日常のおしまい
いつもの日常がそこにあるはずだった。
学校に行く途中の駅のホームで暇を潰すためにSNSを流し見する。
よくある日常に埋もれて誰かが死んだ事件や事故のニュースを指先数センチの動きだけで読み飛ばしていく。
どんなに痛ましい事件でも自分はその事件の当事者でもなければ、それをどうにかする立場でもない、ただの高校生だった。
不幸を押し付ける人は世の中に沢山いるのに自分は当事者でないというその意識からか、それとも明日も同じ日常が繰り返されるという根拠のない考えからか、自分は駅のホームが徐々に騒がしくなっていても気にしていなかった。
電車の到着を待つ人達をかき分けながら覆面をつけた集団が此方に向かってくる。
咄嗟の出来事でなにもできずに、覆面を被った人物に鈍器で殴られて自分は意識を手放した。
どんなに痛ましい事件で、その被害者がどれだけ不幸になろうとも、その出来事の重大性や辛さというのは当事者でなければ理解できない。
今日、自分はそのことを理解した。
次に自分が目を覚ましたのは椅子の上だった。
椅子と言ってもその形は座っている自分には全容はわからないが、大の字になって座らされることを前提とした形をしており、歯医者の椅子が一番形としては近いのではないだろうか?
よく見ると自分の両足と両腕を縛られており、身体中に管が付いていた。
「ここは……どこだ?」
「被験者002が目覚めました。どうしますか?」
「構わん、このまま続けるぞ」
自分の問いかけに全く意を解さない手術服を着た人達はコンプュータをイジりながらそういう。
よく見ると周りには何本もの機械式のアームが天井や壁から生えており、それらは全て自分に向けられていた。
「さぁ、次は背骨をやるぞ。 まずは引き抜け」
「了解、背骨を切除します」
手術服の男たちがそういうとアームが自分の腹部や胸部に伸びていく。
そこまでして漸く気づく、気づいてしまう、自分の身体が切り裂かれているという事実に。
何故か痛みが無いせいでその事実に気づかなかった。
骨が軋む音が数回なるとアームによって自分の背骨が取り出される様子が見えてしまう。
痛みはない、だがそれでも自分の何かが失われた感覚が噴き出した。
「ア、アアァアアア!!! やめてくれ! ヤメテクレ! 辞めてくれぇええ!!!」
恐怖のあまり自分は泣き叫ぶ。
しかし男たちはその様子に全く意を解さない。
「エンドルフィンの量をもっと増やせ。 並行して強化骨格の背骨を移植する」
自分はなにもできずに、痛みもなく、ただ自分のものを別のもので作り替えられるのを見るしかなかった。
需要あるかな?