・シャンバラ滅亡の危機を桁違いのマジックアイテムで覆す - 神罰の炎 - 1/2
「変なこと思い出したわ。昔のてめーは素直でかわいかったな……。あ、囲まれてるぜ」
「師匠の正体を知る前は尊敬してましたから。師匠、これを」
師匠に世界で最も危険な魔法爆弾を見せた。
彼はその秘めたる魔力に目を見開き、遅れてニヒルに笑った。
「それがてめーの消耗の原因か。ならソイツをここで発動させて、一緒に転移するってのはどうだ?」
「そのつもりです。もう魔力が残ってないので、同伴させて下さい」
マイペースにやっている俺たちを、奇声を上げる怪物たちがじりじりと包囲を狭めていた。
そんな中、師匠は俺の肩を下から抱き抱えて、メギドジェムを奪うと、亜空間の扉を開いた。
逃げられると思ったのだろう。一斉に怪物どもが俺たちに襲いかかった。
「ヒャハハハハッッ、もう遅いぜウスノロども!! 吹っ飛べや下等種どもがっっ!!」
師匠が不安定なメギドジェム3つをまとめて点火して、天高く放り投げる。
異常な密度で膨れ上がるその魔力は、この世界にあってはいけないものだと、そう断言出来るものだった。
赤熱してゆく世界から、シンプルで何もない世界の裏側に師匠に引きずり込まれた。
あちらではきっと、神話級の炎と爆発が敵軍を焼いているのだろう。
制作物の結果を見られなかったのが残念だが、俺たちの勝利はこれで確定したようなものだった。
へたり込みながら、俺がエメラルド色の宝石――爆発型エリクサーを差し出すと、師匠のたくましい手がそれを受け取った。
「へー……さっきのやつの回復薬版ってところか。薬を爆散させるとか、バカみたいなこと考えるやつだな」
「ええ、破壊するとエリクサーが拡散する新型です。前戦の仲間に使ってやって下さい」
「アホ、それじゃ俺の手柄みたいになるだろ、てめーが自分でやれ」
「師匠に任せます。実は、あの……そのですね……。結婚を約束した人が、まだあっちで戦ってるんです」
役に立たないとわかっていても、俺はあっちに行かなくてはならない。
そんな俺を見て、師匠が師匠らしくもなくやさしく笑った。
「クカカカ……おめー変わったな」
「え、そうなんですか……?」
「おう。おめーはキャリアにこだわるつまんねーところがあったけどよ、その方向性がよ、嫁さんの方向に向かうのはいいことだと思うぜ。いい笑顔だ」
「……はぁ、よくわかりませんね」
キャリアにこだわるつまんない男か。
シャンバラに来る前の俺は、確かにつまんない男だったのかもしれない。
あっちで出世して、それで何が欲しかったのか、今となってはわからなかった。
俺を突き動かしていたのは、多分……エリートという名の虚飾そのものだ。
「ふーん……俺も少し、この国に興味がわいてきたわ。お前なんかを選ぶ変な嫁さんの、顔も見ておきたいしな……」
「紹介するよ。けど今は有事だ、さっさと行け、アルヴィンス」
俺が師匠に対して、全面的に素直になる日は来ない。
別れ際に悪態を吐いてバランスを取った。
「お師匠様だ。僕ちゃんの命を助けて下さりありがとうございます、お師匠様だ」
「感謝はしてます。けど恩義せがましいです」
「んだとぉっ、このクソ弟子がっ! 助けてやらなくてもよかったんだぞ、プライドばっか膨れ上がったアホがっ!」
「助けてなんて言ってません。……でもまあ、後で礼は返します。作りたい物があったら、なんでも言って下さい」
「お、いいのか? な、なら……よしっ、バストが100cmある、従順で美人のホムンクルスを作ってくれっ!」
「……すみません、イヤです、本気でイヤです。まったく気乗りしないので別の話にして下さい」
「なんっでだよっ!?」
「いい歳した大人がバカなこと言わないで下さいよ……。絶対にイヤだと言ったらイヤです」
本当に、出会ってしばらくは心からアルヴィンス師匠を尊敬していたのに……。
いい歳してなんて大人なのだろう。
俺は師匠の抗議を背中で受けながら、メープルとシェラハゾが待つ闇の迷宮に引き返した。
師匠と呼ぶにはちょっとヤンチャなアルヴィンスを、どう紹介したものかと物思いながら。
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