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・日常回 シャンバラの民はギンギンバキバキをご希望のようです 1/3

 世界のどこかでかつての宿敵が袋叩きにされているとは露さえ知らぬある日、一日の業務を終えた俺はオアシスの木陰に座り込んで、一冊の本を読みあさっていた。


 といっても時刻はまだ昼前だ。

 これから日差しがきつくなる前に、ちょうどいい陽光に当たって気持ちを晴れやかにしたかった。


 文字を追いながら青く輝くオアシスをぼんやりと眺めて、つい先ほどまで裸のシェラハがそこで踊っていた光景を思い出せば、集中力が平時の3割ほどまでに落ち込んでいたとも言える。


 ここにいれば美しいシェラハの沐浴が見れる。

 そう期待してここに陣取ったのも事実だった。


 彼女に手を出す勇気はいまだ出ないが、遠くからありのままの姿を見る勇気ならば、不思議といくらでも出た。

 俺は愚かだ。師匠をバカになんか出来ないくらいにバカでスケベだ。


「ユリウスって不思議ね。戦っているときはあんなに命知らずなのに、そうしているとなんだか泉の妖精みたい」

「泉の妖精はシェラハ――い、いや、なんでも、なんでもないぞ……」


「そ、そう……」


 シェラハは俺がのぞいていることを知っている。なのに沐浴を続けている。

 恥ずかしそうに視線をそらすその姿に、メープルの言うところの獣欲を覚えかけた。


 昼を前にした陽光が、褐色肌にブロンドのうちの嫁さんを美しく浮かびあがらせ、俺を無心に凝視させた。

 俺が見とれると、シェラハはいつだって恥ずかしそうにしながらも、ウキウキと嬉しそうにしてくれる。


 いや、今は頼まれ事があったのだった。

 視線を古い本へと落とし、ページをめくっていった。


「何を探しているの?」

「ああ、さっきギルドに寄ったんだけどな、そうしたら……ある相談をされてな」


 別に頼み事に応えてやる義理はないのだが、他にやることがあるかと言えば別にない。

 それに師匠が言うには、活字は読書家の精神安定剤だ。


 何もせずに過ごすより、文字を追って過ごす方が心地良い。


「またあの……あの、ス、スライムを作るんじゃないでしょうね……?」

「アレ以上あんなものを増やしてどうする……」


 左がカトリーヌで、右がメリディーヌだそうだ。

 何がって、あのスライムの名前がだ。俺には左右があることが驚きだった。


「そうね……だけどありがとう。姉さんより大きくなったって、メープルがとっても喜んでいたわ」


 一瞬でたれ落ちる偽物の胸だけどな……。

 やさしい姉は妹の喜ぶ姿を思い出してか、歪みない微笑みを浮かべて俺に語ってくれた。


「シェラハは本当に妹に甘いな……」

「あ、それで誰に頼まれたの?」


「誰って……アイツだよ。カマカマ野郎に頼まれた」


 ギルドのあの珍受付嬢(♂)から、俺はとある依頼を持ちかけられた。

 なんとも一言では説明しがたいので、隣に座れと砂地の地面に叩いてみせると、素直な姫君が疑うことなく腰を落としていた。


 ・



少し前――


「んねぇ、タマタマ坊や、精の付くお薬とか作れないかしら……?」


 珍しい素材はないかなとギルドの倉庫に立ち寄ると、あのクネクネとした美形の受付嬢(♂)が気持ち真剣にそう語りかけてきた。


 しかしこんななりだが、コイツは頼れるいいやつだ。

 先のシャンバラ防衛戦では、最前線で獅子奮迅の大活躍をしたと聞いている。


「最近うちの連中ね、なんだか疲れてるみたいなのよぉ。ねぇ、どうにかしてあげられないかしら?」

「珍しくまともな話だな」


「まぁ酷い! それじゃアタシがいつも下ネタ言ってるみたいじゃないっ!」

「わりと常に言ってるだろ……」


 呆れた目でツッコミながらも、俺はカマカマ野郎の話を噛み砕いた。

 ポーションや、迷宮素材を使った交易が行えるのは冒険者たちの奮闘のおかげだ。


 しかしそれは過酷な仕事で、加えてエリクサーで傷は治せても疲労ばかりは治らないとくる。


「ギンギンになるのがいいわ~♪」

「いや、仕事中にギンギンになるのはまずいだろ……って、下ネタ早速使ってるじゃねーかよ……」


「あらやだっ、ウフフフ……。とにかく、ギンギンのバッキバキッにしてちょうだい!」


 イケメン細マッチョの腕がたくましいガッツポーズを作った。

 性癖がノーマルなら、この人パワーもあるし、さぞやモテただろうな……。


「わかったからそれ以上喋るな……俺の心が汚れる」

「そうね、あたしもそう思うわ。この薬はタマタマ坊やの夜の生活にも使えるわね」


「んなこと一欠片も思っちゃねーよっ!?」

「んもぅ、わかってないわねぇ……。いい、ユリウスちゃん? あの子たちが大切なのはわかるけど、あの子たちはもう大人よ。あなたが大人の世界を教えてあげるのよっ!!」


「アホ抜かせ」


 俺は仲間思いの受付嬢からの依頼を受けて、素材ごと錬金術工房に転移した。

 それからあのスケベなおっさん冒険者をなんとなく思い出しながら、がんばっているあのおっさんに疲労回復薬を飲ませたら楽しいかもしれないなと、本のページをめくり始めた。

以降、カマ多めになります。

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