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私の物語


 私が教会に戻るとレオンハルトはいなかった。2日前に王都に向かったとの事だった。


 早速入団試験を受けさせて貰えるのかな?

 試験を受けさえすれば合格間違いなしだから……そのまま王都で暮らすのかな? 一旦戻ってくるのかな?

 お別れの挨拶は辛いけど、でもお礼はきちんと伝えたいな。


 レオンハルトがいなくなったので私には教会所属の聖騎士様が護衛につく事になった。

 シスター曰く「問題を起こしそうにないと判断されたも同然」らしい。



 そしてさらに1か月が経った。


 レオンハルトが宮廷騎士団の試験に合格したと神父様が教えてくださった。


 本当に良かった。


 もう会えない事に対する寂しさはあるけれど、その気持ちに嘘はない。


 領地経営のお手伝いの話はなくなるので今度街に買い出しに行った時にギルドを覗いてみようかな?


 シーツを干しながらそう考えていると、シーツに影が映った。


 一瞬また魔獣が出たのかと思ってドキッとしたが、人の形をしていたので安心して振り向いた……ら、先ほどよりももっとドキッとした。


「レオンハルト……」


 入団試験ダメだったの?

 それともお別れを言いに一旦戻ってきたの?


 すると私の心を読んだようにレオンハルトは言った。


「入団試験は合格したけど断った」


「はっ? えっ? なんでっ!?」


「元々入団する気なかったし」


「どうしてっ!? 宮廷騎士団に入団するのが夢だったんでしょ!?」


「昔の話だよ」


「無理しないで! レオンハルトの実力なら今からでも充分通用するじゃない!」


「無理してないよ」


「じゃあなんで受験したの? 諦められない夢だからでしょ?」


「合格した上で断らないといつまで経ってもお前が『宮廷騎士団に入団する夢を奪った』って引き摺るだろ? 俺の意志でほかの道を選んだんだってわからせるために受けた」


 レオンハルトの手が伸びてきて、私の手を取った。


 彼の綺麗な翠の瞳が熱を帯びて、心臓が悲鳴を上げる。


「ここを出た後も俺にお前を守らせてくれないか?」


 嬉しいに決まってる。

 頷く事が出来たらどんなに幸せか……。


 無言の私の顔を彼の両手が包み、親指で涙を拭ってくれた。

 思わず目を瞑ると、一瞬だけど唇に何かが触れた。

 目を開けるとレオンハルトの顔が間近にあって、口づけられたのだと気づいた。


 レオンハルトを両手で押して距離を取った。


「ダメだよ。私は『前世持ち』でしかも平民だもん。レオンハルトにはもっと相応しっ!?……んっ」


 先ほどよりも激しい口づけに言葉を封じられた。


 やっと解放されたと思ったら熱を帯びた目で見つめられた。


「好きだ」


「でっ、でも、やっ!?」


 拒否は許さないとばかりに再び言葉を封じられる。


 手で押そうとするけれど私だってレオンハルトが好き。形ばかりの抵抗だと思われたのだろう。彼の力が緩められることはなかった。


 そして名残惜しそうに唇が離れると抱きしめられた。


「シノンは何も心配しなくていい。俺を信じて全て任せて」


 彼はそう言うと額にキスを落とした。


 あれ? この感覚。

 数か月前に居眠りから目覚めた時に感じた額の違和感の正体は……。


 私が額を押さえながらレオンハルトを見上げると、彼はいたずらがバレた子供のような顔をして言った。


「ずっと好きだった」


 もう拒む事はできなかった。



*****



「シノン、そろそろ起きろ」


 今日もお気に入りの木の下でお昼寝をしていると優しい声に起こされた。


「ん……レオン……」


 寝起きの掠れた声にレオンハルトの息を吞む音が聞こえたと思ったら、唇に何かが触れ「チュッ」という音と共に離れた。


 ん……?


「えっ!?」


 思わず「がばっ」という擬音がぴったりの漫画みたいな飛び起き方をした。


 じっと見つめる私にレオンハルトは蕩けるような笑みを浮かべて


「おはよう」


 と言った。


 またしても漫画のような「ボッ」という擬音がぴったりくるほど顔が熱くなった。


 先日想いを伝え合って以来、まずは愛称で呼ぶように要求された。

 そして愛称で呼び始めると、今度はレオンハルトのスキンシップが激しくなった。


 流石に人前で口づけられることはないけれど、隙あらばと狙われている感満載だ。


「シノン?」


「あっ、おっ、おはよう……?」


 お昼寝だけど。


 レオンハルトが差し出した手に自分の手を乗せるとグイっと引っ張り起こされ、そのまま抱きしめられた。


「レ、レオン?」


「ん、シノンを充電してるからちょっと待って」


 充電って……言わんとすることはわかるけど恥ずかしい。


「はぁぁ、あと5か月と18日か……長いな」


 めっちゃ指折り数えてる。


 でもそう思ってくれている事が嬉しいのでおとなしく充電される。



 私の処遇については引き続きレオンハルトが側で見守ることになった。


 私が第3師団長のトゥバルト様にお話しした時がちょうど宮廷騎士団の入団試験の時期だったようで、今すぐ王都に来れば宮廷騎士団の入団試験を受けていいと言われたレオンハルトはすぐに王都に向かったらしい。


 レオンハルトが教会に戻ってきた1週間後に私の処遇を伝えにいらっしゃったトゥバルト様が、レオンハルトが試験を受ける前に「試験を首席で合格してみせるので、シノンのことは生涯自分に任せて欲しい」と願い出てくれたために私は1週間で帰る事が出来たとこっそり教えてくれた。


 思い出すと心がポカポカしてきた。私の方が充電されているような気がする。


 そして解放されると、どちらからともなく手を繋いで教会に戻った。


 一緒に教会を出るまであと5か月と18日。


 異世界転生して色々あったけど、私は幸せに生きています。



~fin~




この度は私の拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

この後はおまけの番外編を投稿していく予定です。

引き続きお楽しみいただければ幸いです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] シンプルで、良いお話ですね。キャラにも好感が持てました。 名前のある登場人物が少なく、大きな山がひとつだけ。わたしも短編を書くので、勉強になりました。 [一言] ゲーム転生その後の世界的な…
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