・砂漠の国に春を 1/2
シャンバラでは元よりガラスの製造が活発だ。
その原材料の珪砂はこの地ではありふれたもので、探せば天然のガラス塊まで砂漠に転がっている。
そのためポーションの輸出事業は、シャンバラのガラス工業と非常に相性が良かった。
今日も職人街の徒弟より、ガラス瓶が我が工房の水槽に500個並べられると、ものの15分の調合でポーション500本がそこに完成していた。
それを2回繰り返せば、1日のお勤めは終わりとなる。
「今日もお疲れ様でした」
「後は我々にお任せを」
完成するといつもは工房の徒弟たちと、うちの姉妹が搬送を手伝ってくれる。
しかし今日はどういうわけか、メープルとシェラハゾの姿が朝からどこにもなかった。
「なあ、メープルとシェラハゾを見てないか?」
「今日は見ていませんね」
「都市長から別件の仕事を任されたのでは?」
「かな……。後であっちにも顔を出してみるか……」
エルフとネコヒト族の徒弟たちが木箱にポーションを詰め直すのを見送って、俺は1度工房を離れて居間に戻った。
「おーい、シェラハゾ。メープル。やっぱいないのか……」
2階に上がっても部屋は空っぽで、なんだか調子が狂うような妙な気分だった。
彼女たちは錬金術師ユリウスの補佐役だ。
その2人が何も言わずに姿をくらますなんてことは、これまでそうあることではなかった。
「あ、ユリウスさん。あの僕、前から貴方に聞きたかったことがあるんですけど……」
「早く行かないと兄弟子たちに置いてかれるぞ。それで?」
工房に戻ると、ちょうど最後の徒弟が木箱を抱えて出て行くところだった。
彼は11歳くらいのエルフの男の子で、美少年と呼んでも差し支えなかった。
「お金、取らないんですか……?」
「ああ、ポーションの売り上げのことか?」
「そうですよ。億万長者にだってなれるのに、どうして……?」
「都市長にも同じことを言われたな。いや別に俺は聖人じゃないぞ。単に金の使い道が思い付かなかったから、当面は分け前を遠慮したんだ」
そう答えると、若い徒弟はなんとも言えない曖昧な顔をした。
金持ちは金の使い方を悩んでいると言うが、きっとそれは本当のことだ。俺は金の使い方をまったく知らない。
かといって金持ちの真似事をしたところで、あまり楽しめなさそうだ。
「あのっ……僕、尊敬してます! シャンバラのために、お金も受け取らずに尽くしてくれるなんて……。やっぱり貴方は素晴らしい方だと思います! がんばって下さい、ユリウスさんっ!」
「……へ? あ、ああ……ほどほどにそうするよ」
徒弟は重い木箱を抱えて、俺に対する誤解を抱えたまま外に駆けていった。
彼らはあのポーションを商館の倉庫に運んで、商館はそれを世界各地に輸出する。
そして俺は、あのスラム街が小さくなってゆく様を眺めて自己満足に浸る。
都市長が俺のパトロンでいてくれるからこその、気軽な立場だった。
「しかし、あいつらどこに消えたんだろな……」
都市長のところを訪ねようかとも思った。
しかしそんなことをしたら、彼に気持ちを悟られてしまう。
だったら目の前の錬金釜で遊んでみようと、俺はまず本棚に手をかけて貴重本のページをめくった。
少し特殊な物を作ろうとすると、何かと貴重な材料が必要になる。
それゆえにままならないのが錬金術の宿命のようだ。
稼いだ金の使い道があるとすれば、やはりこっちの方向だろう。
「土壌改良剤、シルフの接吻……これだ」
これといってやることもないのでしばらく読み漁ると、ようやく俺は目当てに近いレシピを見つけ出だした。
本によるとそれは、枯れた大地に実りを蘇らせる魔法の薬品だ。
その本を抱えながら倉庫を物色すると、完璧ではないが有り合わせの材料でどうにかなりそうだとわかった。
ならばやることは決まりだ。
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