【短編】よく召喚される聖女視点(ちゃんとした人だった場合)
色々な小説で召還されている聖女視点です。(召還された人がまとも?だった場合の話)
異世界転生・転移恋愛ランキング2位感謝です!
「またねー莉花!」
「うん!また明日、雪乃!」
雪乃に手を振る。彼女も手を振り返してくれた。そして自分の家に帰ろうと一歩踏み出す。その瞬間、視界が真っ暗になった。
「……聖女の召喚に、成功した」
「……?」
変な声が聞こえたと思ったらすぐに視界が明るくなる。私がいたのは、初めてみる場所。まわりの立っている人は変な服を着ていて私を見ている。
よくわからなくて視線を下に落とすと魔法陣らしきものがあり、目を見開いて固まった。それから数秒後、ゆっくりと顔をあげる。
そして教卓みたいなのに立っている男が声をあげた。
「聖女様。貴方の名前は」
「……莉花、ですけど……」
金ぴかの服を着ているイケメンが私の目の前に来た。すごい人そうだ。ていうか服、重そう。本物の金ではないよね……?
呑気にそんなことを考えているとその金ぴか男は私の前で片膝を突き、手を出してきた。よくある、プロポーズの姿勢みたいだった。
「リカには俺と結婚して貰う。俺は王子だからな」
「は?」
なにを言っているんだろう。王子?なにそれ。ここ、もしかして地球ではない?ハッ……最初「聖女の召喚に成功した」と言っていたということは。私、異世界に召喚された……?
「説明して欲しいです。ここはどこですか」
異世界の本があるのは知っている。異世界恋愛?みたいなジャンル。雪乃が好きだったから、知っている。それみたいなところなのだろうか。それだったら私じゃなくて雪乃を召喚して欲しかった。泣いて喜ぶだろう。
ていうか私、この王子と結婚しないといけないの?イケメンだけど……いや……多分こういう男はタイプではない……。
「ここは莉花がいた世界とは違う世界だ。……俺は今、嫌いな奴と婚約していてな。嫌だったから、聖女を召喚してそいつと婚約するつもりだった。だからリカは俺と婚約してもらう」
「……嫌ですけど」
こっちの事情なんて考えず聖女として私を召喚したこの王子に苛立ってきた。王子が婚約していた人がどんなにやばい人でも私には関係ないのに。
婚約を拒否するとここ全体の空気が凍った。誰も、私が拒否するとは思わなかったのだろうか。
「嫌とは?俺のどこが不満だ?」
「顔以外全部」
顔は、本当に、イケメンだ。たまに髪を金色に染めているけど似合ってない人を見て来た。だけどこの王子は金髪がとても似合っている。
だけど、顔だけ。性格も悪そうだしこんな男と結婚するなんて絶対嫌だ。
「じゃあ、せめて俺とあいつが婚約破棄出来るようにしてくれ。俺と浮気するふりでもいいから」
なんで誰もおかしいと言わないんだろうか。ああ、言えないのか。王子に逆らえないのかも知れない。
だとしても、頭がおかしい。婚約破棄したいから浮気?私、その女に刺されるかも知れない。そんなの、絶対嫌だ。
目の前の王子から離れたくて後ろに下がる。
「私に、浮気するふりをするメリットは?」
「俺と付き合っているふりを出来るだけでメリットだと思うが」
「馬鹿なの?」
あ、つい本音が。王子はそういうことを言われたことがないのか「は」と声を出して固まった。
「その女に会わせてほしい」
もしかしたら。もしかしたらその女はものすごーく最低な人かも知れないから。
だから会いたいと、王子に言った。
◇◇◇ ◆◆◆
何故かドレスに着替えさせられて髪飾りやイヤリング、ネックレスなどをジャラジャラとつけられた。動きにくい。
だけどちゃんとした格好じゃないと失礼だからと言われて、私は「会いたい」と頼んだ立場なので大人しく髪もセットしてもらった。
「はい、出来ましたよ」
鏡を見ると、いたのは美少女。え、本当に私?っていうぐらい可愛い。メイクや髪型でこんなに変わるのか……。
すぐに知らない男がこの部屋に来て、私を連れて行った。
広いホールみたいなところについて、そこにいた女を見て愕然とする。
「可愛い……」
まわりには花が舞ってそうなぐらいニコニコとした笑みを浮かべている。本当に可愛い。私の妹に似ている。
「初めまして、聖女様。メアリ・グレヴィアと申します」
「あ、涼風莉花です。莉花って呼んでください」
その後メアリ様にこの世界について色々なことを聞いた。
「へえ、シャワーはないんですね」
「はい。でもあったらすごく便利そうです……!」
「私、莉花って呼び捨てで良いですよ。あと、タメ口にしません?」
「ぜひ……!リカ、よろしくね」
一瞬で友達になった。
「またね、リカ」
「……うん、またね」
最後に雪乃が言った言葉に似ていた。また明日、と言ったのに雪乃や家族ともう会えないかも知れない。私は、もう日本に帰れないかも知れない。
そう考えると、少し視界が歪む。だけどこんなところで泣いちゃいけないと思って、必死に隠して用意してもらった自分の部屋に行った。
「お帰りなさいませ」
「……え?」
さっき、私の身支度をしてくれたメイドらしき人。なんでいるの、と思ったら私のメイドになったらしい。
「スチアです。よろしくお願い致します」
「っと……よろしく、お願いします」
ぺこりとお辞儀をする。するとスチアは「敬語は使わなくていいですよ」と笑ってくれた。
「リカ様が帰ってきたら殿下……ああ、第一王子のところに連れてこいと言われておりますので。行きましょう」
休憩したかったのに、次は王子のところに行かないといけないらしい。
◇◇◇ ◆◆◆
「どうだ、俺と婚約する気になったか」
「もっと嫌になったけど?馬鹿王子、メアリのどこが駄目なの」
「ばっ……か?……メアリは、俺より目立つんだ。俺が一番じゃないといけないのに」
俺が一番じゃないといけない?……メアリが優秀すぎるから嫉妬していたということだろうか。……本当に、なんで誰も止めなかったんだろう。その思考はおかしいと。さっきスチアはこいつを第一王子と言っていた。第一王子がこんなんじゃこの国は終わると思う。
机の上に用意されていたお茶をずずっと飲む。美味しかった。
「とにかく、私はメアリの味方なんで。元の世界に帰してくれません?」
「帰し方がわからない」
「……は?」
「ていうかお前、メアリの味方とはどういうことだ!何故俺の味方をしない!?」
うるさいな、と思いそっと耳を塞ぐ。
本当にこの王子は私がメアリの味方をする意味がわからないのか。はぁ、と溜め息をついた瞬間ドアがコンコンコン、と音を立てた。
「……誰だ」
「メアリです」
「今は聖女・リカと話している。どっか行け」
「失礼しますね」
王子の言葉を無視して部屋に入って来たメアリはさっきのふわふわとした雰囲気はなかった。
「国王陛下から婚約破棄の許可が出たので参りました」
「婚約破棄?……はっ、そうか!やっと父上もわかったか!こいつが王妃に相応しくないと」
「それと同時に次期国王は第二王子、ということになりました」
その言葉には私も「え」と声が漏れた。王子も目を見開いている。
「私が第二王子様と婚約することになりましたので。殿下は私がいたから次期国王だったんですよ?私と婚約破棄をした今はただの第一王子です」
流石にこんな男がこの国の王様になるわけではなかったのか。メアリの支えがあったから、次期国王だったらしい。まず次期国王だということを知らなかったけど。
「あぁ、ちなみにリカは戻れるけど、どうする?」
「……日本に?」
「うん、多分そこに。聖女の召喚を勝手にしたことで国王陛下もお怒りだったからね、帰す方法を調べてくれたの」
ありがとう、とお礼を言う。この世界にはメアリがいるから少しは帰りたくはないけど、それよりも家族や雪乃に会いたかった。
「出来れば、帰してほしいな」
「わかった……!少しだけど楽しかったよ、リカ。ありがとう!」
「うん。……ありがとう!」
メアリが机を二回叩くとドアの外から人が入って来る。そしてその人が何かを唱える。するとどんどん視界が暗くなっていって。真っ暗になった5秒後ぐらいに視界が明るくなっていく。
「帰れた~……」
召喚される前にいた場所に私は居て。振り返るとまだ雪乃が見えた。
私の声が聞こえたのか、雪乃も私を見る。
「どうしたの?」
「何でもない!またね!」
私がこの世界で、あの王子みたいな奴じゃない優しい男性と結婚するのは、もう少し先のお話。
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