・半月後、ツワイク王国にて―― 2/2
「余計な口をはさむな。よかろう、言え、アルヴィンス」
「は! ポーション劣化の原因はユリウスです」
その一言に、ヘンリーとアリは胸をなで下ろした。
しかしな、アルヴィンスはそういうやつじゃない。へそ曲がりの偏屈野郎だ。
「根拠はあるのか?」
「はい。私が育てた弟子の中で――いえ、宮廷で最も魔法の才能に恵まれていた男の名が、ユリウス・カサエルなのです。そのユリウスが工場から消えれば、ポーションの粗悪化は必然でしょう、バカなことをしたものです」
「なんと、それほどまでに才であったと……?」
「はい。彼をポーション工場に回したのはある面では正解でした。しかしその彼を冷遇し、スパイとの国外逃亡を招いたのは我々です。我々は国の繁栄を約束させる天才を、自らの手で追い出したのです」
黙れ、でたらめだ、ふざけるな、たわごとだ。
ヘンリー工場長とアリ王子は、ありったけの罵声をアルヴィンスに送った。
しかし陛下は重く一考し、息子と無能な工場長を睨んだ。
「ヘンリー男爵、工場は引き続きそなたに任せよう」
「おお……信じて下さいますか、陛下っ!」
「ただし、経営を立て直せなければ、爵位と全財産を没収とする。よく励むように」
「……はっ、はひっ!?」
「それとも今すぐ没収されたいか?」
「はっ、め、滅相もございません!! か、必ず、必ず……必ず建て直しを……は、はぁっ、はぁぁっ、このわたくしめに、お任せ下さい……」
建て直しは不可能だ。
同額で2倍の回復効果を持った闇ポーションがシャンバラから流れてきている。
それでも彼は競争に勝たなければならない状況に追い込まれた。
可哀想だが、彼が王の命令を遂行するなど不可能だ。財産と爵位はいずれ露と消える。
「次にアリ」
「なんでしょうか、父上」
「ポーションの劣化は、経済のみならず、次の戦争の勝敗にすら影響を及ぼす。アルヴィンスよ、ユリウスの力がポーション工場を支えていたというのは、真実であるな?」
「はい、断言しましょう。加えてユリウスは転移魔法の天才でもあります。彼を軍の主力に置けば、戦いは常勝無敗となるはずでした」
「そうか、惜しい男が出奔したな……。なれば」
王はアリのクソ野郎を再び睨んだ。
アリの素行の悪さ、性質を親が知らないわけがない。
ツワイク王はそんなアリが俺に罪を擦り付けるのを、見て見ぬ振りをしていたはずだ。
「ユリウス・カサエル侯爵を捜せ」
「……はい? 父上、やつは薄汚い下民――」
「これより余は、ユリウス・カサエルを形式上の侯爵に封じる。アリ、そなたはユリウスを連れ帰るその日まで、ツワイクの地を2度と踏むな」
「……は? ご冗談でしょう、父上? お待ち下さい、どこにいるかもわからない人間を、どうやって捜せというのですかっっ!?」
「黙れ!!」
「うっ……!?」
「そなたのせいで、3年前の戦争はこちらの完勝だったというのに、無用な譲歩をすることになった!! そなたがユリウスに罪を擦り付けなければ、彼はアルヴィンスの右腕として余の力となっていた!! 無能はユリウスではない、そなただっ、このどうしようもないバカ息子めっっ!!」
ただの結果論だ。
しかしヘンリーとアリが苦境に追い込まれたとの報は、俺の胸をスッさせてくれた。
「私より、下民の才を選ぶと、そう言うのですか、父上……?」
「そうだ。そなたの嘘にはもううんざりだ。ユリウス侯爵を宮廷に連れ帰れ、それまでそなたは勘当だ。二度と顔を見せるな」
「そんな、バカな……。これは夢だ……そんな、俺の才が、あの男に劣るなど……。あの薄汚い魔術師風情が……ク、クソォォ……ッッ!!」
アリは力なく地に崩れ、暴言を吐きながら謁見の間を追い出されていった。
――さて。では、先述した話に戻すが、シャンバラは元々迷いの森に囲まれた水里だ。
つまりアリは俺の居所を見つけたところで、シャンバラで美しい姉妹と暮らす俺の前に立つことは、ほぼ不可能と言ってもよかった。
アリは国を追い出され、見つかるはずのない男の足取りをこれから捜すことになる。
ヤツが憎しみの言葉をいくら吐き出しても、その呪詛はシャンバラの迷いの砂漠を越えることはないだろう。
俺はこのシャンバラを去る気など、さらさらないのだから。
むしろ半月経った今では、ここに骨を埋めたいとすら思っていた。
ここの連中はいいやつらだ。俺は母国ではなく、やつらの力になりたい。
二部からは頻度の低かったザマァ展開を強化します。
また、近々平行して新作を公開する予定です。
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