見て取れる。
「俺は! 俺たちは変わったんだよ! 身体の一欠片も元の自分が残っちゃいねぇ!」
「それでも、記憶はある。 只野正人としての記憶が」
目の前の男が手を振り払いこちらを睨みつける。
「記憶? そんなものが何だってんだよ? 俺たちは脳みそもいじられてんだぞ? その記憶が正しいだなんてなにを根拠に言ってんだ!!!」
男はその場で地団駄を踏むと地面のコンクリートにヒビが入った。
「なぁ、お前は本当にお前だと言えんのかよ?」
「それは……」
「言えねぇよなぁ!? 俺たちは危機的状況下では常に冷静になれる様に作られているからなぁ。 わかってんだろ?」
「……俺たちは俺たちのままかもしれない。 俺たちは記憶を引き継いだ別人かもしれない。 俺たちは自分を自分だと思い込んでいる狂人かもしれない。 俺たちは、俺たちは……」
目の前の兄弟と名乗る男は呆れながら短く息を吐く。
「もういい、どいてろ。 お前を縛り付けてる奴ら、俺がぶっ壊してやるよ。 その方が少しは楽になるぜ、兄弟」
そう言って兄弟を名乗る男は両親たちの元へと向い歩いていく。
しかし、只野はそれを遮る様に目の前に立ち塞がる。
「何のつもりだよ?」
短く、しかし鋭くこちらを刺すように兄弟と名乗る男は問いかける。
「俺が何なのかはどうでもいい。 ただ、それでも……銃を持った相手に食い掛かってまで自分を息子と呼んでくれる人をここで見捨てるわけにはいかない。 いや、見捨てたく無い、助けたい。 これは偽物でも、ましてや作られたものでも無い、俺の、只野正人としての感情だ」
兄弟を名乗る男は歯を食いしばりながら前傾姿勢になる。
「上等だ! だったら守って見せろよっ!? 寝坊助の一桁がよぉ!?」
只野は拳を握りしめる。
以前の自分を守るために、突発的な暴力では無い。
自分の矜持を、新しいなにかを手に入れるために、そして自分を子供だと呼んでくれる親のために、只野は暴力を振るうことを決めた。