・真実の姿 1/2
「ん、んん……?」
コンクルの速乾性は恐るべきもので、あっという間に壁の補修が完了していた。
外から見ると塗り固めた部分だけボコボコで少し不格好だったが、色合いは元々の建材よりも真っ白で実に綺麗なものだった。
通常ならば2、3日はかかる修復作業が、1時間弱で終わっていた。
そこまではまあよしとして……。
「余ったから……ユリウス像、作らせてみた……なう」
「は、トロール像の間違いだろ?」
「ううん……。これがユリウスの、真実の姿……」
「どこまで本気なんだ、お前……」
「割と、全部……?」
ボールみたいに膨れた腹と豚鼻は、どう見たってトロールそのものだった。
建材が余ったのなら、小屋を建てるなりもうちょっとまともな使い道があっただろうに……。なんだこの、冒涜的なオブジェは……。
「……しかしこれ、どれくらいの強度なんだろな。ああそうだ、おーい、シェラハゾ! これぶん殴ってみてくれ」
「嫌よ、メープルが一生懸命作ったのよ、壊せるわけないじゃない」
「姉さん……」
「ふふふっ。勇ましいトロール像ね!」
姉にかばわれて幸せそうな妹の様子が、途端に無表情へと戻るのを俺は見た。
いや360度どこから見ても、トロールにしか見えねーし……。
これがユリウスに見えてるのは、きっとメープルだけだ……。
「ユリウス像なのに……」
「えっ!? あ、ああっ……そうね、えっと……め、目のあたりがユリウスに似てるわねっ!」
「んなわけあるか……っ! 俺はトロールじゃない、こんなものはぶっ壊す……っ!」
切っ先の欠けた短剣を抜いて、その柄を使ってコンクル製のオーク像を殴り付けた。
「硬っっ?! 傷一つ付かないぞ、これっ!?」
「ぉぉ……さすが、私のユリウス1号……」
おい、1号ってどういうことだよ。
まさかお前、2号目を作る予定があるのか……? 止めてくれ……。
「シェラハゾ、これ壊せるか試してみてくれ、強度を確認したい」
「いいよ……。ユリウスの、指からいこ……。ふふっ……」
でっぷりと太った石の人差し指をシェラハゾが握り締めた。
続いて彼女が小さく声を上げて力を込めると、ピキリと白いコンクルに亀裂が走る。
硬さだけではなく、石のくせに剛性もとんでもなかった。
もちろんシェラハゾの怪力の方もだ。
「ぅ……。ヒ、ヒビ1つ入らないわ……っ」
その人間離れしてしまった力を隠したいのか、シェラハゾはバレバレの嘘を吐いた。
冒険者たちともども、俺たちはそういうことにしておいてやった。




