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・枯れたオアシスに築く希望の塔

 調合を始めてより1時間半ほどして、俺たちは再びあの枯れたオアシスにやって来た。

 追加物資をラクダに乗せて、俺とシェラハゾは昼を迎えつつある黄色い砂漠を歩いて、ようやく到着といったところだった。


「見て、ユリウスッ、あれっ!」

「おいおい……あいつら、どんだけ人集めたんだよ……?」


「急ぎましょ、工事が止まってるみたい。きっとあたしたちの物資を待ってるのよ!」

「目がいいよな、お前ら……」


 エルフという種族の特性に加えて、広大な平野で暮らしているからこその視力なのだろう。

 オアシスの中央に塔のようにそびえ立つ白い建造物は、既に目視で2階建ての建物ほどの高さを持っている。


 木組みの足場が作られ、その周囲にはローブやマントをまとった人々が集まっている。

 その数、遠目にも100人をゆうに超しているように見えた。


「ユリウスッ、見えるっ!?」

「人が集まっているな。しかし、どこからあんなにかき集めたんだが……」


「民よ!」

「民? 民って……まさか、あれってここの元住民か?」


「きっとそうよ! ご年輩から子供たちまで、みんなが工事を手伝ってくれてるわ! あなたの計画に賛同してくれたのよっ!」


 ラクダの手綱を引きながら、俺は目前の光景に心を奪われた。

 彼らは自分たちの生活を取り戻すために決起しただけなのかもしれないが、それでもこれだけの人数が計画に賛同してくれたことが嬉しかった。


「何よ、黙り込んじゃって。ユリウスはアレを見て何も思わないのっ!?」

「驚いたよ、驚きに言葉を失っていただけだ。……やるじゃないか、シャンバラの民。ってな」


「ふふふっ、あなたの口からそう言われると嬉しいわ」


 さらに近づいてゆくと俺の目でも詳しく確認出来た。

 エルフにネコヒト、有角種、みんなが一丸となって枯れたマク湖に塔を作っていた。


 俺たちに気づくと人々が駆けて来て、口々に感謝を述べながらラクダに積んでいた物資をあちらに運んでいった。

 その姿は長いスラム生活に汚れ、少し臭ったが、誰もが希望に表情を輝かせていた。


「どうしたの、ユリウス?」

「別に大したことじゃない。……いいことすると、案外気持ちいいもんだな」


「ふふふっ、そうね。あたしもあなたが誇らしいわ」

「おだてるな。お、あそこにメープルがいるぞ」


 メープルのところまでやってくると、その隣に小綺麗な身なりのエルフ族の老婆がいた。

 その老婆にかわいがられていたみたいだ。


「ユリウス、これ、ちょーろー……結構、いいやつ……」

「ちょっとメープル、失礼でしょ。ごめんなさい長老様、メープルはこういう子なの」


 今日2度目の感想になるが、この姉は妹に甘すぎる。

 両親を失った彼女の前に現れたのが、この愛らしいメープルとやさしい都市長だったと考えれば、当然といえば当然なのかもしれないが……。


「ありがとうねぇ、このオアシスの民を代表して、ユリウスさんにお礼を申し上げますよ。ああ、ありがや、ありがたや……神様はやっぱりいたんだねぇ……」

「拝まないでくれ、俺はただの超スーパーエリートだ、神なんかじゃない」


 老婆は両手を擦って俺を拝んだ。

 水涸れで街ごと離散して、大半の民がスラム街で生活していたのだから、それだけ感謝する気持ちはわかる。


 水涸れ。それは本来ならば絶対に覆すことの出来ない天変地異だ。


「貴方様は救世主だよぉ……。もっと顔を見せておくれ……」

「ずいぶんと年老いてるな。婆さん何歳だ?」


「ヒッヒッヒッ、あたしゃ始祖様の時代から生きてるよぉ……」

「それは確か、13のうち11の部族が失われる前か?」


「あらまぁ、勉強熱心なのねぇ……そうだよぉ」


 シェラハゾに流し目を向けるとそっぽを向かれた。

 これはシェラハゾの幼少期の記憶で、俺のものではない。


「それでユリウス様……あの塔が完成すれば、マク湖に水が戻るんだよねぇ……?」

「それは地下水の流れ次第だな。まあこれは個人的な見解だが、水が戻る可能性は高いと思う」


「そうかい……っ! ありがとよ、ありがとよぉっ、ユリウス様……!」

「ようやく着きましたか、待っていましたよ。どうやら長老に気に入られたようですね」


 そこに初老のエルフが現れた。なんとそれは都市長だ。

 アンタ都市長としての仕事はどうした? って目で見ると、彼はやさしそうにこちらへと笑い返す。


「私がいなくともシャンバラは回ります」

「あのね、都市長がね、スラムのみんなに、声をかけに行ってくれたの……。故郷を、蘇らせるチャンスが、来たって……」

「それで納得だ。そりゃアンタが声をかければ、これだけの人数が集まるだろうな。何せ信用が違う」


 都市長のやり方に俺は心の中で賛同と賞賛をした。

 スラム街に追いつめられているとはいえ、助けが来るまで待つだけでは苦境から抜け出せない。


 そんな避難民たちに、チャンスがやって来たから自発的に行動しろと、彼は励ましたのだ。

 人から与えられた復興よりも、ずっと価値あるものになるだろう。


「爺さんは、完成までどれくらいかかると思う?」

「そうですね……。この調子だと、夕過ぎくらいでしょうか。追加物資も来たことですし、もう少し壁を厚くしたいところでもあります」


「水圧がかかるとなると、それが確実かもな。だったら俺も手伝おう」

「お、お待ち下さいユリウス様! 貴方を働かせるくらいなら、このババァめが……!」


「ただ俺が身体を動かしたいだけだ。それより婆さん、今度機会があったら昔話を聞かせてくれ。エルフの歴史に興味が出て来た」


 みんなと別れて、俺は塔の建設現場に向かった。

 亜空間転移の力を使えば、建材を塔の上に運んだり、内部に運ぶのも簡単だ。


 今日中に、暗くなる日没までに完成させたい一心で、俺たちは日中も交代で作業して、枯れたオアシスに希望の塔を築いていった。


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