・真実の姿 2/2
「しかしこれ、いけるんじゃねーか……?」
「いけるって、何がいけるミャ? 猫まんまかミャ?」
再確認にひびの入った指先を、自分の力でもぎ取ろうとしてもビクともしない。
やはりいけると確信した。
「俺たちはマク湖の底に眠る、迷宮の穴を塞ぐためにこれを作った。これだけの強度の補修剤を使えば、水圧のかかる穴を塞ぐことも可能だろう。だが……もし塞げば地下水の流れが正常化し、あの迷宮の入り口が湖の底に沈むことにもなる」
「そんなの悩むことなんてないわよっ、迷宮なんかより、民の生活の方が大事に決まってるでしょ!」
いや、それは凡夫の考え方だ。
エリートである俺は常人の斜め上を行くべきだ。
マク湖という人が集まる大きなオアシスと、富を生み出す迷宮の両方を取る道があることを、このコンクルの補修作業が証明してくれていた。
これは使える。砂と水と混ぜ合わせるだけで、破城槌すら跳ね返せる壁がそこに生まれるとなれば、その用途は無限大だ。
軍略のみならず、この超コンクルはあらゆる土木工事に革命を起こすだろう。
「違うな、二者択一で考えることこそ間違いだ。この桁違いの強度と速乾性があれば、二択は二択にすらならない」
「まどろっこしい……。つまり、どゆこと……?」
「迷宮内部の亀裂を塞ぐ前に、このコンクルで迷宮の入り口を保護する。水没しないように周囲を覆って、地上との行き来が出来るようにしよう。そうすればそこに、迷宮という名の経済が生まれる。それだけ復興が早まるってことだ」
そうこちらが主張すると、しばらくの沈黙が返ってきた。
この奇跡の建材があれば水没から迷宮を守れる。たったそれだけのことだ。
「あなたって、意外と考えてるのね……」
「それ名案ミャッ! 冒険者として賛成したいミャッ!」
「面白そうじゃねーかっ、それ今すぐやろうぜっ、錬金術師!」
反論する者はいなかった。ならば都市長さえ納得させればプロジェクトに移れる。
頼もしいことに、冒険者たちは口々に工事を手伝うと名乗り出てくれた。
「これで決まりだな、爺さんに報告を頼む。俺はコンクルの量産に入ろう。余ったところでいくらでも使い道がある物だからな」
「ユリウス2号……デビルタイプも、作れるね……」
「お前はこれ以上、おぞましい物を作るな……。アレどうするんだよ、下手したら1000年単位で残るぞ……」
「プッ……笑える……」
「笑えねーよっ、さっさと報告に行けよっ!」
白いネコヒトの方はギルドに戻って、もう少しの人員をかき集めてくれるそうだ。
今日1日でマク湖オアシスに水を戻して、迷宮もその後利用できるように保護する。
都市長の許可が下りると、冒険者たちが在庫のコンクルと水を持って、マク湖へと先行していった。
俺もありったけのコンクルを量産してから、彼らの後を追うことにしよう。
我が家の小破から始まる騒動は、思わぬところで転換を迎えて、オアシスのど真ん中に塔を建てる一大プロジェクトへと発展していった。
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