初めての暴力
皮を剝がされ、骨を抜き取られ、臓器を切り取られ、脳を弄られる。
その間、狂うことは許されず、ただただ自分という個を亡くす喪失感を感じ続けた。
それからどれくらい時間がたったかは分からない。
確実に自分が分かるのは爆音と衝撃によって自分のいる場所が吹き飛ばされたという事実だけだった。
「やっべぇ、吹き飛ばしちまったか……。 まぁ、どうせ碌な物もねぇし問題ないか」
自分の拘束している椅子ごと部屋を吹き飛ばされた。
「がぁっ……!? なっなんなんだ?」
「あん? 誰かいるのか?」
おそらく、この部屋を吹き飛ばした人物と自分は目が合う。
その人物は創作の世界から出てきたかのような近代的な全身鎧に身を包んだ人物だった。
一瞬、コスプレかと勘違いしそうになるが、入ってきた人物の圧力と重量感が本物だと自分に訴えかけた。
「おい、ガキ! おめー、名前は?」
「へ? えと、只野正人です、けど……」
呆気にとられながら自分の名前を言うと、目の前の全身鎧をまとった人物は背中に背負っていた大筒をこちらに向けた。
「そうか、ヒヒヒヒ、悪く思うなよ。 まぁ、自分の運の悪さを恨んでくれや」
「……!!」
何故だろうか、全身鎧を纏った人物が悪意を向けてこの部屋を吹き飛ばした大筒の砲身を此方に向けているのに慌てるどころか落ち着いている。
自分がどうするべきか、どう身体を使えばいいかがわかる。
「アドレナリン、生成開始」
一言そう呟くと身体のリミットが外れる感覚がする。
そのまま床に落ちているコンクリート片を全身鎧の人物に投げつける。
「なっ!? てめぇ!?」
鎧の耐久力に負けて放ったコンクリートは当たると同時に粉々に砕け散る。
それでも相手の動きを一瞬、止めるには十分だった。
一歩、全身鎧の人物に向けて脚を踏み込むと身体が一直線に跳ぶ。
そのまま只野は暴力を振るった。
拳は鎧の頭部に目掛けて振り抜かれると、弾ける音と共に赤い鮮血が部屋を染め上げる。
後に残るのは頭部のない死体だけだった。
「お、俺は……どうなっているんだ?」
困惑しそうな状況なのにそれができない。
ふと、部屋に散乱する鏡の破片が目に入る。
そこには顔の半分が黒い骸骨になっている化け物がそこにいた。
「……そうか、そうなのか」
納得する様に只野は呟いた。
「俺は、何者かに改造され、身体の全てが人工物に置き換わっている。 脳内物質を自由に生成可能。 そして……」
自分の状況を声に出しながら顔の半分、黒い骸骨に意識を集中させる。
すると筋繊維が生成されその上を皮が広がり、少しすると見慣れた自分の顔に戻る。
「再生能力を備えている……」
一眼、自分の殺した死体に目をやるとその場から立ち去るために足を踏み出す。
これからどうするにしてもここに長居するのは良くない気がしたからだ。
展望も無く只野はその場から立ち去るのだった。