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刻舟求剣エッセイ

運命の出会いをした。

作者: イトウ モリ

 運命の出会いをした。


 実はこういう出会いが、割とよくある。


 そして、その出会いが運命だと感じた直感は、だいたい外すことはない。


 本屋で。

 図書館で。

 ネットで。


 出会った瞬間、鼓動が高鳴るのを感じる。


 目を離すことができなくなり、もう我慢できずに言葉が口をつく。


「……ねえ、よかったら僕の家に来ない……?」


 彼女(彼でも可)は僕に向けて妖艶に微笑むとこう答える。


「いいわよ。でも……乱暴なことしないでね……?」


 僕は喜んで答える。


「もちろんさ!」



 僕は彼女(彼でも可)を家に連れ帰ると、甘い時間を共に過ごす。


 たまに夢中になりすぎると、お風呂にも連れていって、のぼせるまで同じ時間を過ごしたくなる。


 仕事に行くときも離れたくなくて、カバンの中に閉じ込めて連れて行く。




 そう、これは本の話。



 人間相手に運命の出会いを感じたことは未だかつてない。

 しかし本にかけては、出会いに恵まれているという自信がある。


 どの出会いも自分にとっては、大切で、かけがえがなく、愛しいものだ。


 今回の出会いも、ただの偶然だった。



 年度末、押し寄せてくる情報の波に溺れ、脳みそが完全にオーバーヒートしていた。実は今もまだ本調子ではない。


 そんな茹だった脳みそで、過去の実話をツギハギにして仕上げた作品がある。妄想変態薬剤師――穴についての検討会。


 まったく中身のないくだらない作品なので、読む必要はないし、宣伝のつもりもまったくない。あくまでも経緯としての紹介だ。




 読む必要はない。


 繰り返すが、大した話ではない。本当に読まなくていい。


 ……いいか? 絶対読むなよ? 読むんじゃないぞ?




 と、まあ冗談はこれくらいにして。




 その作品の冒頭で、主人公が穴についてのモノローグを語る。


 せっかくだから、そこに実際に『穴』を取り扱った文学のパロディでも挿入しようと思ったのがきっかけだった。



 そこで彼と出会った。


 ルイス・サッカー。


 作品タイトルはまさに『穴』。原題:HOLES。


 一言では表現しきれない、とても素晴らしい作品だった。


 当然、素晴らしい作品を冒涜したくはなかったので、拙作に挿入はしなかった。というより、そんなことを忘れてしまうくらい読むのに夢中になった。


 ニューベリー賞を受賞しているので、ご存じの方もいるかもしれない。アメリカでは、子どもたちに絶大な人気があるのだとか。


 恥ずかしながら自分は知らなかった。彼の作品を一つも読んだことがなかった。


 とてももったいなかったと思うし、その反面、出会えた幸運にとても感謝している。


 伏線の張り巡らせ方が緻密で、徐々に伏線が繋がり出す後半は圧巻だ。ページをめくるのがもどかしく感じてしまうほどに。


 あらすじを紹介しよう。


・・・・・


 主人公のスタンリーは無実の罪で、少年矯正施設であるグリーン・レイク・キャンプへと送られてしまう。


 スタンリーの一族は、不運な呪いにかけられていた。

 それはあんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんのせいでかけられてしまった、代々受け継がれる不幸の呪いだった。


 無実の罪でつかまってしまったのも、その呪いのせいだ。スタンリーはそう信じていた。



 グリーン・レイク・キャンプには(レイク)はない。荒れ果てた不毛の大地で、少年たちは穴を掘らされる。労働は健全な精神を宿すと信じている大人たちの幻想によって。


 しかし、物語が進むうちに、施設長が少年たちに穴掘りを強いるのは、別の理由があることが分かり始める。施設長が執拗に探し続けているものの正体とは――……?


・・・・・


 各所に挿入される、あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんの話や、かつて大きな湖があった頃のグリーンレイクの町の物語。


 あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんにかけられた呪いによって、大金持ちになった途端、無法者に身ぐるみはがされた、ひいじいさんの話。


 そのひいじいさんの身ぐるみをはいだ、無法者<あなたにキッスのケイト・バーロウ>の過去――。


 すべてが一本の線に繋がったときの感動と衝撃は圧巻。そして読了後には、心が洗われたような爽快感。


 すごい。本当にすごい……。


 こんな物語が描けるようになりたい。自分が目指すのはここだ。この人なんだ。自分の中に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。


 巻末解説でまさかの森絵都登場によって、さらにうおおっと興奮。


 緻密な伏線という鮮やかな枝葉に目を奪われがちだが、確固たる根幹があってこその枝葉である、と森絵都は解説で語った。


 そう! そうなんだよ! 芯なんだよ! 文章や構成のテクニックだけじゃないんだよ!

 スタンリーが、自分の弱さと向き合い、もがき、戦って、強くなっていく、その熱いテーマがいいの! さすが森絵都さんっっ!


 ひとり解説を読みながら、悶える自分。


 ちなみに今、二周目を読み始めている。


 一周目では気づけなかった伏線を発見し、また違ったドキドキとワクワクの興奮と感動を感じ、楽しく読んでいる。


 いい作品は何回読んでも飽きない。


 大人になってから読む児童文学、おすすめだ。


 最近、心がすさんでるなあと思ったあなたは、是非いかがだろうか。




・・・・・


 おまけ。


 ルイス・サッカーの別作品。『泥』 原題:fuzzy Mudも読んでみた。


 これも良かった! これは少女が主人公のエコ・バイオテラー.ミステリー・スリラー・コメディ(簡潔に言うとパニック小説)だ。この呼び方は作者本人公認らしい。



 別の時間、場所で展開する二つの物語が、進行とともに徐々に近づいていく演出が、もう、うわぁぁぁぁ……! ってドキドキしてくる。


 さらに、各話のラストに記述された数式の意味が分かった瞬間、うわぁぁぁ……! ってなる。(痛恨の語彙不足)


 個人的にすごく好きなのは、物語の序盤にある人物が主人公へ、とても恐怖を与える発言をする。そのセリフがラストでもう一度出てくるのだが……。

 やっぱり、うわぁぁぁ……! ってなる。(いい意味で)


 それがもう! 関係が変化すると、同じ言葉なのにこんなに温度が変わるのか!! という、すごく好みな描写。いつか自作品でも取り入れたい!! この演出、マジで好き!! これゼッタイ目標!! (大興奮)


 他にも誰かルイス・サッカーを読んでくれたらいいなと思い、柄にもなく本の紹介文を投稿してみてしまった。


 ネタバレに配慮しすぎて、あんぽんたんでへっぽこりんな紹介になってしまったのはご容赦願いたい。



 それでは素敵な読書ライフを!

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