兄弟。
そのまま半日程かけて自宅へと戻る。
今日、自分の身に降りかかったことが嘘みたいに街はいつも通りだった。
自分の自宅を除いて。
自分の家の前でスーツを着た男が数人がかりで自分の両親を囲んで何かを話している。
このまま踵を返すわけにもいかず両親とスーツ姿の集団に近づくと向こうもそれに気がついた。
「っ!? 離れてください!」
スーツを着た人間たちは自分の両親を庇う様にして前に出て拳銃をこちらに向ける。
「や、辞めてくれ! あの子は私の息子なんだぞ!? なにが理由でそんなことをするってんだ!!」
「お父さん! 何度も言っているでしょう! 息子さんはもう貴方たちの知っている人物では有りません!!」
自分の両親がスーツ姿の集団と言い争っている。
どうすれば良いか分からず只野はその場から動けなかった。
「あの子が最近騒がせている改造人間と……化け物と同じだっていうのか!? ふざけるのも大概にしろ!!」
父はその場で怒号のような叫び声を上げながら、銃を持った人物に一歩も引いていなかった。
自分の記憶の父は母に尻に敷かれていて、あのように怒った姿など産まれて初めて見た。
母はその場でただ泣いている。
その姿も初めて見る姿で普段の様子から考えられず、益々どうすれば良いか分からなくなってしまった。
「お、俺は……」
気づけば脳内物質の生成が出来ない。
何故できないかは分からないがそのせいでこの状況に戸惑ってしまい、上手く喋れない。
「全員! 撃て!」
その場で戸惑いなにもできないでいると、スーツを着た男の号令と共に弾丸が放たれた。
複数人がこちらに向けてくる拳銃から数発の弾丸がほぼ同時に只野の身体に向けて放たれた。
「やはりか…! 改造人間! この化け物がっ!!」
スーツの男が銃口を向けながら吐き捨てるように言い放った。
只野の身体は何発もの弾丸に貫かれ血を流しながらも倒れずその場に立っていた。
「ち、ちがっ……! お、俺はっ……!」
戸惑いと困惑の感情を抱えながらなんとか言葉を発そうとした瞬間、衝撃が遠くの住宅を吹き飛ばした。
「何事だ!? まさか……」
「そんなっ! 改造人間がこの場にもう一体!?」
「なっ! はっ早く民間人を連れて逃げないと……」
「バカっ! そんな余裕ねぇよ!! 早く逃げんぞ!」
スーツ姿の男たちは慌てているが、それを嘲笑うかの様に衝撃が住宅を破壊しながらこちらに向かってくる。
「な、なんなんだ? この感覚は……」
今まで生きていた中で感じたことのない感覚が近づいてくる。
それは磁石のS極とN極の様に、もしくはパズルの隣り合うピースの様に、決して無視できない存在が、本能に近い何かが訴えかけてくる。
その存在を一言で言い表すならば……。
「兄弟……?」
「兄弟ぃい!!」
ほぼ同時に家屋を破壊しながら現れた男と声が被った。