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物語は始まらないけれど……


 この世界はありがたい事に前世と同じ複式簿記が普及していた。

 そういえば前世でも14世紀ごろには既にあったとかなんとか聞いたような気がする。


 持ってて良かった簿記2級!

 お手伝いレベルなら2級あれば充分よね?


 試験範囲の改訂により1級の範囲が追加されて難易度が上がり「もっと早く取っておけば良かった!」と言っていたのが懐かしい。


 せっかく取ったのにすぐに転生しちゃって無駄になるかと思っていたのに、まさかまさか。

 得た知識は無駄にはならないのね。


 というわけで簿記については復習を兼ねて中級レベルからの授業となり、法律の勉強に重きを置くことになった。


 36協定みたいなものはないんだって。

 宮廷を筆頭にブラックっぽいから、そんな法律あったら自分たちの首を絞める事になるからだろうね。


 領地経営のお手伝いをする事になったら36協定は無理でも年休とか提唱してみようかな。


 それからレオンハルト曰く「女性の嗜みの一つ」であるダンスもなぜか練習の時間が設けられた。

 私は平民だから舞踏会とか出ないし必要ないと思うのだけど、レオンハルトが「覚えておいて損はない」と言うので習っている。


 もう一つの女性の嗜みである刺繍は教会でバザーなどが行われるので保護されてからすぐに教えてもらった。


 レオンハルトに何度か刺繍したハンカチをプレゼントしたのだけど


「……個性的だな」

    ↓

「まあ、上達の跡は見える、かな……」

    ↓

「おぉっ! ちゃんと鳥に見える!」


 とコメントからもわかるように一応上達したとは思う。


 そんな日常を繰り返していたある日、私たちは教会の所有する薬草園で薬草を採取していた。


 集めた薬草を使ってポーションを作る。

 私はゲームとは違って光魔法はとうとう覚醒しなかったのだけど、腐ってもヒロインだからなのか私が作るポーションは質が高いらしくポーション作りの担当になっている。


 レオンハルト曰く「覚醒して光魔法が使えるようになったら王都に連れて行かれるかもな。神殿預かりになるか、最悪王子の側室か妾にされるかも」とのことだった。


「『将来を担う若者を誑かし国を混乱に陥れる危険が高い者』って言われている人を王子に近づけるの?」


「3か月に1回神父様から国に報告がいってるのは知ってるだろ? シノンはもう殆ど危険人物だとは思われていないよ。このまま18歳になったら独り立ちできるだろうって言われている。でも側室や妾という形を取るだけで、実際に王子と会うことはそんなにないと思うけど……」


 離宮に隔離されて光魔法が必要な時だけ表に出るという事らしい。

 それなら神殿預かりでいいのにと思ったのだけど、稀少な光魔法使いの血筋は王家も欲しいんだって。

 それって夜の営みだけは相手をしないといけないって事?

 うわっ、最悪。


「そうなんだ。でももし問題を起こしそうにないのが演技だったらどうするの?」


「お前が演技なんて無理だろ。不器用だし」


「そっ、そんな事ないよ! 不器用なふりしてるだけだもん」


「へぇー、ソレハスゴイデスネ」


「何、その棒読み!」


「はいはい」


 流された。悔しい!

 

 でもそういう事であれば覚醒しなくて本当に良かった。


 ……まさかこれがフラグになろうとは。



 採取した薬草を籠に入れていると、突然影が差した。


 斬撃音の聞こえた方を見るとレオンハルトが私の前に背を向けて立っていた。

 顔は狼で鷲の前足に羽を持つ魔獣か魔物かわからないけど、その鋭い牙をレオンハルトが剣で受け止めていた。


 左からもう一匹が襲い掛かって来たが、レオンハルトは慌てることなく右手の剣で受け止めたまま、左手で魔法を放った。


 至近距離からの攻撃をまともに受け下半身がほぼ消失しているにもかかわらず鋭い爪の生えた手をレオンハルトに向かって振り下ろした。

 レオンハルトが涼しい顔でもう一度魔法を放つと魔獣か魔物だった物は灰になって散った。


 そして剣で受け止めていたもう一匹にも魔法を放つと同じ様に灰になって散った。


 レオンハルトがとても優秀で期待されていたということはシスターから聞いていたのだけれど、こうして目の当たりにして改めて痛感した。


 私はレオンハルトの輝かしい未来を奪った。


『教会を出た後も会えるんだ』なんて、よくもそんな図々しいことを思ったものだ。


 罪悪感で顔が歪み震える手を押さえている私をレオンハルトは魔獣か魔物に怯えていると思ったみたいで


「シノン。もう大丈夫だから」


 そう言って抱きしめて背中をぽんぽんと叩いてくれた。


 懐かしい……昔はよくこうしてくれた。

 でももう甘えてはいけないね。


 レオンハルトが私の監視を卒業する時、彼は24歳だけど、彼の能力なら遅すぎることはないと思う。充分宮廷騎士団でやっていけると思う。

 そして実力を認められて彼に相応しいご令嬢と一緒になる。彼なら引く手数多だろう。


 私はそっとレオンハルトを押して距離を取った。


「ありがとう。もう大丈夫」


「……そうか。一度教会に戻ろう。みんなにしばらく外に出ないように伝えないと」


「そうだね」


 教会まで無言で走った。




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