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・蜃気楼の国の錬金術師 1/2

 俺たちの拠点・白亜の工房への転移はちょうど今無事に成功した。

 本当なら2階のベッドにこの姫君を寝かせてやりたいが、今は一瞬だろうとも時が惜しい。


 シェラハゾを工房の冷たい床に横たわらせた。


「いいか、寝るんじゃないぞ! 寝たら戻ってこれなくなるから、気合いで起きてろよっ!」


 バケツを持って、工房前のオアシスとの間を往復して錬金釜に湖水を流し込むと、石化治療薬のレシピを求めて工房の本棚に飛び付こうとした。


 いや、ところがどうもこれが変なのだ。

 その本は既に作業用テーブルに置かれ、しおりが挿され、石化治療薬のページが開かれている状態だった。


「おかしいぞ、なんで、材料が……。いや、今はそんなこと考えている場合じゃない……!」


 冷静に作業テーブルをよく見ると、なんと治療薬の材料までそこに並んでいた。

 そのレシピはポーションの工程からさらに手順を発展させたもので、雑に言えば完成前のポーションにバジリスクの鱗などを加えたものだ。


 残る問題は杖だったが、これもメープルの杖そっくりの物が窓際に立てかけてあるのを見つけた。

 再び疑問が頭をよぎったが振り払い、何も考えずに杖へと飛び付いて錬金術を開始した。


 一心不乱に水に魔力をかけて15秒でエッセンスを作ると、アロエとベースハーブとナツメヤシを加えてポーションの段階まで進めた。


「なぜ、メープルの杖がここにある……。わからん、何が起きているんだ……」


 そこにバジリスクの鱗を加えて、教本通りに強い魔力をかければ完成だ。

 俺は数十年ぶりに神に祈った。


 エリクサーをも生み出す奇跡の力よ、どうかシェラハゾを救う奇跡の治療薬になってくれと、ヒューマンではなくエルフの神に願って、全力全速力の超速度で石化治療薬を完成させた。


「ぐっ……?!」


 軽い破裂音と、甘い匂いのする灰色の蒸気が上がった。

 同時に激しい息切れと、魔力の大幅な消耗による虚脱感が俺に膝を突かせた。


 それでも休んでいる時間などない。急がなくてはならない。

 石化毒が重要な臓器を冒す前に、シェラハゾに薬を与えなければならない。


 釜にしがみ付いて、中にあったたった1つだけの錠剤を握り取ると、俺はシェラハゾの隣まで地をはいつくばった。


「薬が出来たぞ、起きろ……! おい、シェラハゾ……ッ!」


 まずい。シェラハゾは俺が大声で呼びかけても、うわごと一つすら返してくれなかった。

 服用者の意識がないというのに、よりにもよってなんで俺は錠剤を作ってしまったんだ……!


「ほら、薬だ、飲め! 飲まないと死ぬぞ、起きろシェラハゾッッ!!」


 彼女の下顎を引っ張って、無理矢理飲ませようとしても呼びかけが通じなかった。

 見れば石化はこの短時間で、下腹にまで至ってしまっている。


「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろよっ、シェラハゾッ!! 俺たちを置いて勝手に死ぬな!! ふざけるなっ、俺がどんなに、どんなにお前に惹かれていると思っているんだっ!! オアシスで水を浴びるお前を見てから、俺はお前のことが頭から離れない!! お前以上に美しい女なんてこの世にいるものか!!」


 感情任せに錠剤を噛み砕き、バケツの水を口に含んだ。

 激しい呼びかけが彼女の意識を微かに揺すり起こしたのか、うっすらとその目が開く。


「ユ、リ……。んっっ……」


 薬は一錠だけだ。

 ここまでやった以上、吐き出してそれを飲めとは言えない。


 だから俺は彼女の小さな唇を奪い、やわらかな感触に心奪われながらも、少しずつ彼女に命を救う薬を口移しで与えた。

 ……良かった。薬を飲んでくれている。


 薬の方に不具合があったり、病状が手遅れでない限り、これで救えたはずだ。

 薬を全てを飲ませても、どうしてもそのやわらかな唇から離れる気が起きなくて、俺は彼女に覆いかぶさって石化で冷えた身体を温めていった。


「んっ、んうっ……。ぁ……あれ……あた、し……」

「……意識が戻ったか。石化は――おおっ、良かった治ってるぞっ!」


「ユリウス……」

「なんだ、どうしたっ!? 何が欲しい!?」


 小さな声で何かを言っている。

 聞き取れないので唇の前に耳を寄せて、彼女の言葉を待った。


「嬉しい……」


 主語がなくて意味がわからかったが、表情をうかがうと幸せそうに彼女は俺に笑い返して、また綺麗な瞳をまぶたで隠した。

 まさか死んでないよなと、再び口元に耳を寄せると安らかな寝息が聞こえる。


「良かった……。はぁぁ……良かった、本当に良かった……」


 深い安堵に俺はそのまま床にへたり込んで、激情の反動かしばらくを放心状態で過ごした。

 それから気持ちの余裕が少し出てくると両手両膝を突いて、もう一度シェラハゾの顔を見つめ下ろす。


 美しいエルフの美姫がそこに眠っている。

 世界の裏側で彼女と混線したこの記憶が真実ならば、彼女は本物のお姫様だ。

 シェラハ・ゾーナカーナ・テネス姫――略してシェラハゾだ。


「嬉しい、か……。どうとでも取れる言葉だ」


 医療目的とはいえ、1度重ねてしまえば、2度目はそう難しくはないらしい。

 俺は胸にある熱い衝動任せに彼女の唇を再び盗み取って、それに満足すると、両手で彼女を抱き抱えて2階の部屋まで運んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 覗きといい睡眠中にキスといい、 主人公の性癖がなんかちょっときついです。。。 他は、キャラもストーリーも素敵なのだけども
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