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・アフターエピソード ~ あるオアシスの桟橋にて ~ 2/2

「ところで、初夜はどうでしたかな?」

「ブッッ……?!」


 釜の中につばを吹き出してしまった。


「ナイスサポート……都市長」

「私は早く孫の顔を見たいのです。すみませんが、急げますか?」

「ご、ごめんなさい……。それは……」


 それは不幸にも真空波の会得イベントにより中止になった。

 とは都市長に言えない。彼は本気で期待しているようだった。


「ゆっくりやると決めたんだ。ゆっくりやらせてくれ」

「それは困ります」

「そう、超困る……。欲望を、満たせると、思ってたのに……」


「出会ってまだ2ヶ月も経っていないぞ……」

「そ、そうよっ、まだ、早いわ……」

「この前は、1ヶ月も経ってないって、言い訳してた……」


 俺とシェラハは奥手だ。行為に及ぶのは、やはり無理がある……。

 1歩ずつ大人の階段を上らなければ、転落死してしまう。あるいは神速の鞭で真っ二つだ。


「お願いしますよ、死ぬ前に孫の顔を見たいのですよ……」

「クソ長寿のエルフに言われてもピンと来ないぞ。……まさか、病気なのか?」


「いいえ、健康過ぎて困るくらいです」

「それは良かった。長生きしてくれ」

「姉さん……都市長も、こう言ってるし……。お義父さんを喜ばせよ……?」

「……そ、そうね……。それで、都市長が喜ぶなら……」


「流されるなってのっ!?」


 これはあれだ。求められれば求められるほどに、逃げ出したくなる現象だ。

 コンクルをパッも完成させて、搬送作業を発生させて話をごまかした。


「貴方の奥ゆかしさときたら、下手をすればうちのシェラハゾ以上ですね」

「それがわかっているなら、けしかけないでくれ……」


「わかっているからこそですよ」

「はぁ……。注文の多いパトロン様だ……」


 搬送作業が落ち着くと、俺は大地を蘇らせるための調合に入った。

 シャンバラが緑を取り戻すには、果てしない時間と資源が必要になるだろう。


 それでも彼は、エルフが散り散りになる前の輝いていた世界を取り戻したかった。

 先は長い。それでも彼と2人の嫁たちに付き合ってやろう。


 俺だって見たいからだ。

 砂漠とオアシスの国も美しいが、草原に囲まれた世界はもっと美しいに違いない。

 そこに俺たちの末裔たちが暮らしてくれたら、これほど嬉しいものはない。


 子供。子供か……。口車に乗ってみるのも、悪くないのかもしれない。

 肝心の勇気が、俺とシェラハには足りていないが、いつの日か、美しい草原を子供たちが走り回る姿を見てみたい。


 いつか俺が死んでも、子が残るならば、代わりにシャンバラの成り行きを見守ってくれる。


 勇気を出そうと、心に決めた。

 シェラハは美しい。あまりに美しい。だから汚す勇気が出ない……。それでも……。


「な、何よ、そんなに見つめちゃって……」

「今夜一緒に寝ないか……? 一緒に寝るところから始めたい。それくらいなら俺たちにも出来そうだろ……?」


「ぇ……っ、ぁ……っ。は、はい……あたし、よ、喜んで……」


 調合はこんなに簡単なのに、家族計画はこんなにも難しい。

 都市長の切なる願いが叶う日は、まだまだ遠いようだった……。



 ・



 あ、てすてす……。おけ……。


 その数年後、砂漠の国シャンバラは、砂漠に囲まれる草原の国シャンバラに姿を変えた。

 耕作地の拡大により、もう1つの部族リーフシーカーの民が流入し、シャンバラはその後、再び1000年の繁栄を迎えたという。


 女王シェラハ・ゾーナカーナ・テネスと、大魔導師メープル・カサエルの手によって。

 その隣には、ヒューマンでありながら永遠に老いることのない、奇妙な錬金術師がいたと伝えられている。


 子供もいっぱい。孫もいっぱい。いっぱい増やして、ユリウスは後のエルフの始祖になった。

 めでたし、めでたし……。


 とんだ、ドスケベだったよ……と、私は後の人々に語り継いで行こう。


「人を性欲魔獣みたいに脚色すんなよっ!?」

「可哀想だから止めてあげてなさいって言ってるでしょ、もう……」


 ユリウスは、死んじゃった……。

 でもユリウスは天才……。


 機械人形(オートマタ)を作って、最期は魂を移植した。

 だから私たちはずっと一緒……。


 ユリウスの魂がオートマタから消える日まで、いつになるかわからないけど、終わりの日が来るまで、ずっと――


 シャンバラの英雄は、とんだドスケベだったよ……。

 でもやさしくて、恥ずかしがりで、かわいい人だった……。


 私と姉さんはユリウスのことを忘れない。


 ―― 続く ――

これにて第一部完結です。

今日まで沢山のご愛顧、応援ありがとうございました。感想返しが出来なくてごめんなさい。

誤字報告にも感謝しております。


よろしければぜひこの機会に、評価とブックマークによるご支援をいただけると、2作品目の書籍化の希望が広がります。


現在、第二部の制作に勤しんでいます。

本作は元々は森が舞台で、白いエルフたちに囲まれてキャッキャウフフの想定でした。


ただそれだと味付けが平凡かなと思いまして、今まで描いたことのない砂漠舞台のお話にすることにしました。

砂漠の方が土地改善の広がりがあったり、水が不足していたり、ガラスや塩などの特定の資源があったりと、不毛の地だからこそ話が広げやすいのではないかと。


続編の第二部では、森で暮らす白い肌のエルフを新しいヒロインに加えて、より明るくキャッキャウフフとしたテイストに仕上げていきます。

どんでん返しも用意して、きっと驚くような展開が待っていますので、どうかこれからも本作を読みに来て下さい。


第二部は、3日間のお休みをいたたいで、21日日曜日に公開予定です。


また明日から新作「隠居聖女の三食もふもふ付きブックカフェ生活 ~森で出会った狼は呪いをかけられた王子様でした~」を公開します。


公開しましたらこちらにリンクを張りますので、どうか読みに来て下さい。

女主人公になりますが、男性が感情移入しやすいヒーロー役を用意してあります。

ざまぁを楽しむと同時に、穏やかでやさしい生活に心癒されるはずです。ご支援下さい。


それでは、第一部完結まで読んで下さりありがとうございました。

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