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・再潜、樹の迷宮!

 建物というのは、大きければ大きいほどに手がかかるものだと、肌身をもって体感させられた。

 それでも人々の努力のかいもあって、ついに夕方前に白亜の塔が完成した。


 高さは約5m、壁の厚さは慎重に慎重を重ねて40cm以上。壁には石ころが埋め込まれてそれが間に合わせの階段となり、内部は螺旋階段が設けられてそれが深い地下へと続いていた。


 喜びに人々の歓声が上がる中、俺たちはその螺旋の道を下る。

 シェラハゾの照明魔法に照らされながら、俺たちはあの樹の迷宮の扉までやってきた。


「もし水が漏れたら頼むな。迷宮から戻って来たら、そこが水の中だったなんてオチは避けたい」


 塔の内部で工員に待機してもらい、俺たちは精鋭とともに迷宮を下った。

 最後の仕上げだ。これから樹の迷宮内部の水漏れを修復し、地下水の流れをあるべき形に正す。


「ユリウス様の前だよっ、アタイに恥かかせたらぶっ殺すミャッ!!」

「へいっ、姉御! オラオラオラオラァァーッッ!!」

「オラオラどけどけっ、姉御様のお通りコラァーッ!!」


 白いネコヒトは冒険者たちのリーダーだったが、あの日の負傷でしばらく現場から離れていたそうだ。

 しかし今では調子を取り戻し、部下と一丸となって俺から仕事を奪ってくれている。


「ユリウス、言っておくけど転移は禁止よ」

「わかってる。この前の件で、必要もないのに連発する術じゃないと理解はした」

「ふぁいやー……」


「あっこらっ、それ俺が狙ってた獲物だろが!」

「のろまは、罪……」


「人をあおるな!」


 投入された人員は俺たち含めて14名だ。ハッキリと言って後衛に出番などなかった。

 総勢9名の前衛たちが、モンスターの群れに突撃を仕掛けては飲み込んでゆく。


 俺たちはボス部屋に至るまで、ほぼ立ち止まることのない進撃を果たしていた。


「リビングアーマーか。やっと出番が来たな」


 ボス部屋にいたそれは、首のない全身鎧の騎士だ。

 骨だけの不気味な馬に騎乗していて、その体躯は高さ3m以上もあった。


「突撃ミャァッッ!!」

「スケルトンなんて怖くないっ、怖いのは姉御の雷だけだぁーっ!!」

「お先にっ、ユリウス!」


 腰の短剣に手をかけようとすると、シェラハゾと白いネコヒトを含む前衛たちが突撃していた。

 しまった出遅れたと、俺も室内になだれ込み、短剣を引く抜く。


筋力弱体(ウィークネス)守備力弱体(アーマーブレイク)、あと敏捷性低下(スロウ)!」


 メープルが弱体魔法を連発すると、リビングアーマーが突撃部隊と激突する。

 シェラハゾがその手に持っていたのは、いつものあの細剣ではなく、分厚い刀身を持ったカトラスだ。


 なんと彼女は一刀をもって、リビングアーマーの利き腕を怪力で斬り飛ばしていた。


「嘘だろ……」


 寝ぼけて石壁を吹き飛ばす身体能力だ。

 目を疑う光景だったが、理論上はガンドレットごと敵の腕を飛ばすことなど簡単だった。


 利き腕を失った騎士の鎧の隙間に、次々と冒険者たちの刃が突き刺され、追撃の魔法がスケルトンホースを止めた。

 まずい、このままだと出番なしで今回の冒険が終わってしまう。


 俺はいつもの癖で亜空間転移をするのを踏みとどまって、代わりにアイススピアを増幅した。

 敵はでかい。胸から上には刃が入っていない。


 3mほどの鋭く長い氷の槍を生み出すと、俺はヤツの心臓をめがけて狙いを絞り、仲間が敵の動きを封じているのも幸いして、寸分狂わずに胸を射抜いた。


 すると雄々しく巨人のように低い悲鳴が上がり、鎧騎士の身体が崩れてゆく。

 魔力を失ってかスケルトンホースも同様にただの骨へと戻り、主もろとも崩れていった。


 後に残ったのは小さな銀色の宝箱だ。


「見覚え、あるような……開けていい……?」

「奇遇だな、俺もだ。金目の物ならみんなで分けよう」


「たぶん……そういうのと違う、予感……。あ……っ、ニーア……?」

「な、なんでここにニーアが入ってるのよっ!?」


 そういえば、ニーアはこの迷宮で手に入れたんだった。

 箱の中に入っていたのはニーアそのままの白いゴーレムで、俺たちの言葉に反応して動き出した。


「ハジメマシテ、ワタシノ、名前ハ――(・_・)」

「ニーアだろ。お前何やってんだ?」


 今更も今更の自己紹介に口を口を挟むと、ニーアがプチフリーズした。


「アッ……。モシヤ、貴方ガ……ジョン?(?_?)」

「俺はユリウスだっつってんだろ……。天丼ネタもいい加減しつこいぞお前……」


 しかしこれは何がどうなっているのだ?

 冷静に考えてみれば、迷宮の外にいるニーアがここにいるはずがない。


 これはリビングアーマーの身体から発生した宝箱だ。なぜこの箱からニーアが出てくる……。


「ユリウス、ユリウス、これ、ニーアじゃないよ……?」

「なんでわかる?」

「あの子、外の塔を作るの手伝ってたのよ。ここにいるわけないわ」


「あのちっこい成りでか?」

「ちっこいけど、力持ち……。狭い日も、安心……」


「じゃあ、コイツはなんなんだ?」


 何から何までニーアと同じなので、いくら観察しても見分けがまるで付かない。


「タッタ今、外ノ、ニーア、ト、交信出来マシタ。ヤハリ、貴方ガ、ジョン……オ会イ出来テ、光栄デス(ー人ー)」

「俺はユリウスだっ!!」


 わけがわからないが、俺たちは2つ目のニーアを手に入れ、うちで引き取ることになった……。


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