・砂漠に肥沃な耕作地を作ろう 2/2
「おい、何やってる……」
「あ、おかまいなく……」
そんなこんなでまたラクダに揺られて、ぼんやりと空と白い砂漠を見つめてゆくと、メープルが何やら怪しい挙動を始めた。
いや怪しいというか、何を考えたのやらラクダの上で、その体をグルリと反転させたのだ。
先ほど一度降りたときに、彼女は俺の前に座り直したので、俺たちは身体の正面と正面を向け合うことになった。
「お構うわ。もう一度聞くぞ、何やってんだ……」
「私、衝動に任せて行動してるから……そう聞かれると、少し返事に困る……。ふぅ……でもやっぱ、こっちのが、落ち着く……」
小さなエルフは人の肩に顎を置いて、ガッチリと人の胸にしがみついていた。
いや、こっちは全くといって落ち着けないんだが……。
「そうか、もう好きにしろ……」
「嬉しいくせに……」
「否定はしない。だが人に見られたら赤っ恥だぞ……」
「通報、されたりして……。プッ、ウケる……」
「いや笑えねーよっ?!」
だがこっちの方があったかいし、やわらかくて、いい匂いで、落ち着くかと言われたら、段々と落ち着いてくるから不思議だ。
もう彼女の好きにさせて、俺は砂漠の彼方だけを見つめた。
ニーアのプランは面白いが、こうして調査してみると大きな問題が発覚した。
それは川沿いを離れると、耕作に適さない砂の土地がどこまでも続く点だ。
つまりこれでは、かなり長大な用水道を作らなければならなくなる。
「あ、ユリウス……大変……」
「もう大変なことになっている気もするが、どうした?」
「あそこ、砂漠じゃないっぽいよ……?」
「おっ、おおっ……よし行ってみるとしよう!」
「うんっ! 私、テンション、上がってきた……!」
「ぐっ……そんな強く抱きつくな、苦しいだろ……っ」
メープルの視線を追うと、白ばかりだった世界に微かに赤茶の色合いが混じっていた。
ラクダを走らせてみるとかなりの面積だ。だがわかってはいたが川からだいぶ遠いようだ。
さらに進むと、俺たちは広大な赤土の大地にたどり着いていた。
「パサパサの、カチカチだね……」
「そりゃ水気があったら既に誰かが畑を作ってるだろ」
どうやらこの辺りは窪地のようだ。水は高い場所には上っていかないので、距離という難点こそあったがなかなか理想的だ。
しばらくその赤土の大地を探索してから、窪地を出てみれば氾濫川は遙か彼方だ。
見たところ距離にして1.5kmくらいはあるだろうか。
水路を造るにしても、2mの長さの土管750本分だ。製造から敷設工事まで、これは生半可な作業ではなかった。
だが、この広大な耕作地面積は魅力的だ。
上手く水を運ぶことができれば、シャンバラの食料自給率を大幅に改善し、迷宮以外の働き口を増やすことになる。
「ユリウス……ここ、かなりいいかも……」
「奇遇だな、俺もそう思った。ここならスラムの連中の働き口にもなりそうだしな」
学も知恵も武勇もない者は、商人にも冒険者にもなれない。
だが余剰の畑があれば話も変わる。
「昔の友達、ここに連れてきたい……。まだあっちで、くすぶってるから……」
「その前に水を通さないと始まらんがな」
スラム育ちのメープルにとっても、やりがいのあるプロジェクトのようだ。
「興奮してきた……。そうだユリウス、キスしよ……?」
「んなっ、何言ってんだよっ……?! お前っ、お前衝動のままに生き過ぎだろ……っ?! ちょ、本気かっ、本気なのかっ、ちょっ、ちょぉぉっ?!」
「逃げるな、ベイベー……」
「砂漠のど真ん中で襲われる側にもなれよっ?!」
「だったら……旦那にキスを拒まれる、新妻の、気持ちにもなって……?」
「う……っ」
「あ、隙あり……」
「んむっ!? むっ、んむぐぅぅーっ?!!」
俺がこいつとのキスを拒むのには相応の理由がある。
こっぱずかしいのもあるが、最大の理由は、さも当然と舌を入れてくるからだ……。
俺は小柄で年下で世にも愛らしいエルフの少女に、超テクニックに、男児の尊厳を蹂躙された……。
「ん……んん……っ。ぷはっ……はぁぁ……っ、えかった……」
「ぅ、ぁ……ぅっ……くっ……」
「やっぱりユリウスは、反応、面白いから好き……」
抗議の言葉も出なかった。
少女はうっとりとした表情で蹂躙された俺を見ると、甘えるようにまたしがみついた。
「もう少し、調査するぞ……」
「おっけー……。飽きたらセクハラ……旦那に、セクハラ……?」
「旦那相手でもセクハラはセクハラだろ……」
片手で手綱を引きながら、ギュッとメープルの背中を抱き締めて再び砂漠に出た。
すると途端におとなしくなるから不思議だ。相手が退けば踏み込んでくるが、逆に踏み込まれると弱い。こいつはそういうやつだった。
「恥ずかしい……」
「あれだけやっておいてよく言う……」
それからかなりの距離をラクダに歩かせて、太陽が高く昇ってフードが必要な日差しと気温になると、まあこんなものだろうと調査の結論が出た。
候補地はあそこしかなさそうだ。
つまりは場所をどこにするにしろ、最低で2mの土管750本分が必要だということだった。




