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・小麦色の時間

 山のないシャンバラでは、夕空一つにしても異国情緒にあふれている。

 砂丘の彼方に浮かぶ太陽は異様に紅く巨大で、その琥珀色の輝きがオアシスの国をいつまでも照らし続けていた。


 ツワイクの草原や森林が少しだけ恋しい。

 乾いた空気と、夕方の快適な気温に、隣を歩く少女がマントを脱いであられもない姿をさらしてもいた。


 一皮むけばまるで酒場の踊り子のようで、小麦色の肌がまぶしく目のやり場に困った。


「ん……発情してる……?」

「するわけないだろ……っ。いいからお子様はマント着ろっ」


「やだ……。へへ……視線が快感……」

「そういう目では見てないってのっ!」


「これは異なことを……。ユリウス、私のお尻と足と胸と首筋、見てるよ……?」

「それは……め、目に入るからだっ!」


 砂漠を抜けて、俺たちは市長邸へとやって来た。

 (くだん)の錬金術工房は、広大な市長邸の一角にあると今さら教えられたからだ。


 場所を知れば俺が勝手に動くと踏んで、姉妹も都市長もわざと黙っていたのだろう。


「工房の建設も、都市長のお金……」

「あの爺さん超金持ちだな」


「まあね……。あ、ほら、あれだよ、ユリウス……」

「おお……」


 オアシスにそって市長邸の裏に出ると、その先に工房というよりも小さな神殿めいたものが立っていた。

 それは美しいオアシスのすぐ隣に立てられており、ヤシ科や背の低い草木にも囲まれた一等地も一等地だった。


「元々は、古い神殿……。お花の種は、私たちがまいたの……」

「年季が入ってるわけだ。いや、期待以上だ」


 建物の周囲には白い脊柱が立ち並び、さらには花々が咲き誇っていて非常に優雅だった。

 その神殿あらため工房に、真新しい白亜の家が増設されている。


 近付いてみると、2階には眺めの良いバルコニーまで用意されており、あまりの好待遇にこっちは臆病風に吹かれかかった。


「お帰りなさい、ずいぶんと歩き回っていたみたいね」


 神殿――もとい、工房の扉を開いて中に入ると、外で俺たちを見つけて追ってきたのか、姉のシェラハゾが背中に立った。

 彼女も昼に身に付けていたマントを脱ぎ捨てて、胸から上と、脚から下が露出するトーガを身に付けていた。


「これは……お姉ちゃんの、おっぱい見てるね……」

「ぇっ……?!」

「み、見てねーよっ?! いや見たけどっ、そういう目では見てねーってのっ?!」


「フフ……。その動揺が、上の口よりもずっと、素直によく喋る……」

「は、はしたないかしら、この格好……」


 マントに覆われた胸部がここまで豊かだったとは思わなかった。

 恥じらいに身をよじるその姿からは、俺だって胸の高鳴りを感じており、つまりは全てが都市長の思う壺だった。


 このままではジワジワとその気にさせられて、婚姻という最も重い契約を結ぶことになってしまう……。


「人にどんな目で見られようと、本人が快適な格好をするのが一番だと俺は思うぞ」

「むふふ……ユリウス、グッときたって……」


 見惚れたのは事実だが、お前は余計なことを言うな……。

 ブロンドの美しいエルフが慎ましくも恥じらう姿は、俺が過去に体験したことない衝撃の一つだった。


 つまり意訳すると――不覚にも俺は彼女をかわいいと思ってしまった……。


「それより工房を案内してくれるか?」

「そ、そうね……任せて」


 シェラハゾは小さなライトボールの魔法を使って、まだ照明のない工房を明るく照らした。

 壁には修復の痕跡がある。工房としての設備は未完成で、ほとんど何もないも同然だった。


「これは台座と水槽か……。あの工場を模倣するつもりなのか?」

「ええそうよ。後で貴方の意見も聞かせてちょうだい」


「いいぞ、俺の知ってることならなんでも教える。これでも自分で設備をメンテナンスしてたからな」

「ふふ、頼もしいわ。やっぱり貴方を選んで正解だったみたい」

「姉さんとの、相性も……いい感じ……」


 仕事の話に割り込むなと、あの都市長さんに教わらなかったのだろうか。

 マセガキの後頭部を軽く叩き、設営途中の設備を俺は物色した。


 床に大きな水槽を作り、台座の上にオーブを配置する様式だ。

 完全に再現できるかはまだわからないが、俺もこの様式が最も慣れてもいた。


「ところで、今までどこに行ってたの?」

「1号迷宮だ」


「そうだったの、お疲れ様……えっ、迷宮っ!?」

「姉さん……この人、とんでもないよ……」


 キマイラ討伐はなかなかいいストレス解消になった。

 次こそはレアドロップを手に入れたいところでもあるし、また遊びに行くとしよう。


 そうだ、次はソロでもいいな。そうしよう。


「しかしさすがにあのポーション工場を再現するのは、かなりの日数を要するんじゃないか?」

「そうね……。でもそれでも、あたしたちは急いで完成させなければいけないわ」


「昔ながらの方法でいいなら、杖と釜があれば始められるぞ」


 一度もポーションを完成させたことのない俺が言うのも変だが、3年も仕込みを手伝わされたんだ。

 俺ならばきっと出来る。


「本当? だったら明日すぐに手配させるわ」

「ああそうそう、1号迷宮のキマイラなら俺とメープルで片付けておいた」


「あらそう、それは助か――ええーっっ?!」

「だから言ったでしょ……この人、とんでもないって……」


 満足したので俺は視察を終えて立ち上がり、銀と金の対照的な姉妹と向き合った。

 こんな格好をした女の子と一緒にいるだけで、ますます別世界に迷い込んだ気分になってくる。


「あ、姉さん、これ見て……。キマイラ倒したら、これがドロップした……」

「あら綺麗……。あれ、だけど、これって……」


「うん……これ、運命の、巡り合わせかも……。これが私で、これがお姉ちゃんで、あとこれが……。それに大きさも、ちょうどいい……」

「そ、そうね……。凄い偶然……」

「なんの話だ?」


「ん、なんでもないよ……」


 姉妹は身を寄せ合って、色のないコランダムと、黄金色のトパーズと、微かに透ける黒曜石を囲み見下ろしていた。

 それはメープルだけではなく、シェラハゾにとっても意味がある物らしい。


「そっちは倉庫よ。今は何もないけど……」

「だったら早速使わせてもらおう」


 彼女が小さなライトボールをもう1つ作って、こちらに渡してくれた。

 俺はそれを受け取って、奥の倉庫の棚に魔物素材を並べた。


 後は釜と杖と薬草さえあれば、ポーション作りを始められそうだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 内容はおもしろいのですが、会話文ばかりで地の文が少ないので、景色や場面をイメージできません。正直読みづらいです。
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