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・死の婚礼 1/2

 幸い、平静を失う者は出なかった。

 とはいえ死と隣り合わせの絶望的な状況だ。


 なぜ地上にモンスターが現れたのか疑問ではあったが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 怪力となったシェラハゾに瓦礫を動かしてもらい、正門を瓦礫のバリケードで塞いだ。


「敵の狙いは我々のようですね……」

「どうしよう……」

「こんなところで籠城しても後がないわ! 手薄なところを強行突破するべきよ!」


 もう神殿の壁に取り付かれそうだ。

 やつらが持つ鈍器や剣が石の壁を叩き付けて、建物全体がヒステリックに鳴り響いた。

 まずい。本当にこれはまずい状況だ……。


「ユリウスさん……お得意の転移魔法で、娘たちを外に運んでくれますか?」

「そんなのダメよっ!」

「ユリウス……私たちはいいから、都市長を、外に……」


「私の命より、娘たちの幸せの方が大切です。さあ、ユリウスさん……」


 指導者シャムシエルというシャンバラの未来か、自分の未来の嫁か、俺は究極の2択を迫られた。

 残った者は殺される。俺だけは生き残れる。目前にあるのは理不尽な選択肢だった。


「仮に転移で逃げるならば、全員連れて行くよ。全員で禁忌のツケを払えばいい」

「でも……もし、転移先が100年後になったら……その間、誰がシャンバラを、導くの……?」

「先に都市長を運んで! あたしたちはその後で構わないわ!」


 どのプランも一長一短で犠牲がともなうものだが、悩んでいる場合ではないという部分だけは確かだ。

 今にも正面の扉が叩き破られそうで、俺たちはますますの覚悟を迫られた。


 なぜこんなことに。そんなことを考えている暇もない。

 シェラハゾが最初に提案した強行突破を試し、突破に失敗したら、全員での転移を試みるべきか……。


「諦める前に強行突破を試そう。それでダメだったら転移を使う。もう時間がないので反論はなしだ、これでいくぞ」

「ユリウスさん、ではもしもの時は私を捨て下さい。私は娘を守りたい。娘を頼むと、私は()に頼まれたのです!」

「イヤよっ、あたしはお荷物にはならないわ! あたしは戦士よ、死ぬときは戦い抜いて死ぬわ!」


 どいつもこいつも高潔過ぎる……。

 俺は誰かが殺される姿は見たくないので、飛ぶときは全員で飛ぶと心に決めた。


 手薄なルートはやはり神殿の後方だろう。

 敵ごとあの壁を吹っ飛ばして、シェラハゾを切り込み役にして、俺たちが支援に回ればどうにかなる可能性がある。


「ちょいちょい……。おーい、ちょいちょい……」

「強行突破だ、行くぞメープル!」


「ニーアたちが、見つけた……」

「下、下! 何カアル! コノ下、何カアリマス!」


 口数少なかったニーアたちが跳ね回り、メープルが足下を指さしていた。

 そんな状況ではないのだが、意識を足下に向けると――おかしなことに地下から微小な魔力を感じた。これは、いや、まさか……。


「試してみる価値はある! ニーアッ、そこをどけっ!!」

「ドウゾドウゾ……!(・へ・)」


 短剣を引き抜き、最短の増幅速度で、俺はニーアたちが跳ねていた床をアースグレイブで隆起させた。

 連鎖的にメープルが爆裂魔法でアースグレイブを吹き飛ばすと、それはまさかのまさかだ……。


「あれって、嘘っ、迷宮っ!?」

「あれに入るぞ! 迷宮にはルールがある、モンスターは迷宮と地上を行き来出来ない! あれが俺たちのシェルターだ!」


 俺はお手柄のニーアを抱え上げて、アースグレイブで生まれた傾斜面を滑り降りた。

 皆が後に続き、誰もがそこに現れた迷宮の様相に驚いた。


 だが今はそれどころではない。

 その迷宮の入り口が、光拒む漆黒の霧に包まれた『闇の迷宮』のものであったとしても、俺たちは生きるために中へと飛び込む他になかった。


 入ってしまえば、危険は迷宮内部のモンスターだけだ。

 地上の壁が崩され、モンスターたちが奇声を上げながら雪崩込んでくる暴力的な騒音を聞きながら、俺たちは霧の扉の中へと逃げ込んだ。

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