推しの声に似ているんです
「暇だね……」
「そうだな」
教会に保護されて早3年。
週3日の勉強と料理や洗濯などのお手伝いをして空き時間に本を読むのだけど、さすがに時間を持て余す。
既に過去の転生者たちがオセロとか将棋とか生み出してくれてはいるけど、流石にスマホやパソコンはない。
スマホを発明した人が異世界転生したらこの環境下でも作れるのかな?
スマホがあってもネット環境がないと無理か。
はー、漫画が読みたい……。
杖を振ったら漫画が出てくる魔法ないかな?
そういえばシンデレラに出てくる魔法使いは何属性なんだろう? 錬金術?
暇すぎて取り留めのない事を考えてしまう。
「なんか、ごめんね?」
「何がだ?」
「私が危険の『き』の字もない一般人のせいでレオンハルトの腕の見せどころがないよね。ちょっと危険な人のフリとかした方がいい?」
「何言ってるんだよっ! 冗談でもそういう事言うなよ」
「はい、ごめんなさい」
「ったく、暇だから余計なことを考えるんだな……そういえば、シノンは魔法は使えないのか?」
「うん、生活魔法って言うの? 魔石に魔力込めて水を出すことはできるんだけど、それ以外は教わらなかったから。光魔法は学園に入ってから覚醒するはずだったんだけどね」
「『ゲームの設定』ってやつ?」
「うん」
「そういえば、どんな話だったんだ?」
私はゲームの内容を掻い摘んで話した。
闇属性の子の魔力が暴走してしまい、怪我をした王太子を救いたい一心で祈ると突然体が光って王太子の怪我が治る。
それで光魔法が覚醒したことが発覚する。
にもかかわらず、攻略対象が5人いて必ずしも王太子と結ばれるとは限らない。
などなど。
「ふーん、お前は攻略対象は誰を選んだんだ?」
「一応全員クリアしたよ。そういえば攻略対象の5人にも監視がついているんだよね?」
「ああ」
「前世で読んだ物語だと王太子以外の攻略対象ってそんなに転生してなかったよ。なのに私のせいで監視されるってなんか申し訳ない……」
どちらかというとモブ転生が多かったような気がする。それもチートな。
「攻略対象者は過去に王太子以外は転生の記録がないというのは俺も聞いているけど、でも本人たちは監視されていることに気づいていないし、前世の記憶が蘇らなければ自由だし、それにそもそもお前のせいじゃないだろ」
「だって、ヒロインが誑かして有望な」
「だ・か・ら、お前のせいじゃないって! 今までの『ヒロイン』っていうヤツらが全員お前みたいに真面目なヤツなら監視する必要もなかったし、みんな普通に暮らせたんだ。お前だってある意味被害者なんだ。卑下するな。お前は開き直るぐらいでちょうどいい」
「レオンハルト……ありがとう」
「いや、まあなんだ……で、とりあえず、今は魔法が使えないんだな? 5歳の洗礼は受けたのか?」
「うん、受けたんだけど……」
「何かあったのか?」
「魔力量は測定不能なのに適性が低すぎるみたいで、対応した神官様が『あり得ない。勿体ない。勿体ない』って呟いてた」
「そんなに低いのか?」
「なんか風魔法なら微風が起こせるレベルだって。でも一応四大元素全部適性があるらしいよ」
「そっか……」
どう慰めればいいのかって顔してる。
「後で覚醒する光魔法に全振りしてるんだと思う」
「ぜんふり?」
「あっ、えっと、全部光魔法に適性が偏っちゃってるんだと思う」
「なるほどね。光魔法は魔力消費量が大きいらしいからな」
「でも、学園に行かないからイベントも起きないし、覚醒しないから神官様の言う通り勿体ないんだけどね」
「そっか、まあでも暇つぶしに四大元素魔法の練習でもするか?」
「えっ!? 教えてくれるの?」
「ああ、でも俺は厳しいぞ?」
「ありがとー!!!」
喜んだのも束の間、レオンハルトは本当に厳しかった。
「違う! もう一回!」
「ううっ、もうダメだ。私に構わず行ってくれ……」
「はっ? どういう意味だ?」
「なんでもないで〜す」
「魔力量無限なんだから大して疲れてないだろ?」
「『無限』だよ」
「……それは何をやっているんだ?」
片手で目を隠して親指と人差し指で「このぐらい」みたいなポーズをした私にレオンハルトは突っ込んだ。
「言ってみたかっただけです!」
前世の推しキャラNo.2のセリフだ。
あとは、推しキャラNo.1のセリフをレオンハルトに言って欲しいんだけど……。
「……」
あっ……せっかく教えて貰っているんだから真面目にしなきゃ。
レオンハルトの目が厳しくなったので目を逸らすと、彼の腰に下げた剣が目に入った。
「ねえねえ、レオンハルトは魔法も使える騎士様なんだよね?」
「……ああ、そうだが?」
「例えば、剣に火を纏わせて、剣をグワって回転させたら火がブワーって放たれるみたいなことってできるの?」
「グワとかブワーって……こういうことか?」
レオンハルトは事もなげにやってみせた。
おおーっ!!!
「すごい! すごい! レオンハルトかっこいいっっ!」
「別にこれぐらい大したことない」
と言いつつも満更でもなさそうなレオンハルトに(これはいける)と踏んだ私はさらにお願いをした。
「それの水バージョンもできる?」
「こうか?」
レオンハルトが水を纏った剣を回転させると、まるで龍が踊るように水流が円を描いた。
「キャーっ!!!レオンハルトカッコいいっ!!!『俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ』って言ってみて!」
「……」
あっ、調子に乗りすぎた。
レオンハルトのお陰で四大元素魔法を使えるようになった。