・シャンバラ滅亡の危機を桁違いのマジックアイテムで覆す - メギドジェム - 1/2
「クソ……戦端が開かれたか、もっと急がないとまずいな……」
バザー・オアシスの方角が騒がしい。
剣と剣がぶつかり合い、兵士たちがときの声を上げ、モンスターたちがそれを咆哮で返した。
今すぐ戦いに加わりたいが、俺は集団戦が苦手だ。
ならば錬金術師として、戦況を一変する奇跡のアイテムを作ろう。
俺が作ったポーションはエリクサーとなる。ならば、俺が作ったフレアボムは、フレアボムの残念な常識を必ず吹き飛ばすはずだ。
いつもの手順で湖水に魔物素材を溶かし、全ての元となるエッセンスを作った。
その次はフレアストンだ。火の迷宮に挑戦した冒険者たちから、つい先週こちらに回してもらったばかりのレア素材だった。
「あちっ、危なっ!?」
温かい熱を持つ赤い石は、釜へと投入されるとまるで油のように燃え上がり、俺の眉毛や前髪を焼いた。
これはどういうことだと再びレシピに目を向けると、なるほど。難易度Sクラスと記されていた。
「む、難しいな、これは……やたらに不安定だ……」
釜の中はまるで溶岩のように赤く輝いている。
今にも爆発しそうなそれを、魔力で包み込んで押さえ込まなければ、爆発が起きて失敗となってしまいそうだ。
だが、前線ではみんなが命をとしている。
メープルもシェラハゾも都市長も、闇の迷宮を盾にして戦っている。
俺がここで失敗するわけにはいかない。
歯を食いしばってフレアストンの暴走を押さえ込むと、爆発の鍵となる、ルインタートルの鼈甲を錬金釜に投入した。
爆発しそうな液体に、爆発属性のルインタートル素材を入れたのだ。
当然ながらますます不安定になった……。
「く、くぅぅっ……お、俺は、俺は……っ」
熱く燃え上がる液体から、凄まじいほどの魔力がほとばしっている。
とても抑えきれない。こんなもの無理だと、気弱な心が臆病風に吹かれた。だが……!
「俺はエリートだっ、超スーパーエリートだっっ!! こんなものっ、こんな反応ごときに……っ、エリートは絶対に負けんっ、なぜならっ、俺はっ、エリートだからだっっ!!」
十分に混ざり合った。これ以上ないほどにこの液体は不安定となった。
俺はそこに無色のプリズンベリルを3つ入れて、宝石の中へと究極の危険物を封じ込めた。
「う……うぐっ……?!」
魔力も気力も体力も全てを使い切ったせいで、俺は地に崩れかかったが踏みとどまった。
透明だったプリズンベリルは、炎と爆発の力を宿して深紅に染まり、いかにも不安定そうにチカチカと微かに輝いている。
「待てよ、このレシピを応用すれば……」
もう体力と魔力の限界だった。
しかしひらめきは極限状態時に現れがちなものだ。
俺は極めて危険なフレアボム、いやメギドジェムとでも呼べる魔法爆弾を懐に入れると、調合を再開させた。
最初の手順はエリクサー作りと同じだ。
いつもよりも濃度を高めたエリクサー水溶液に、あえて成分を不安定化させるルインタートルの鼈甲を入れる。
つまり、これは爆発属性のエリクサーだ。
最後にプリズンベリルを3つ投げ込むと、エメラルド色に輝く爆発回復薬が完成した。
ついにやり切った。俺は釜に抱きつくように崩れ落ちて、乱れる呼吸と、もうろうとする頭が元に戻るまで、しばらく安静にするしかなかった。
転移の連続からの危険な調合で、もう体力も魔力も限界だ。
しかしここで力尽きたら元も子もない。急がなければ、1秒遅れるだけでシャンバラの民に被害が出る。
そんな展開は、俺と爺さんの夢には不都合だ。
「俺の魔力は……エリートの魔力は無限だ……。せめて、こいつであいつらを吹っ飛ばしてから……う、うおおおおーっっ!!」
エリートとは、優秀ゆえにブラックな労働環境が約束された悲しき存在だ。
定時に帰って飲んだくれてる連中とは、鍛え方が違うのだ。
年末休み!? 俺の人生にそんなものはなかったっ!!
この程度の苦境、18連勤を耐え抜いた元宮廷魔術師の障害ではない!!
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もう数話で第一部が完結します。




