・なんでもない新婚生活の1ピース 2/2
「あれ……」
ふと目を開けると、窓辺より差し込む日差しが白から薄黄色に変わっていた。
それとなぜか両手が痺れていた。
「おはよ、ユリウス……」
「え、メープル……? なんでお前ここにいるんだ……?」
「自分で引きずり込んだくせによく言う……。でも、こんな自堕落的な休日もたまにはいいかな……」
「記憶にないんだが……」
左手の痺れはメープルの頭の下に敷かれていたせいだった。
いや、だとすれば右手のこれはまさか――
「は、はうはぁ……っっ?!」
「姉さん無防備だね。今ならやりたい放題……。さあ、思いの丈を……」
シェラハの寝顔は安らかで、高貴で、メープルが言うとおり無防備で、視線と意識の両方を吸い寄せた。
「お前、俺を焚き付けてないか?」
「別に……。ただおおいかぶさって、姉さんのいい匂いを感じて、寝顔にキスしたって、ユリウスは許される……。だって、もう夫婦なんだから……」
「うっ……た、焚きつけんなって言ってんだろ……するわけねーだろ、そんなことっ?!」
「ユリウスと、姉さんに足りないのは……獣欲。獣欲に身を任せるべき……」
これが人間の嫁さんだったら欲に流されて間違いを犯したのかもしれない。
しかしメープルもシェラハもあまりに綺麗すぎて、どうしても手を出す勇気が出ない。
「却下だ! 腹減った、昼飯作ってくる……」
「こうなったら、姉さん起こして外食希望……」
「それは――それは悪くないな」
「では、目覚めのチッスを……」
「だったら言い出しっぺのお前がやれ」
「おっけー……」
メープルは俺を踏み台にして、反対側のシェラハに顔を寄せた。
「おっけーじゃねーよ!? おい起きろ、起きないと妹に唇奪われるぞ。あっ……」
どうにかしないといけないと、シェラハを揺すり起こそうとすると――ムニュリと大きなものに手のひらが埋まっていた。
で……でかい……。
「え……?」
「大変……ユリウスが、姉さんのを……」
「ヒ、ヒウッ?! ど、どこさわってるのよ、もう……っ! ユリウスの……ユリウスのエッチ……」
「手、手が滑ったんだ故意じゃない!」
「で、でも触ったのは事実じゃない!」
「ニヤニヤ……。よいですね、ベタベタの青春だね……」
顔が熱い。手のひらがふわふわしている。俺は今、完全に頭が色ボケの沼にはまりかかっている……!
このままでは、マジで獣欲に身を任せてしまう日が来るぞ……。
「とにかく飯食いに行くぞ! このままじゃ休日を寝過ごしちまう!」
「朝は寝かせてくれーとか言ってたくせに……」
「私、朝ご飯作ったのに……」
「もちろんそれも食う」
逃げるようにベッドから這い上がると、メープルが宣言もなしに背中へと飛び乗ってきた。
シェラハの方に振り返ると、最初は一緒に寝てしまったことに恥ずかしそうにしていたが、メープルを背負った俺の姿に笑っていた。
大事な妹なんだなと、俺もついつい笑い返していた。
俺たちは賑やかに言い合いをしながら階段を下って、少し遅くなった休日を始めた。




