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この世界の転生事情

「シノン、そろそろ起きろ」


 今日も額に違和感を覚えながら優しい声に起こされる。


 お気に入りの大きな木の幹に体を預けて本を読むのが日課。

 季節はすっかり秋だけど暖かな空気に包まれて、心地よくてつい居眠りをしてしまった。


 私は男爵令嬢だったのだけど、訳あって今は平民になり王都から離れた教会で暮らしている。

 

 事の発端は私が10歳の時。

 高熱で1週間眠り続け、その間に前世の記憶が蘇った。

 

 目が覚めた私が部屋の中をキョロキョロ見回したり、自分を鏡で見て目を見開いたりと、転生ものあるあるの行動をしているとメイドに「もしかしてお嬢様も転生者ですか?」と聞かれて思わず「貴方も!?」と言ってしまった。


 これが引っかけだとは知らずに。



 この世界では「前世持ち」がたまに現れるらしい。


「前世持ち」は進んだ知識を持っていて国に発展をもたらす者もいれば、将来を担う若者を誑かし国を混乱に陥れる者もいるので、存在を確認した場合はすぐに確保することになっている。


 だから私が目覚めたのは自分の部屋だったのだけど、メイドとして潜入していた「前世持ち担当」の前述のセリフに見事引っかかり、速攻で確保されて教会で手厚く保護という名の監視をされることになった。


 なぜ担当者が既に潜入していたのかと言うと、先にとある公爵令嬢が転生者だという事が発覚し、彼女からゲームの内容と登場人物を聞き出してそれぞれに監視をつけていたんだって。


 ゲームをした事のない転生者の場合はどうするんだろう?

 興味本位で聞いたのだけど国家機密で教えてもらえなかった。

 同年代の王子や男爵令嬢に手当たり次第監視をつけるのかな?


 公爵令嬢が転生者の場合は我儘だった子が優しい子になることが多いので、転生者であることを隠そうとする親もいるみたいなのだけど、今回の令嬢は公の場で思い出したので目撃者が多くて隠せなかったらしい。


 それとは反対にヒロインの場合は優しい子だったのが危険人物になることが多いみたいで、必ず確保されるんだって。

 私は逆ハーとか全く興味のない、一途なタイプなのに……。


 ちなみに「シノン(紫音)」は前世の名前。

 こちらでは別の名前があったのだけど、こちらの両親から名乗らないでって言われたの。

 私はその子を奪った悪魔なんだって。


 私が転生したことで両親だけではなく、たくさんの人に迷惑をかけてしまった。


 通常は騎士団を引退した人などが監視に付くのだけど、今回のヒロイン、つまり私はゲームの中では光魔法の使い手で、魔力量無限、最高位攻撃魔法を使用するということで、もし危険な人物だった場合に対応できる様にと能力の高い騎士が付けられた。


 レオンハルト、先ほど私を起こした声の主だ。


 代々騎士の家系の侯爵家三男で、騎士養成学校を首席で卒業して宮廷騎士団に入団が決まっていたのに、私が確保されたために急遽私の監視に任命されたんだって。


 宮廷騎士団に入って将来近衛騎士になりたかった彼は、最初とても不機嫌だった。本当に申し訳ない。


 でも今はとても優しい。

 彼は何も言わないけど、私が居眠りしている間、風邪を引かないように魔法で私の周りの空気を温めてくれていることは知っている。


「どうした?」


「んっと……もう7年経つんだな〜と思って」


「あぁ、そうだな……」


 現世の私はつい先月17歳になった。


 ゲーム通りなら昨年の春から学園に入学するはずだったのだけど、私も公爵令嬢もそれぞれ別の教会で保護されているので物語は始まっていない。


「シノン、そろそろ先生が来る時間だぞ」


「は〜い」


 毎日午後に家庭教師(教会教師?)が来て勉強を教えてくれている。

 以前は週3だったのだけど、半年ほど前から新しい授業が増えて週5になった。


 魔法はレオンハルトのおかげで四大元素魔法を使えるようになった。

 ちなみに、イベントの発生により光魔法が覚醒するタイプのヒロインだったので、イベントが起きていない今の私は光魔法が使えない。

 

 それ以外はシスターのお手伝いをしたり、教会のお掃除をしたり、孤児たちのお世話をしたりしている。


 18歳になった時に問題を起こしそうにないと判断されたら独り立ちできるので、今のうちに色々と経験させて貰っている。

 ちなみに15歳以上で前世の記憶が蘇った場合は発覚した日から5年間教会で監視され、5年経過時点で問題を起こしそうにないと判断されれば独り立ちできるらしい。


 独り立ちできたら結婚もしていいんだって。


 チラッと隣を歩くレオンハルトを見た。


「どうした?」


「レオンハルトは将来どうするの?」


「なんだ? 急に」


「私の監視につくことになったせいで、その、色々と申し訳なかったなと思って」


「何がだ?」


 レオンハルトは私の監視に就く事になった時に婚約も解消したらしい。

 噂好きのシスターから教えられた。


「まだ、その……なんでもない」


 まだその人のことが好きなの?


 怖くて聞けない。

 もしそうなら本当に申し訳ない。


「何を気にしているのかわからないけど、しっかり勉強してくれよ。将来、領地経営を手伝って貰うんだからな」


「はい……んっ? えっと、どういう意味?」


「父が早めに引退すると宣言したみたいで、兄から領地経営を手伝えって言われてるんだよ」


「騎士は辞めちゃうの?」


「俺はシノン専属の騎士だから。シノンが独り立ちすれば俺も騎士は卒業するよ」


「そう……」


 レオンハルトの宮廷騎士団の夢を奪ってしまった。

 申し訳なくて顔を上げられずにいるとレオンハルトの大きな手が私の頭をちょっと乱暴に撫でた。


「なんて顔してるんだよ。俺はもう先のことを考えて動き始めているんだから気にするな」


「うん……」


「そのためにお前に新しい教師つけたんだからな」


「えっ? あっ、簿記と法律……そっか経営のお手伝い」


 独り立ちした時にギルドなどで働けるように取り計らってくれたのかと思ってた。

 お手伝いということは教会を出た後もレオンハルトに会えるんだ……


「ほら、行くぞ」


「あっ、待ってよ」


 嬉しくて笑顔になった私はレオンハルトの大きな背中を追いかけた。



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