・日常回 シャンバラの民はギンギンバキバキをご希望のようです 3/3
「飲んで?」
「いや、俺はそんなに疲れてはいないんだが……?」
「飲みなさいよ……」
「なんでお前までそんな……。わかった、自分で実験してみよう」
さっきまで自分たちが味見したがっていたのに、2人はそろって同じ小瓶を手に取って、俺の胸先に突き出してきた。
逆らう理由も別にないのでこちらも素直にそれを受け取って、グビッと一口飲んだ。
すると身体が軽くなった。
その身体に引っ張られるように気持ちまでもが上向いて、自分でも自覚していない疲れが取れたのか、嘘のように身体が楽になっていた。
今日までこんなに重い肩を背負って生きていただなんて驚きだった。
「どう? むらむらする……?」
「疲れが取れた」
「むらむらは……?」
「しない」
「え、それだけなの……?」
メープルならわかるが、なんでシェラハまで残念そうにしているのだろうか……。
これは画期的な回復薬だ。もっとそちらの方向に驚いてほしかった。
「刺激が足りない可能性……」
「何を期待しているのかわからんが、これはそういう変な薬じゃないぞ」
「かもーん、カトちゃんメリちゃん……。シャキーンッ……」
「いや、さも当然のようにスライムたちを使役すんなよ……」
どこからともなくセンシティブなフォルムをしたスライムが現れて、メープルの服の下へと入り込むと胸部で合体した。
ところが粘着が足りなくて、すぐにストーンと落ちる。それが最近のお約束だった。
「おっぱい、おなかに生えた……。これはこれでマニア受けの可能性あり……?」
「ねーよ……」
俺とシェラハは視線を重ねて、何も見なかったことにした。
「じゃ、ギルドに届けてくる」
たまには歩こうかと薬を木箱に積めて外に出ると、いつの間にか太陽が高くなって、強烈な日差しが降り注いでいた。
なので立ち止まってフードをかぶり直すと、左右をまたメープルとシェラハに囲まれた。
「一緒にいこ……」
「と、途中で元気になり過ぎちゃったら困るわ……見張らなきゃ……」
「何を言ってるんだお前らは……。そんなおかしな効果はないから安心してくれって言ってるだろ……」
過酷な日差しも美しい姉妹と並んで歩いてゆくと、不思議と気持ちいい。
転移魔法に頼りきりだった俺は、歩く楽しみを見失っていたのだと、フードに包まれた嫁さんたちの素顔を盗み見ながら実感した。
・
ギルドに戻ってくると、俺たちはラクダから荷物を下ろし、カマカマ野郎に蛍光色の新型ポーションを納品した。
「あらやだ、ギンギンポーションもう出来ちゃったのねぇ~、んふふふ……♪ 一本ちょろまかしちゃおうかしら♪」
「いいね、その名前……」
「んな効果はねーって、何度言えばわかるんだよ、お前らは……」
喜ばせたくて作ってきたのに、なんだかぬか喜びされそうだ。
ところがそうしていると、あの気の良いおっさんがギルドに戻ってきた。
俺が行動するよりも先に、メープルが新型ポーションことギンギンポーションを抱いて、おっさんの前に駆けていって、その効能を説明してくれた。
「それってつまりアレだろ……? へへへ……今夜はお楽しみだなぁ、お前ら、へへへへ……」
「んな効果はねーからさっさと飲め!」
「へっ……!? こ、こんな俺に飲ませてどうするつもりだ……!?」
「ただの疲労回復薬だよっ、ギンギンから離れろよ、お前らっ!!?」
なんだと残念そうにおっさんは笑って、俺たちの差し入れを喜んで飲んでくれた。
自分でも確かめたので既にわかってはいるが、効果覿面だった。
「お、おおっ、おほぉぉぉ……!? こ、こりゃすげぇ……すげぇけど……。はぁ……ギンギンにはならねぇなぁぁ……。なんだよ、ちぇ、つまんねぇ……」
「何よぉっ、聞いてたのと全然違うじゃなぁいっ!」
エルフって……思ってたよりずっと俗だな……。
スケベオヤジとカマカマ野郎は落胆していた。
「そういうのも希望。作るべき。エルフの少子化対策を救えるのは、ユリウスだけ……」
「今度な……」
「やった……」
「あくまで今度な」
「あたしも期待してるわよ、ユリウスちゃんっ!」
「ま、貰ったところで使う相手とかいねーんだけどなぁ……」
「それ言ったらヤボよ、んもーっ」
シェラハは下品な話題に加わりかねて、頬だけ赤くしてずっと黙っている。
俺と目線がぶつかると、何を勘違いしたのか慌てて視線をそらされた。こっちは変なことなんて考えてないぞ……。
疲労回復ポーションはその後、戻ってきたギルドの連中にも振る舞われた。
もちろん大好評だ。この様子だと、日課の仕事が増えてしまいそうだ。
ギンギンポーションは、シャンバラの生産性を飛躍的に高めてくれること請け合いだった。
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「ユリウスさん、例のあの薬ですが……」
「あああれか、なかなかいいだろう。いくら経済が上向いても、労働者に休日を休む体力が残らなければ本末転倒だ」
「ええ、画期的です。ですが……ギンギンになるやつも作ってやって下さい」
「あんたまで何を言ってるんだ……」
「エルフはヒューマンと比べると数が少ないですから、そういった薬があるにこしたことはないのです。いえ、エルフの発展に不可欠と言っても差し支えがありません。作って下さい」
「……わかった。考えておく」
都市長にも言われてしまったが、心の中で、作る気はないとキッパリと決めた。
メープルがその存在を知ったら、絶対に盛ってくると分かり切っているからな……。
こうしてギンギンポーションは、シャンバラの冒険者たちや医療施設へと配布されて、人々を驚かせながらも落胆させていったという……。




