表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/308

・死の婚礼 2/2

「はー……死ぬかと思ったー……」

「実際、死ぬところ、だったな……。何が、どうなってるんだか……はぁぁっ……」


 俺たちは闇の迷宮に逃げ込むなり、動揺に乱れた心拍を息切れしながら整えることになった。

 地上にモンスターが現れたという話は、ツワイク王国でも何度か聞いたことがある。


 だがあんな大軍勢が現れて、連携して人を狙ってくるなど聞いたこともない。

 ピンポイントに俺たちを標的にした点も加えて、これは異常なことだった。


 姉妹は都市長にしがみついて、それぞれの無事を噛み締めている。

 なぜかはわからないが、俺の隣はニーアが囲んでいた。


「怖カッタデス……(T_T)」

「死ヌカト、思イマシタ……(T_T)」

「鉄塊のお前らが言うと、なんかシュールだな……」


「酷イデス、ユリウス様……(TへT)」

「お、今ユリウスって言ったな?」


「ア……。酷イデス、ジョン……(TへT)」


 変なゴーレムたちのツルッとした装甲を撫でて、もうジョンでもなんでも好きに呼べと慰めた。

 しかし落ち着いてくると、次に気なってくるのは闇の迷宮の姿だ。


 それは赤と黒に彩られた不気味な世界だった。

 霧のように見えるその壁は、触れてみると実体を持っており、ブヨブヨとへばりつくような感触が気持ち悪い。


「こんな話を知ってるか? 闇の迷宮は別世界の入り口で、この迷宮の果てには、ここではない別世界に直接通じているそうだ」

「おー……ユリウスのうんちく、始まりました……」

「別の世界だなんて、あたしには想像も付かないわ……」


「だが歴史上、戻ってきた者はたった1人だけ。行けばほぼ帰ることは出来ないってことだな」

「そう、だったら交易路としての価値はなさそうね……」


 そういう発想になるところがシャンバラのエルフらしい。

 ところが都市長は俺の言葉に、怖い顔をして迷宮の奥を睨んでいた。


「爺さんも興味あるのか?」

「……ええ。シャンバラの都市長として興味深い話です。あの男の屋敷に、別の世界に通じる迷宮があった。とても偶然とは……」


 後半は独り言で、何を言ってるのか上手く聞き取れなかった。


「ユリウスさん、貴方は偵察をしつつ町に戻って下さい。外の軍勢が全てとは限りません」

「ぇ……。それって、町が、襲撃されるかもって、こと……?」

「そんなのダメよっ!!」


 仮に群れが外の連中だけだとしても、どっちみちアレはシャンバラの中心に向かうだろう。

 今すぐ迎撃準備をしなければ都市部に入り込まれて混戦になる。


「私たちは迷宮を出入りしながら、ヒット&アウェイで外の群れを叩きます。町への連絡、頼めますね?」

「……議論している場合ではないな、わかった。みんな、爺さんがムチャしないように頼むな」


 安全は確保したが、事態はまだ動いている。

 俺は盟友の願いに立ち上がり、直ちに亜空間の扉を開いた。


「待って!」

「そう……そうやって、すぐ消えようとするの、よくない……」

「悪いな、説教なら後にしてくれ」


「違うわよ。ユリウス……ううん、ユーリ、約束して……。必ず生きて戻るって……」

「それとこれが終わったら、今度こそ、私たちと……結婚して……。うん……って言ってくれたら、処女のまま死ぬに死に切れないから、死ぬほど、がんばれる……。ユリウスとの、緊縛の、初夜……フフ」


 ブレない妹の後頭部を軽く叩くと、また嬉しそうに笑い返してくるのだから、かわいい未来の嫁さんだった。


「シェラハゾがドン引きしてるからそれ以上は止めとけ……」

「そ、そういうのがいいなら……わ、私もがんばるわ……」

「姉さん……うんっ、やろう!」


「旦那の人権を尊重しろよ、お前ら……。じゃあな、また後で会おう。ニーア、みんなを頼んだぞ」

「ハイ、背中ニ乗ッテ、オ癒シマス(=へ=)」


「そうか、爺さんを壊さないようにな」


 亜空間に身を投じて、俺は世界の裏側に忍び入った。

 やはり闇の迷宮は特殊な場所のようだ。

 螺旋を描く上り階段から、足下をうかがうと、大きく光る何かが向こう側に見えた。


 この力を使えばもう1つの世界に行けるのだろうか。

 帰って来れない場所に行く理由など、俺には皆目なかった。


もし少しでも気に入ってくださったら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ