・白百合来る
闇の迷宮があったあの神殿から、奥へと10mほどの場所が光の柱の発生源だったようだ。
既に怪異が収まっているのに、なぜわかるのかと聞かれれば、そこが爆心地だったからと答えるのが適当だろうか。
元は荒れ果てた庭園だった場所が、今では地表ごと吹き飛んでいて、陥没した地中より石の寝台と、13体のエルフ像が現れていた。
そしてその寝台に、白いエルフが横たわっているのだから、俺たちは驚きに言葉を失ってしまっていた。
「あら大変っ、あの子、傷だらけじゃない!? 早くタマタマ食べさせてあげなきゃっ!」
「タマタマゆーなって言ってんだろが……」
俺たちはラクダを下りて、さらにその陥没の中へと下りた。
そこにいたのは、剣と弓を持った青い髪の女性だった。
その白い肌は一般的に知られるエルフのもので、彼女は俺たちが駆け寄ると意識がよみがえったのか、弱々しく薄目を空けた。
「ぁ……ここ、は……」
「大丈夫っ、何があったのっ!?」
「お願い…………を……助け……助け、て……」
「おい、本当に大丈夫か、おいっ!?」
その女性が弱々しく何かを言い掛けた。だが上手く聞き取れない。
彼女はそれっきり目を開けず、俺たちに容体を心配させた。
「何やってんのよっ、坊やのタマタマ出しなさいよっ! あたし今日タマタマ持ってないのよぉっ!」
「大声でタマタマ、タマタマ、タマタマゆーなっ!!」
俺は一部の淑女にご好評の、丸くてぷにぷにのエリクサーを取り出した。
断じてこれはタマタマではない……。
タマタマなら持ってるだろうがこのカマ野郎と、まかり間違っても突っ込んではならない……。
「さ、貴方が与えなさい」
「……は?」
「ほら水筒よ、口移しで飲ませてあげなきゃ死んじゃうかもしれないわ。早くなさい」
「ちょっと待て……。なんでその役割を俺がやらされるんだよっ!?」
「決まってるじゃない。オカマの口付けと、若い男の子の口付けじゃ、あたしなら断然後者よ!! はーやーくーしなさいよっ!!」
なんて説得力のある言葉なんだ。
俺は医療目的だと腹をくくって、とにかく急げとエリクサーを噛み砕き、美味しくてついそのまま食べてしまいたくなるのを堪えて、さらに細かく噛み砕く。
それから少量の水を含み、青い髪のエルフの唇へと自分のものを重ねると、少しずつ薬を彼女の口腔へと流し込んだ。
「ん……んっ、ぁっ……ぅ……ぅぁ……」
何せ相手が気絶しているので、処置には時間がかかった。
甘い声が聞こえたような気がしたが、聞こえなかったことにした。
「このことは内緒な……」
「はぁ……♪ いいもの見れたわぁ……んふふ、燃え上がっちゃう♪」
「鎮火させとけ。それより人を呼んでくる、この女性は任せたぞ」
「あら、あたしにいってらっしゃいのチッスわぁ……?」
「あるわけねーだろ……。若者をからかって楽しいか……?」
「坊やとのお喋りは最高に楽しいわ♪ さ、急いで。いってらっしゃい」
間違いない。コイツ、シャンバラで一番濃いわ……。
俺はしかめっ面に苦笑を浮かべてから、亜空間の中へと身を投じた。
「ミャァーッ、また痴漢男が現れたニャァッ?!」
「また着替え中だったのか、久しぶりだな」
「出てけニャァッ!」
「そうはいかん。2、3名の人員をゾーナ・カーナ邸まで頼む。出来れば医療経験のあるやつがいい」
「わかったから出てくニャァッ!!」
「そう言われても胸毛しか見えん」
近隣のオアシスに転移して、兵舎に協力を求めると二つ返事で人員を割いてもらえた。
こうしてローラー作戦の片隅で、白いエルフの女の子が保護された。
・
見つかった迷宮の数は、今日だけで37に達した。
これならば、都市長の狙い通りに、欲しい素材をピンポイントに狙うことが出来る。
生産量はあまり変わらないが、選択肢の広がりという意味では大躍進だった。
しかし――
光の柱と共に現れた謎の少女は、翌日になっても昏睡状態から目覚めることはなかった。




