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80/308

・なんでもない新婚生活の1ピース 1/2

 結婚生活を始めるにあたって、ベッドを1つ買った。

 2階の広い部屋を姉妹に譲って、俺は下のちょうどいい大きさの部屋に落ち着いた。


 しかしそれはあくまで俺の都合であり、彼女たちの意思ではない。メープルは特にブーブー言っていた。

 シェラハの方はああいう奥ゆかしい気質なので、俺の気持ちもわかってくれたみたいだ。


 ……やや不満げだったように見えるのは、エリートである俺の思い込みだろう。


 まあそういったわけで、結婚初夜に見せられた真空波に恐れをなした俺は、あれからも変わらない距離を保っていた。

 ただし、繰り返すがそれは俺の都合でしかなかった。



 ・



「起きてユリウス、もうこんな時間よ?」

「案の定って感じ……。ツンツン……」


 シェラハのやさしい声と、メープルの容赦のない人差し指による小腹の襲撃がその日の目覚めだった。

 ぼやける視界で2人の姿を見て、やっぱり眠気を堪えられなくて目を閉じた。


「夜遅くまで本なんて読んでるからよ」

「奥様がすねてるよ……?」


「べ、別にすねてないわよ……!?」

「せっかく大好きなユリウスに、朝ご飯作ってあげたのに……。そういう顔してる……」


 どんな現実も眠気の前ではなすすべもない。

 申し訳ない気持ちを抱きながらも、俺は睡魔に身を任せた。

 それに今日は工房の定休日だ。俺には二度寝の権利がある。


「だって、せっかく作ったんだからもったいないじゃない……」

「おぉ……人妻サイコー……。熟れた身体を持て余す……」


「もう、何言ってるのよ……」

「それよかユリウスだけど……これ、完全に忘れてるよ……」


 何か言っているが、脳が音を言葉として変換しなかった。


「――グハッッ?!!」


 ところが言葉よりももっと直接的な、実力行使が俺の目を見開かせた。

 メープルが俺の腹に馬乗りになって、無表情で見下ろしていた。


「おっと、お尻が滑った……」

「ク、クソ……寝てる旦那になんてことすんだ、お前は……。つーか飛んでないか、その尻……」


「今日はお出かけする約束。反故は許されない……」

「メープル、さすがにそれはかわいそうよ」


「だって……。あ、また寝た……」


 意思に反してまぶたが勝手に落ちていた。

 お腹の上にメープルの体温を感じで心地いい。

 2人分のいい匂いがして、こんなものは安眠確実だった。


「ゆさゆさ……ぎしぎし……」

「よっぽど眠いのね……。しょうがないわ、お昼まで寝かせてあげましょ」


「ん……。そうだ、一緒に、ユリウスにイタズラしない……?」

「え……?」


「起きないのが悪い。イタズラしよ……? あのね、2人で一緒にね……コショコショ……」


 ギシリとスプリング入りのベッドが鳴った。

 しかしそれすらも、圧倒的な眠気の前には無力だ。


「ふぅぅぅ……♪」

「ヒッッ、ヒフッッ?!!」


 誰が予想するだろうか。

 エルフの姉妹に、左右の耳へと湿った唇を寄せられて、くすぐるような吐息を吹き込まれるとは。


「ぉぉ……ビクンビクンしてる……。もしかして、凄く感じちゃった……?」

「お、起きない方が悪いのよ……。それに、あたしだって妻ですから……!」


 飛び起きるように身を起こした俺は若干の不満を覚えた。

 しかしそれ以上に気持ちよかった。余韻が背筋に残っていて、それがまた眠気に置き換わっていった。


 こうなったら意地でも寝てやる。


「ユリウス、起きて? 起きないと、もっとしちゃうよ……?」

「ダメよ、これ以上はかわいそうよ。下でご飯食べましょ」


「けど……姉さんが楽しみにしてたのに……」

「私もだけどメープルもでしょ」


「うん……」


 よかった。寝かせてもらえそう――


「ンヒィィッッ?!! な、なな、何すんだよっ!?」


 首筋にメープルの指が走った。

 ただそれだけなのに、絶妙な力加減にまた俺は飛び起きることになった。


「起きて……?」

「どこで覚えたんだよ、そういう技……」


「いっぱい練習した……姉さんで……」

「お前、実験台にされる側の気持ちも考えろよ……」


 シェラハは何も言わずに、顔だけ赤くしていた。

 どうやら姉はともかく、妹は絶対に俺を二度寝させないつもりのようだ。


「シェラハ、ちょっとこっちに」

「何……?」


「いいからもっとこっちだ。こっちにこい」

「は、はい……わかりました……」


 なんて素直なんだと、かいがいしさに惚れ直すところだった。


「メープルもこっちに顔を」

「おっけー」

「キャッッ?! ちょっと、わ、私、そんな……ぁ、ぁぁ……っ!?」


 姉妹が身を乗り出すと、俺は2人を抱き込んでベッドへと引きずり込んだ。

 メープルは少しゴツゴツしていたが軽くて、シェラハはどこを触ってもやわらかい。


「おやすみ……」

「え……こ、ここまでして寝るのっ!?」

「強引にされると、ドキッとくるね、姉さん……」


「同意を求められても困るわよっ……」


 両手のやわらかな感触が、左右からぴったりと寄り添うのを感じると、安心感と喜びに意識が途絶えた。

 今は眠い。ただただ眠い。


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