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・砂漠の国に春を 2/2

 釜にオアシスの水を入れ、魔力で沸騰させると、レシピ通りに魔物素材と大地の結晶を混ぜ合わせる。

 仕上げに樹の迷宮で手に入れたトレントの枝を加えれば、シルフの接吻の完成だった。


 オアシスを少し離れるとそこは砂漠だ。瓶詰めになった深緑の薬液を砂の大地に垂らす。

 すると不思議なことに、砂はやわらかな土に変わって、歩いて一歩ほどの面積を緑の沃野に変えていた。


 どことなくトレントに似ていなくもない苗木が一本と、エメラルドグリーンに淡く透けるクローバーだ。

 砂漠の中に生まれた緑は、否応なく掛け替えのない宝のように見えた。


「成功か。だがこれでは釣り合わんな……」


 あのオアシスのように、錬金術の力を駆使すればシャンバラの姿をいにしえの理想郷に戻せるのではないか。

 そう期待して調合してみたものの、これでは材料費に対して面積があまりに小さ過ぎる。


「やはりユリウスさんでしたか。おや、それは……お、おおっ!」


 砂漠にぽつんと生まれた小さな草原を眺めていると、都市長の声がして後ろを振り返った。

 しかし彼は、俺が実験的に生み出した小さな緑の方に夢中だった。


「シャンバラの砂漠に草木が……! これは貴方が……!?」

「ああ、土壌改良剤こと、シルフの接吻が本に載っていたので作ってみた。だが……現状は効果範囲が狭すぎて、これでは道楽の域を出ていないな」


「いえっ、そんなことはありませんよっ! 緑が、この枯れた砂漠の大地に緑が……これは我々の希望です、ユリウスさんっ!」

「爺さんは落ち着いているようで、結構情熱家だよな。喜んでもらえてよかった」


 都市長はちっぽけな緑の前に膝を突いて、オアシスを離れるとすぐに不毛となる大地に希望が生まれたことに、大げさな感動をしていた。

 それは彼ら砂漠エルフ(デザート・ウォーカー)の夢の一つだ。


 シャンバラのあるべき姿を、ここの老人たちは取り戻したいと切に願っている。

 マク湖のあの長老に俺はそう教わった。

 シャムシエル都市長を支えてやってくれとも、頼まれてしまった。


「それで爺さん、爺さんこそこんな半端なところで何やってるんだ?」

「おお、そうでした。実は貴方にお願いがあるのです」


「いいぞ、シャンバラを発展させるのは、かなり楽しいとわかったからな」

「いえ、シャンバラのことではありません」


「なんだ、違うのか?」

「ええ、ですがそれと同じくらい大切なことです。市長邸に着替えをご用意いたしましたので、ちょっとそこまで、付き合っていただけませんか?」


 妙な誘いだった。どこかのお偉方のところにでも、俺を連れて行きたいのだろうか。

 あまり気乗りしないが、家に帰ってもやることがないので、俺は市長邸に向かって一歩を踏み出した。


「行かないのか?」

「行きますとも」


 そう言いながらも、都市長は落ちつきなく後ろを振り返っては、砂漠に生まれた緑に目を奪われていた。

 こんなに喜んでもらえるとは思わなかったな……。


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