・アフターエピソード ~ あるオアシスの桟橋にて ~ 1/2
※このエピソードは、15万字完結版の結末にあたります。
追加執筆が決まったので、あくまで15字完結版の外伝として楽しんでいただければと思います。
ここではどんなに注文が多くとも、1日の業務が午前のうちに終わる。
必要分のエリクサーとポーションを作り上げると、メープルのやつが釣り竿を3本も手に入れて来た。
もし釣れたら昼食に魚を加えようと決まって、3人で釣りをすることになった。
そうして俺たちは今、市長邸側のオアシスに移動して、そこにある桟橋から湖水に釣り竿を垂らしていた。
「平和ね……。あの戦いが嘘みたい……」
「そうだね、姉さん……。結婚したのも嘘みたい……ユリウスが、淡泊過ぎて、ガッカリ……」
「淡泊で結構だ。ん、んん……ふぁぁ……こうしてると、昼間から眠くなってくるな……」
あの恐ろしい鞭さばきに一抹の不安を覚えて、結婚初夜から逃げ出した俺だが、今はなあなあの関係でゆったりとやっている。
いや、アレはダメだ。シェラハには鞭を絶対に持たせてはいけないと、心に決めた夜だった。
俺だって初夜を期待していたが、あんなもの食らったらエリクサーを使う間もなく死んでしまう……。真剣に命の危険を感じた……。
「ねね、ユリウス……」
「なんだ。変な話なら無視するぞ」
「うーうん。あのね……ユリウスは、私たちと結婚したこと、後悔とか、してない……?」
「してないな。むしろ満喫している」
「そ、そう……。あたしだってそうよ……っ」
「私も。初夜、逃げられたから、一応確認したかった……」
「それは……。だって、あんなの食らったら死ぬだろ……」
「こ、殺さないわよっ!? あれは……うっかり、真空波が出ちゃっただけよ……っ」
恐ろしい人を嫁さんにしてしまったものだ。
ちょっと傷ついているみたいなので、俺はシェラハの肩を後ろから軽く叩いて慰めた。
死にたくなかったんだ。すまん。
「って、何さり気なくくっついてるんだよ、お前……」
「だって、夫婦だし……」
「昼前だぞ、暑い」
「姉さんもほら、サービスサービス……?」
「そ、そういうのはっ、あ、あたしたちにはまだ早いわよ……っ」
「結婚したのに、早いも遅いもないよ……? これだと、子供出来るの……ユリウスがシワシワになってからに、なると思う……」
「そ、そうだけど……」
「姉を煽るな。……シェラハ?」
俺を中心にして、桟橋に腰掛ける姉妹はピッタリとくっついて来た。
これまでが駆け足だったので、これからはゆっくりとやって行きたいのに、心臓が堪え性もなく暴れ始めた。
「これじゃなんのために結婚したかわからない……」
「なんのためって、家族になるためだろ……?」
「それだけ……? 姉さんも、ユリウスも、本当はドロドロの下心、隠してるだけ……。夫婦なら、ドロドロの欲望を、さらけ出すべき……」
「そ、そうなのかしら……?」
「流されるな。メープル、お前はお前で欲望に正直過ぎる。ゆっくりやろう」
そう説得すると、メープルは不満そうに首筋をつねって来た。
本当は俺がヘタレているだけ。そういった面もあるのかもしれない。
「ユリウスッ、引いてる引いてる!」
「う、うおっ!?」
危うく湖水に引きずり込まれる寸前で、シェラハとメープルが身体を抱き支えてくれた。
緩急を付けて釣り竿を引き、魚が疲れるまで粘ると、俺は大物を釣り上げた。
黄金に輝くサモーヌだった。体長50cm前後はあろう大魚だ。
「やったやった……! これ、美味しいやつだよ……っ、ネコヒト族に見せたら、ユリウス英雄になれるかも!」
「ふふっ、もうユリウスはシャンバラの英雄じゃない」
暴れるサモーヌを抱き込んで、電撃魔法で絞めてから釣りかごに突っ込んだ。
案の定、デカ過ぎてほとんど入らない。
「ユリウスさん」
「ユリウス様っ、アタイが来たミャッ、今日もお元気ですかミャッ!? そ、それは……っ!?」
どうしたものかと金のサモーヌを見下ろしていると、都市長とあの白いネコヒトが現れた。
「どうしたんだ? ああそれか、今さっき釣ったんだ」
「す、凄いミャ……。ゴルドサモーヌミャ……ッ!」
「休んでいるところすみませんが、追加のオーダーをしてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ。それで?」
「コンクルの追加生産をお願いします。どうやら足りないようで」
発掘した迷宮を保護するために、建材にコンクルを利用することになった。
これまでは石切場から石材を切り出して運んでいたが、今は砂漠そのものが石材だ。
それが足りなくなるのは想定内だった。
「それはいいが、大地の結晶がもうないぞ」
「はっ!? それなら大丈夫ミャ、アタイらが手に入れて来たミャ!」
「じゃあ作ろう。メープル、シェラハ、手伝ってくれるな?」
桟橋の方に振り返ると、2人は俺の背後にもう立っていた。
2人は静かにうなづいてくれた。
「それと、大地の結晶に加えて、トレント素材を工房に運ばせています。例の物もお願いします」
「アレか」
「はい。素材の許す限り、作れるだけ作っていただきたいのです」
「わかった。やろう」
都市長は付近の砂漠に公園を作りたいそうだ。
そこに東屋を建てて、シャンバラが美しい草原であったことを子供たちに教えたい。以前そう言っていた。
そんなわけで工房へと引き返すと、既に素材が錬金釜の隣に納入されていた。
準備のいいことで、俺はホウキを手に取って、姉妹のサポートを受けながら調合を始めた。
慣れた作業なので、特にこれといった苦労はない。淡々としたものだった。




