・死の婚礼 2/2
「はー……死ぬかと思ったー……」
「実際、死ぬところ、だったな……。何が、どうなってるんだか……はぁぁっ……」
俺たちは闇の迷宮に逃げ込むなり、動揺に乱れた心拍を息切れしながら整えることになった。
地上にモンスターが現れたという話は、ツワイク王国でも何度か聞いたことがある。
だがあんな大軍勢が現れて、連携して人を狙ってくるなど聞いたこともない。
ピンポイントに俺たちを標的にした点も加えて、これは異常なことだった。
姉妹は都市長にしがみついて、それぞれの無事を噛み締めている。
なぜかはわからないが、俺の隣はニーアが囲んでいた。
「怖カッタデス……(T_T)」
「死ヌカト、思イマシタ……(T_T)」
「鉄塊のお前らが言うと、なんかシュールだな……」
「酷イデス、ユリウス様……(TへT)」
「お、今ユリウスって言ったな?」
「ア……。酷イデス、ジョン……(TへT)」
変なゴーレムたちのツルッとした装甲を撫でて、もうジョンでもなんでも好きに呼べと慰めた。
しかし落ち着いてくると、次に気なってくるのは闇の迷宮の姿だ。
それは赤と黒に彩られた不気味な世界だった。
霧のように見えるその壁は、触れてみると実体を持っており、ブヨブヨとへばりつくような感触が気持ち悪い。
「こんな話を知ってるか? 闇の迷宮は別世界の入り口で、この迷宮の果てには、ここではない別世界に直接通じているそうだ」
「おー……ユリウスのうんちく、始まりました……」
「別の世界だなんて、あたしには想像も付かないわ……」
「だが歴史上、戻ってきた者はたった1人だけ。行けばほぼ帰ることは出来ないってことだな」
「そう、だったら交易路としての価値はなさそうね……」
そういう発想になるところがシャンバラのエルフらしい。
ところが都市長は俺の言葉に、怖い顔をして迷宮の奥を睨んでいた。
「爺さんも興味あるのか?」
「……ええ。シャンバラの都市長として興味深い話です。あの男の屋敷に、別の世界に通じる迷宮があった。とても偶然とは……」
後半は独り言で、何を言ってるのか上手く聞き取れなかった。
「ユリウスさん、貴方は偵察をしつつ町に戻って下さい。外の軍勢が全てとは限りません」
「ぇ……。それって、町が、襲撃されるかもって、こと……?」
「そんなのダメよっ!!」
仮に群れが外の連中だけだとしても、どっちみちアレはシャンバラの中心に向かうだろう。
今すぐ迎撃準備をしなければ都市部に入り込まれて混戦になる。
「私たちは迷宮を出入りしながら、ヒット&アウェイで外の群れを叩きます。町への連絡、頼めますね?」
「……議論している場合ではないな、わかった。みんな、爺さんがムチャしないように頼むな」
安全は確保したが、事態はまだ動いている。
俺は盟友の願いに立ち上がり、直ちに亜空間の扉を開いた。
「待って!」
「そう……そうやって、すぐ消えようとするの、よくない……」
「悪いな、説教なら後にしてくれ」
「違うわよ。ユリウス……ううん、ユーリ、約束して……。必ず生きて戻るって……」
「それとこれが終わったら、今度こそ、私たちと……結婚して……。うん……って言ってくれたら、処女のまま死ぬに死に切れないから、死ぬほど、がんばれる……。ユリウスとの、緊縛の、初夜……フフ」
ブレない妹の後頭部を軽く叩くと、また嬉しそうに笑い返してくるのだから、かわいい未来の嫁さんだった。
「シェラハゾがドン引きしてるからそれ以上は止めとけ……」
「そ、そういうのがいいなら……わ、私もがんばるわ……」
「姉さん……うんっ、やろう!」
「旦那の人権を尊重しろよ、お前ら……。じゃあな、また後で会おう。ニーア、みんなを頼んだぞ」
「ハイ、背中ニ乗ッテ、オ癒シマス(=へ=)」
「そうか、爺さんを壊さないようにな」
亜空間に身を投じて、俺は世界の裏側に忍び入った。
やはり闇の迷宮は特殊な場所のようだ。
螺旋を描く上り階段から、足下をうかがうと、大きく光る何かが向こう側に見えた。
この力を使えばもう1つの世界に行けるのだろうか。
帰って来れない場所に行く理由など、俺には皆目なかった。
もし少しでも気に入ってくださったら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】いただけると嬉しいです。




