・そしてついに、結婚初夜――
「し、しししっ、舌入れんなよっ、人前だぞこらっ?!」
「あ、人前じゃなかったら、おっけー……?」
「よくねーよっ、よくねーよっ! お前今、大人の階段3段くらいすっ飛ばしたからなっ!?」
「へへへ……その反応が、嬉しい……。ユリウスは、乙女心がある……」
「公開処刑かよっ!」
お師匠さんがお腹を抱えて転げ回っている。
やったね、ユリウス。師匠はユリウスのこと愛してるよ。
「ごめん、私、育ち悪いから……。あ、次は姉さんの番ね……」
「は、はいっ……!」
姉さんが上擦った声でガチガチに固まった。
そんな姉さんの頬に私はチューして、それから腰を押してユリウスの正面に運んだ。
「ユリウス、してあげて……。ベロチュー?」
「ひっ!? む、むむ、無理よっ!?」
姉さんが逃げようとするから、私は腰をユリウスの方に押し戻す。
この2人はくっついたり離れたり、見ててまどろっこしい。もっと押し込んだ……。
「シェラハ、こっち向け」
「で、でも……人前で、人前でするなんて私……。んっっ……!?」
残念、ユリウスは舌を入れなかった……。
だけど情熱的に姉さんの背中を抱いて、のけぞって逃げる姉さんの唇を荒々しく奪った。これはこれで、エロい……。
「フミャァァ……ウミャァァァ……ッ」
「よしよし、気持ちはわかる……。んちゅー……」
「ブミャァァッッ?!! ななななっ、何するミャァァーッッ?!」
「えと……おすそ分け……?」
「ありがとミャ♪ じゃなくて、なんてことするミャーッッ!」
なんてカオスな結婚式……。
安心して、8割私のせいだって自覚はある……。
「しっかし、いきなり重婚選ぶとかさすがだねぇ……カカカッ!」
「どちらか片方だけなんて、そんなの選択肢に最初からなかっただけです」
「お、おう……言うじゃねーか……。そこまで開き直れるなら大したもんだ……」
「ユリウスさんたちには、これが最も自然な形なのでしょう。ユリウスくん、メープル、シェラハ、ご結婚おめでとうございます」
それはそうと、私は用意しておいた小道具を取り出した。
ユリウスにそれを見せると、口があんぐり開けっ放しになった……。
「買っちゃった……今夜のために……」
「鞭っっ!? お前は俺に何をするつもりなんだよっ!?」
「だって、初夜が来ますよ、旦那様……?」
「しょ、初夜……っ。や、止めてよっ、せっかく考えないでいたのに……っ」
「だからさ、なんでそこに鞭が出てくるかと聞いているんだが……?」
「ユリウスに、使うため……?」
「使うなっ!」
「え、なんで……? 初夜といえば、緊縛プレイ……エルフの常識……」
「んなの聞いたこともねーよっ!」
「もうメープルッ、勝手に変な風習作らないでよっ!」
小道具の効果は抜群だ……。
はぁ……本気だったのに、残念……。まことに残念……。
縛りたい、吊したい、ユリウスの悲痛なうめき声が聞きたい……。それだけで長パン一本はいける……。
「私はメープルを応援しますよ。新しい孫の顔を1日でも早く見たいので」
「気に入ったぜ、やっぱお前最高だぜ! 俺の分もバカ弟子をからかってやってくれ!」
「おっけー……ユリウス、夜は気を付けて……」
鞭を引っ張って見せると、ユリウスがちょっと青ざめた。
ユリウスはやさしい。やさしいからしばきたい……。
「もうっ、いい加減にしなさいっ!」
「あて……。へへへ……姉さんに、ゲンコツ食らったの久しぶり……」
「あ、ごめんなさい、つい……。痛かった……?」
「平気……。姉さん……一緒にしばかない……?」
「誘うな……っ」
ユリウスの手をかわして、私は彼のたくましい胴にしがみついた。
こうすると安心する……。
姉さんに手招きして誘うと、姉さんはユリウスと手と手をつないだ。
子供同士のカップルだって、もうちょっと積極的だと思う……。
結婚おめでとう。祝福の言葉が式場に木霊した。
みんながニコニコしていて、幸せいっぱいなひとときが過ぎていった。
美味しいご飯を食べて、ふざけて笑いあって、無事でいる今を喜んだ。
誰もが帰宅を惜しむくらい、とてもいい結婚式だった。
そして――ついに初夜が来た……。
・
「姉さん、姉さん……ユリウスは……?」
「逃げられたわ……」
「え……」
「あたしね、冗談であなたの鞭をユリウスの前で振ってみたの……。そしたら……」
見ると窓際のカーテンがスッパリと斬れていた……。
姉さんが真空波を会得した瞬間だった……。
「これ、死ぬね……」
「そ、そんなつもりはなかったのよっ! あたしは普通に……普通に甘い夜を……な、なんでもないわ……っ」
私なら逃げる。私だって命は惜しい……。
姉さん、恐るべし……。
「私が慰めてあげる……。一緒に寝よ、姉さん……。だって今日からは私たち、本当の家族だよ……?」
「ふふ……そうね、そうしましょうか。夫婦らしいことは、ゆっくりやってけばいいわよね」
「それは、賛同しかねる……。けど今夜は、姉さんとずっと一緒にいられる幸せ、噛み締める……」
初夜は姉さんのぬくもりに包まれて終わった。
ユリウスが夜の町のどこかで、姉さんの鞭さばきに恐怖していると思うと面白くて、ぐっすり眠れた……。
こうして私たちは、いつまでもいつまでも、家族として笑顔を絶やさずに幸せに暮らしていきました。
めでたし、めでたし……。




