表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/308

・半月後、ツワイク王国にて―― 2/2

「余計な口をはさむな。よかろう、言え、アルヴィンス」

「は! ポーション劣化の原因はユリウスです」


 その一言に、ヘンリーとアリは胸をなで下ろした。

 しかしな、アルヴィンスはそういうやつじゃない。へそ曲がりの偏屈野郎だ。


「根拠はあるのか?」

「はい。私が育てた弟子の中で――いえ、宮廷で最も魔法の才能に恵まれていた男の名が、ユリウス・カサエルなのです。そのユリウスが工場から消えれば、ポーションの粗悪化は必然でしょう、バカなことをしたものです」


「なんと、それほどまでに才であったと……?」

「はい。彼をポーション工場に回したのはある面では正解でした。しかしその彼を冷遇し、スパイとの国外逃亡を招いたのは我々です。我々は国の繁栄を約束させる天才を、自らの手で追い出したのです」


 黙れ、でたらめだ、ふざけるな、たわごとだ。

 ヘンリー工場長とアリ王子は、ありったけの罵声をアルヴィンスに送った。

 しかし陛下は重く一考し、息子と無能な工場長を睨んだ。


「ヘンリー男爵、工場は引き続きそなたに任せよう」

「おお……信じて下さいますか、陛下っ!」


「ただし、経営を立て直せなければ、爵位と全財産を没収とする。よく励むように」

「……はっ、はひっ!?」


「それとも今すぐ没収されたいか?」

「はっ、め、滅相もございません!! か、必ず、必ず……必ず建て直しを……は、はぁっ、はぁぁっ、このわたくしめに、お任せ下さい……」


 建て直しは不可能だ。

 同額で2倍の回復効果を持った闇ポーションがシャンバラから流れてきている。


 それでも彼は競争に勝たなければならない状況に追い込まれた。

 可哀想だが、彼が王の命令を遂行するなど不可能だ。財産と爵位はいずれ露と消える。


「次にアリ」

「なんでしょうか、父上」


「ポーションの劣化は、経済のみならず、次の戦争の勝敗にすら影響を及ぼす。アルヴィンスよ、ユリウスの力がポーション工場を支えていたというのは、真実であるな?」

「はい、断言しましょう。加えてユリウスは転移魔法の天才でもあります。彼を軍の主力に置けば、戦いは常勝無敗となるはずでした」


「そうか、惜しい男が出奔したな……。なれば」


 王はアリのクソ野郎を再び睨んだ。

 アリの素行の悪さ、性質を親が知らないわけがない。


 ツワイク王はそんなアリが俺に罪を擦り付けるのを、見て見ぬ振りをしていたはずだ。


「ユリウス・カサエル侯爵を捜せ」

「……はい? 父上、やつは薄汚い下民――」


「これより余は、ユリウス・カサエルを形式上の侯爵に封じる。アリ、そなたはユリウスを連れ帰るその日まで、ツワイクの地を2度と踏むな」

「……は? ご冗談でしょう、父上? お待ち下さい、どこにいるかもわからない人間を、どうやって捜せというのですかっっ!?」


「黙れ!!」

「うっ……!?」


「そなたのせいで、3年前の戦争はこちらの完勝だったというのに、無用な譲歩をすることになった!! そなたがユリウスに罪を擦り付けなければ、彼はアルヴィンスの右腕として余の力となっていた!! 無能はユリウスではない、そなただっ、このどうしようもないバカ息子めっっ!!」


 ただの結果論だ。

 しかしヘンリーとアリが苦境に追い込まれたとの報は、俺の胸をスッさせてくれた。


「私より、下民の才を選ぶと、そう言うのですか、父上……?」

「そうだ。そなたの嘘にはもううんざりだ。ユリウス侯爵を宮廷に連れ帰れ、それまでそなたは勘当だ。二度と顔を見せるな」


「そんな、バカな……。これは夢だ……そんな、俺の才が、あの男に劣るなど……。あの薄汚い魔術師風情が……ク、クソォォ……ッッ!!」


 アリは力なく地に崩れ、暴言を吐きながら謁見の間を追い出されていった。


 ――さて。では、先述した話に戻すが、シャンバラは元々迷いの森に囲まれた水里だ。


 つまりアリは俺の居所を見つけたところで、シャンバラで美しい姉妹と暮らす俺の前に立つことは、ほぼ不可能と言ってもよかった。

 アリは国を追い出され、見つかるはずのない男の足取りをこれから捜すことになる。


 ヤツが憎しみの言葉をいくら吐き出しても、その呪詛はシャンバラの迷いの砂漠を越えることはないだろう。

 俺はこのシャンバラを去る気など、さらさらないのだから。


 むしろ半月経った今では、ここに骨を埋めたいとすら思っていた。

 ここの連中はいいやつらだ。俺は母国ではなく、やつらの力になりたい。



二部からは頻度の低かったザマァ展開を強化します。

また、近々平行して新作を公開する予定です。

どうかそちらも応援して下さい。


Twitterで宣伝を手伝って下さったり、みなさまのたくさんのご支援に感謝いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こてこてのテンプレでも文章が良ければ面白いとよくわかること。 [気になる点] 増やしちゃうの? [一言] 昆虫王子とか工場長よりも可愛い姉妹の方が良いなあと思いました。 それすらも面白く描…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ