・シャンバラ滅亡の危機を桁違いのマジックアイテムで覆す - メギドジェム - 2/2
最後の気力と魔力を込めて、俺は転移した。
目標は敵の背後だ。後ろからメギドジェムを投げ付けて、爆発に巻き込まれる前に即逃げる。
その後、この爆発型エリクサーを前線に届けたら、しばらく休もう……。
「へへへ、この辺りかな……。ヤバい、膝がガクガクするわ……」
亜空間を経由して、俺は敵の背後に転移した。
「ぁ……?」
ところが、無理が祟ったのか座標が狂った。
目の前にトロルの巨体があり、俺の周囲にはゴブリンの群れがひしめいていた。
敵のど真ん中だった……。
「や、やべ……」
いつもならば転移からの再転移なんて無意識で出来る。
だが肝心の身体が動かなかった。
「グッッ……?!」
そのせいで正面のトロルに胸へと膝蹴りを入れられ、後ろのゴブリンに背中を斬られた。
問題ない。瀕死寸前の大ダメージだが、エリクサーがあれば何も問題ない。
しかしまたもや、俺の身体は動かなかった。
しまった……これ、死ぬな……。
力が出ない。これは、もうどうにもならない。大地に膝を突き、敵の刃が俺を囲んだ。俺は死ぬ。
すまん、メープル、シェラハ。俺、カッコ付け過ぎたみたいだ……。
目を閉ざし、人生の終わりを受け入れた。
・
辺りそこら中から、立て続けに雷でも落ちたかのような轟音が響いた。
いくら待っても死は訪れず、肉の焦げる匂いばかりが鼻をついた。
おかしい……。不審に思い目を開ける。
「アルヴィンス……?」
「諦めんじゃねーよ、バカ弟子が。おう、アルヴィンスお師匠様のお通りだぜ」
よく見慣れた不良中年がそこにいた。
いつもならば、魔導師のローブからアルコールの臭いが強烈に立ちこめているはずなのに、今日の師匠は中年の匂いしかしなかった。
周囲にいたはずのモンスターたちは、まるで師匠得意の落雷魔法サンダーストームを打ち込まれたかのように、真っ黒な消し炭になっていた。
「なんとか言えよ。てめーをかばったせいで、てめーのお師匠様は首にされちまった。どう責任取ってくれんだ、あぁー?」
「すみません……」
素直に謝罪の言葉を返すと、師匠は拍子抜けしていた。
身体が動くようになっていたので、エリクサーを口に押し込んで、ろくすっぽ噛まずに飲み込んだ。
全身から痛みが消えてゆく。
魔力はもう空っぽだが、傷は癒え、体力もある程度戻っていた。




