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仮試験①


「もうすぐシノンが16歳になるので仮試験が行われます」


「前世持ち」は18歳になった時に問題を起こしそうにないと判断されると独り立ちできるのだが、それに先立ち16歳になる時に仮試験が行われる。


 監視役を離して様子見をする。

 当然だが、この意図については対象者には伏せられるため、シノンには単に俺が王都に帰省したとだけ伝えられた。


 というわけで、俺は数年ぶりにタウンハウスで家族水入らずの時間を過ごしていた。


「レオン……立派になって……うっっ」


 再会からもう丸1日は経つというのに母は俺を見る度に泣いてしまう。


「母上、もうそろそろ泣かないでください」


「泣かずにおれましょうか!」


「レオン、しょうがないよ。6年ぶりなんだから」


 長兄のアルノルトが苦笑しながら言った。


「そうですね」


「それにしてもお前、最初は宮廷騎士団に戻りたい戻りたいって言っていたのに、1年経って危険人物の気配が微塵もないから交替させようとしたら『このままで大丈夫です』なんて言うし。どういう心境の変化だったんだ?」


 婿養子に行った次兄のトゥバルトも来ており、触れられたくない過去を蒸し返された。


「バルト兄さん、そんな昔の事は忘れましたよ」


「へぇ?」


「それでレオン、彼女は18歳になったら予定通り独り立ち出来そうなのか? 光魔法は覚醒していないのだな?」


「父上。はい、覚醒していませんし、未だに危険人物の気配が全くないので予定通り独り立ち出来ると思います」


「手紙にも書いてはあったが、本人の性格自体はどうなんだ?」


「昔から変わらず真面目で思いやりがあって不器用だけど一生懸命な子です」


「ほぅ」


「あら」


「へぇ」


 ニヤニヤしているバルト兄さんは無視する。


「レオン、もしかしてそのお嬢さんのこと……」


「何を言っているのですか? 10歳の頃から見ているのですよ? 妹みたいなものです」


「そうなの? でもレオンが本当に大切に思っているなら私は」


「母上」


 アル兄さんに嗜められて母は黙った。


「まだ妹としか見れない者にその様な事を言っても今は大きなお世話にしかなりませんよ」


「そうよね。ごめんなさい」


 アル兄さんも「まだ」とか「今は」とか、いったい何を言っているんだよ。


 10歳の時から一緒にいるんだぞ?

 確かに「前世持ち」だから同年代よりは精神的にも大人びてはいたけど見た目は年相応なんだぞ。

 まぁ、最近多少は女性らしい体付きになってきた様な……いやいや、何言ってるんだ俺。


「お前のその反応からして魅了の魔法は使えない様だしひとまず安心だな」


「シノンはもし魅了の魔法が使えたとしたら自ら封じる為の魔道具を探し求めると思います」


「そうか」


「レオン、彼女が独り立ちしたら宮廷騎士団の再試験受けるんだろ?」


「えっ? あっ、そっか、独り立ちしたらもう俺が監視する必要はないのか……」


「何? 漠然とずっと一緒にいるつもりだったのか?」


「なっ!? 違うよっ!」


「へぇ?」


 何だよ。だってしょうがないだろ?

 6年も一緒にいたからそれが普通になっていた。


 独り立ちしたら別々の人生を歩むのか……。


 まっ、まあ、俺はシノンの兄みたいなものだからな、妹が元気で過ごしているか時々様子を見に行ってもおかしくないよな。


「レオン、アルとバルトにはもう話したのだが、私は50歳になったら引退してユーリアと一緒にのんびり過ごすつもりだ」


「はっ? えっ!? 50歳って言ったらもうすぐですよね? なんでそんな急に?」


「急ではないぞ? 随分前から考えていた。結婚してすぐ忙しくなってユーリアにはずっと寂しい思いをさせていたから、これからは奥さん孝行をしようと思ってね」


「私は素敵な旦那様と優しい子どもたちに恵まれて寂しいなんて思ったことはありませんよ」


「君はなんて優しいんだ。私は本当に幸せものだな」


「もうあなたったら……」


 子どもの前でイチャつくなよ。


 苦笑しながらアル兄さんが話し始めた。


「レオン、続きは俺が説明するよ。父上が引退するにあたって俺が予定通り侯爵位を継ぐのだけど、伯爵位はお前に引き継ごうと思っている。だから、いずれ伯爵領の領地経営はお前に任せる。宮廷騎士団を引退後になるか監視役卒業後すぐかの違いだが、将来のこと考えておいてくれ」


「兄さんありがとう。真剣に将来の事考えてみる」


「ああ、どんな道を選んでも応援しているぞ」


 父上も兄さんもきっと俺のことを考えて……優しい家族を持って俺は幸せだな。


 その点、シノンは……いや、将来俺も子どもを持てば彼女の両親の気持ちがわかるのかもしれない。


 きっと誰が悪いってわけじゃないんだ。


 せめて俺だけでもシノンの良き理解者でありたい。



*****



「6年分の親孝行をしろ」と言うアル兄さんの命令で今日は母の買い物に付き合っている。


 母行きつけの仕立て屋でドレスのデザイン画を見せられ「どちらがいいと思う?」と聞かれてもさっぱりわからない。


 勘で「こっち」と片方を指さした。


「それは何故ですか?」


「えっ? なんとなく?」


「不合格です」


「はっ?」


「なんとなく、なんて一番ダメな答えですよ。でもそれもしょうがない事なのでしょうね。貴方はずっと寮生活で、それが終わるとすぐに監視役に就いたのだもの。今からみっちり教えて差し上げますわ」


 何を?


「いいですか? まず、女性がどちらがいいか聞く時はほぼ自分の中で答えが決まっていて背中を押して欲しい事が多いのよ。本人の好みだったり、気に入った方を右手で持つ癖があるなど、普段から相手のことをしっかり見ていればどちらを勧めて欲しいのか答えられるはずです」


「はぁ……」


「それでもわからないという場合は『どちらも素敵なのだけど』と両方褒めておいて、『普段よく着ている物に雰囲気が近いのはこちらだから、こちらの方が今持っているアクセサリーとも合わせやすいと思うけど、新たな魅力を発見するという意味ではこちらも捨てがたいよね。どう思う?』と言えばいいのよ。単純にそのドレスが素敵というだけで、トータルコーディネートを考えていない場合があるから、そこで気づかせてあげるといいわね」


「へぇ……」


「問題は両方とも似たようなデザインや色だった場合よね。その時はどちらか片方を選んで『こっち』と言って一拍置いてから『って言われてどう思った? もし嬉しかったなら買った方がいいけど、もし少しでも(ん?)って思ったのならこちらはやめておいた方がいいと思うよ』って言うのよ」


「なるほど……」


 最初、俺はいったい何の授業を受けさせられているんだ?という反発心が占めていたのに、徐々に将来役に立ちそうな予感がしてきているのが怖い。


「父上は合格点が貰えるような返事をしたのですか?」


「クルトは『どちらかでいいのかい? 気に入ったもの全て買いなさい。合うアクセサリーがない? ではこの後アクセサリーも買いに行こう』と言ってくれたわよ。素敵でしょ?」


「いや、それってダメなんじゃ……」


「相手によるわね。クルトは人を見る目があるから言えるのよ。浪費家の人間にそんな事は言わないわ。私がきちんと必要な物しか買わないってわかっているのよ。でももし私が『では全部買ってください』と言えば本当に全部買ってくれるでしょうね」


「あっ、そう」


 主に精神的に疲れた切った俺を、母は王都で一番人気というカフェに連れて行った。

 そこで母お勧めのモンブランを食べた。

 お勧めだけあって美味しかった。


 シノンにも食べさせてやりたいな……

 元気にしているかな?

 急に俺が居なくなって寂しがっていないかな?


 するとカップをソーサーに戻して母が言った。


「美味しい物を食べた時や楽しい事があった時にその気持ちを共有したいと思った相手は自分にとってとても大切な人なんですって」


「ゴホッ、ゴホッ、べっ、別に俺は何もっ!」


「クルトに買って帰ろうかしら?」


「えっ? あっ、父上のこと……」


「どうしたの?」


「いえ、別に」


「そう?」


 なんだ父上のことか。

 昨日から変なことばかり言うからてっきり……。


 気持ちを落ち着かせるように紅茶を一気に飲み干した。




長くなったので2話に分けました。


誤字報告ありがとうございます。

とても助かります。

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