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・日常回 シャンバラの民はギンギンバキバキをご希望のようです 2/3

「ギ、ギンギン……」


 話の一部始終を語り終えると、ふと見たシェラハの顔が真っ赤に染まっていた。

 『あの子たちはもう大人よ』と、そうカマカマ野郎の言った言葉が否応なしに脳裏へとよみがえって――頭を振り払うことになった。


「そっちじゃない……。冒険者のみんなの疲れを少しでも癒してやりたいんだ」

「バキバキ……いいね、私も大好きな擬音……」


 そこにどこからともなくメープルが現れて、姉妹で挟み込むように俺の隣に腰掛けた。

 いきなり現れて、さも当然とくっついてくるところがまるで猫のようだ。


「どこから現れて、どこまで盗み聞きしてたんだよ、お前も……」

「そんなのいつものことよ。それよりもその疲労回復薬のレシピを探しましょ」


「ま、コイツにいちいち突っ込んでたらキリがないか……」

「うん、そゆこと……」


 俺たちは今回の目的に近いレシピはないかと、3人で本の文字を目で追った。

 しかし手分けをしたとはとても言い難い。


 姉妹はのぞき込むように俺の膝の上へと身を乗り出して、俺の集中力を甘い女性の匂いでかき乱したからだ。


「確かこの本に載ってたような気がするんだ」

「次、次……」

「ユリウスはページをめくって。レシピはあたしたちが探すわ」


 それ、自分でめくった方が早くないか……?

 そう言い掛けてやはり止めた。


 本の中身は姉妹の後頭部でろくすっぽ見えなかったが、代わりに無防備に汗ばんだ首筋がそこにあったからだ……。

 俺はしばらくの間、姉妹のうなじだけを無心に見つめながらページをめくるマシーンと化していった。


「あったわ」

「あった……」


 本をのぞき込んでいた2人が得意げにこちらを向いた。

 その笑顔にまたもや見とれかけた自分自身を抑え込んで、冷静を装いながら彼女たちの指を追う。


 これならば俺にも作れそうだ。

 採算性が悪いので、材料を集める時間を休憩に回した方が遙かに効率的ともあるが、そこは作ってみてから考えればいい。


「これとこれ、うちの倉庫にはないから、ちょっとギルドにあるか聞いてくるよ」

「一緒に行く……。あの受付さんのお姐さん好きだし……」


「一人の方が楽だし早いんだが」

「そういう問題じゃないわ。メープルが一緒がいいって言ってるんだから、非効率でも一緒にいくべきよ」

「ユリウス、転移魔法使いすぎ……。ヤリ過ぎは、よくないよ……? 歩くの、楽しむのも大事……」


 とっさに反論出来なかったので、まあ急いでもいないしいいかと一緒に工房を出ることになった。



 ・



「あらいらっしゃい、新婚さん♪ タマタマ坊やとの夜の生活はどう……?」

「よっ、姐さん。どうって、クソ淡泊……。一緒に寝るのに、何もしてくれない日々……」


 シェラハはセクハラにまで真面目に言葉に返そうといて言葉を詰まらせて、メープルの方はこれ幸いとこの流れを利用して俺に抗議した。


 毎晩一緒に寝るだけでも、俺とシェラハには胸の高鳴りの止まらない刺激的な夜なのに……。


「そういうことを人にバラすな……」

「ヤダ可哀想……。熟れた身体を持て余した人妻が2人もいるのに……なんてこと……」

「片方はそんなに熟れちゃいないだろ……」


「そういうのがいいくせに……」

「ぅっ……。アホ言ってないでやることやるぞ。……ジャイアントビーの蜜と、迷宮キノコはあるか?」

「もちろんあるわよ、甘ぁい蜂蜜と、太くて立派なキノコが……んふっ♪」


 才能のあるやつって、どうしてこうも濃いのだろうな……。

 俺たちは蜂蜜とキノコをラクダの背にありったけ乗せて、歩きながら手綱を引いて工房へと戻った。


「やっぱり、勉強になる……。あんなふうに、エグい下ネタでユリウスを凍り付かせたい……」

「ダ、ダメよっ、そういうのは見習っちゃダメッッ!」

「お前はこれ以上俺を凍り付かせて、どうするつもりなんだ……」


「動揺を楽しむ……」

「やっぱりお前は変だ……」


 メープルの後頭部をポンと叩いて、砂漠の彼方に小さく見える我が家を見つめた。

 ギンギン……ギンギン、か……。



 ・



 調合の準備を始めると、2人がオアシスの湖水を運んできてくれた。

 それを助け合って釜へと流し込み、砂漠で拾った棒きれでかき混ぜた。


 まずはポーションをそこへと流し込み、安定させてからジャイアントビーの蜜をたらし入れる。

 たちまちに甘ったるい匂いが工房中に広がった。


「いい匂いね……」

「クンカクンカ……ハスハス……。あ、よだれ入っちゃった……」

「おまっ、変なもん入れんなよっ!?」


 エルフの姉妹が錬金釜の上に顔を突っ込んで、さっきからスンスンと鼻を鳴らしている。

 女性というのはどうしてこういった匂いが好きなのだろうな。


「けど本当にいい匂いよ……? このまま、飲み干したいくらい……。ね、ねぇユリウス……ちょっとだけ、味見とかしたらダメかしら……? いたっ……」

「料理じゃないんだから、ダメに決まってるだろ……」


 メープルにするように、シェラハの後頭部を軽く叩くと彼女まで嬉しそうに笑い返してきた。

 なんか、こう見ると姉妹だな……。


「また姉さんに見とれてる……」

「見とれてない。それより調合に集中しろ」


「ギンギンだもんね……」

「ギンギンから離れろ……」


 そんなことより調合の続きだ。釜の中へと、魔石を主としたレシピ指定の添加物を加えていった。

 それをグルグルと混ぜ合わせて、仕上げの迷宮キノコを投入してみると、黄金色の輝きに緑が加わって蛍光色へと姿を変えた。


 それをさっと仕上げて、用意しておいた小瓶をあるだけ流し込めば、ふわりと甘い蒸気が上がって完成だ。

 錬金釜の中に、燐光する小瓶と薬がギッシリとひしめいていた。


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