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・オカマさんと一緒! 2/2

「あらそう……坊やも苦労してたのね。お師匠さんには感謝しないといけないわね……」


 カマカマ野郎は二人でゆっくりと話してみると、包容力があるというか、面倒見の良いやさしい姐さんだった。

 彼女(?)と話していると不思議と言葉があふれてきて、俺はどうでもいいプライベートまで話のネタにしてしまっていた。


「ああ、飲んだくれの師匠が城下町をほっつき歩いて、たまたまそこに通りすがった子供に魔法の才能を見出さなければ、俺はここにはいなかった。下手をすれば他の孤児みたいに、都市に寄生するギャングになっていたかもしれん」


 運が良くて職人。悪くてその日暮らしの宿無し労働者。最悪は10代で命を落とすギャングの道だ。


「うふふ……坊やは、お師匠様を意識し過ぎなのよ」

「俺がアイツを意識……? まあ、意識せざるを得ない厄介な人なのは間違いない」


「でもね、坊やの話を聞いた限りだと、アタシはこう思ったわ。貴方はお師匠様のことをとても尊敬しているのよ。だから今のだらしない姿にイライラしちゃうの」


 言い当てられたようでギョッとした。

 確かにそうだ。俺は師匠を尊敬している。だからこそ、今の姿に納得がいかない。昔はもう少しまともだった。


「アルヴィンスは、昔は本当に立派な男だった。それが今では――って、どこ触ってんだ……」

「だってほらぁ、うふふ……落ちたら危ないじゃなぁい? あたしが、ユリウスちゃんを守ってあげないと♪」


 ラクダに揺られながら、俺が前に座って銀の導き手を構えて、カマカマ野郎が手綱を握っている。

 そのカマの片手がなぜか俺のふとももに置かれていた。


「安心して。アタシ、ノンケには手を出さない主義よ」

「現在進行形で出してるじゃねーかっ!!」


「オホホホ、こんなの愛撫みたいなものよ」

「愛撫ってなんだよっ、そこは挨拶って言えよっ!?」


 一緒に騎乗して一つわかったことがある。

 この受付、なぜ冒険者として前線に立っていないのか理解不能なほど、極めて鍛え上がった身体をしている……。


 取っ組み合いになったらお前は勝てないと、隆々としたその体躯が俺に告げていた。


「それで、お嫁さんたちとはどうなの? まだ手を出してないんでしょう?」

「そうやって断定するな……」


「そんなの見ればわかるわよっ! くっついたり離れたりする思春期のカップルみたいで、んもぉーっ、甘酸っぱいんだからもうっ♪」

「人の背中で、腰をカックンカックンさせんな……っ」


 肘でヤツのわき腹を突いても、鋼の筋肉に跳ね返された。

 それでもしつこく抗議の肘鉄を何度か入れると、やっとこさ落ち着いてくれた……。


「あらやだ、アタシったらつい……♪」

「次は俺が後ろに乗るわ……」


「えっ、アタシを後ろからどうするつもり……?」

「どうもしねーし……」


 なんてバカなことをやっていたら、銀の導き手から目を離してしまっていた。

 これはローラー作戦だ。迷宮の見落としはシャンバラの未来のために許されない。


「あのね、ユリウスちゃん。メープルとシェラハゾちゃんのことだけど……2人ともね、ユリウスちゃんが男気を見せてくれるのを待っているはずよ」

「……そうなのか?」


 許されないのだが、その話は興味の絶えないところだった。


「そりゃそうよっ!? だって結婚したんでしょう!? 甘ぁぁい生活に期待しているに決まってるじゃない!!」

「そ……そうか……」


 俺はこれまで女性と付き合ったことがない。


 国に仕える魔導師として仕事漬けであったし、国も俺たちが世俗と交わるのを推奨していなかった。

 だからよくわからん……。


「だがあの2人は俺にはまぶしすぎる。俺は2人の笑顔を見ているだけで幸せだ」

「何ちっちゃな男の子みたいなことと言ってるのよぉっ!? 襲っちゃいなさいよっ!!」


「んなこと出来るかっ、このアホーッ!!」

「うふふふふふ……んもうっ、もうダメッ我慢できないっ! ユリウスちゃん……んもーっ、かわいわぁーっっ♪」


「あっこらっ、カマカマ野郎っ!? カックンカックンさせんなって言ってんだろっ?!」

「いいのよ、いいの……アタシが手取り足取りレクチャーしてあげるわ……。さあ、お尻を上げごらんなさ――んなんじゃアリャァァッッ?!!」


 己の背の上で暴れるオカマ野郎を、ラクダはさぞ迷惑に思っていただろう。

 ところそのオカマボイスが低く雄々しい絶叫に変わった。


 それもそのはずだ。

 俺たちの持ち場は『闇の迷宮』があったあのゾーナ・カーナ邸の周辺だった。


 そのゾーナ・カーナ邸の跡地に、突如として天から青い光の柱が降り注いだとあれば、誰だって驚く。

 通常はここまで雄々しく立派な声にはならないだろうが……。


「ダウジングは中止だ、行くぞ!」

「あらやだ、強引ね。でも、そうね……」


 俺は銀の導き手をしまい、彼の手にあった手綱を横取りして、ラクダを光の柱に向けて走らせた。

 カマカマ野郎の方も切り替えが早かった。


 コイツ、受付になる前はどこで何やってたんだろうな。

 すぐにこれがヤバい事態になる可能性を察していた。


「ラクダって遅いな……。気が変わった、転移するから下ろしてくれ」

「バカ言わないで。あのときだって坊やはあそこで死にかけたじゃない。あそこにやつらの群れが待ち構えていたらどうするのよ?」


「なるようになる」

「ダメよ、そんなの水くさいじゃない。さ、しっかり――掴まっていやがりなさいよっ! オラァァーッ、ちんたら走ってるんじゃねぇわよっ!! ケツにモロヘイヤぶっ刺すわよっっ?!!」


 カマの気迫に恐怖したラクダは、さっきまでの速度が嘘のような爆速で砂塵を立てて駆け抜けていった。


「アンタ、地の声の方がカッコイイぞ」

「嬉しくねぇわよっ!!」


 非常事態だというのに、ついつい俺は笑ってしまっていた。

 いつかこいつが喜ぶこともしてやりたいな。

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