表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/308

・蜃気楼の姫君

・蜃気楼の姫君


 昔々、砂漠エルフ(デザート・ウォーカー)森エルフ(リーフ・シーカー)が分かたれるよりもずっと古い時代に、世界全てのエルフを束ねるまほろばの王朝がありました。

 その王朝はたった1人の女王が1000年の永き安寧に導いた後に、次の王を指名することなく、一代にして崩壊を迎えたと言われています。


 いにしえの13の部族のうち、11部族が戦いの果てに姿を消し、デザート・ウォーカーとリーフ・シーカーだけがこの地上に残されました。

 そしてお前は、その偉大なる始祖にして千年王シェラハの末だと、お父様とお母様があたしに教えてくれました。


 やさしかった両親のその言葉が、狂気にも等しい血筋への執着だと知ったのはずっと後のことです。

 あたしは始祖様と同じ名前を与えられ、家人にシェラハ姫、姫様、シェラハ様と呼ばれながら育ってゆきました。


 ところが幼きシェラハ姫の幸せは、本人からすればあまりにあっけなく終わりを告げました。

 彼女が8歳を迎えて間もないある日――お父様は大切なお姫様の部屋を訪れると、悲しみと覚悟の混じり合った表情でこう言ったのです。


「シェラハ。お父さんとお母さんはこれから、遠くに行くんだよ……」

「遠くに……? それ、シェラハも、一緒に行くの……?」


「いや、お前には後から使いを送ろう。それまではあの男――シャムシエルがお前を守ってくれる。これからは彼と一緒に暮らしなさい」

「それって、あのやさしいお爺さん……? でも、急にそんなこと言われても、シェラハは……」


 もちろんそれはあのシャムシエル都市長のことよ。

 お父様とお母様はわたしを都市長に預けて、このシャンバラを去ることにしたの。


「消えた11部族――いや、新しいエルフの国が見つかったら迎えに来るよ。それまでの、ほんの少しの我慢だ……」

「でも……。でも、少しって、どれくらい……?」


「5年……いや、10年。はは、100年かかるかもしれないな……」

「そんな……。だったらシェラハも連れてって。お父様とお母様と、そんなに離れ離れなんてイヤよ……」


「ああ許してくれ、シェラハ……。私たちが野心に飲まれなければ、こんなことにはならなかったというのに……」


 お父様とお母様はあたしを都市長に預けると、あの美しかったお屋敷から姿を消したわ。

 とても辛かったけど、あたしは都市長の――シャムシエルお爺さんのやさしさに救われた。


 そして、後から知ってしまったの。

 父と母は都市長と対立して、数々の死者をも出す政争の果てに、シャンバラとあたしを捨てて出て行ったと。


 ショックだったわ……。

 両親もシャムシエルお爺さんも、どっちも同じくらいあたしは大好きだったから……。


 こうして甘ったれた砂糖菓子みたいだったお嬢様は、少しずつ都市長とメープルの隣で現実を知ってゆき、それから、やがて――


「ユリウス……脚が重いわ……」

「そりゃ石化してるからな。だが喜べ、もう到着する。お前は必ず俺が治す」


「ありがとう……。ユリウス、あたし……あたしね……。あたしは…………」

「……シェラハゾ? おい、どうしたっ!?」


 あたしはあなたを見つけてさらったの。

 この人なら衰退してゆくシャンバラを救えると、メープルと一緒に確信したの。


 今ではあなたを選んでよかったと思っているわ。

 あなたならシャンバラを救えると信じている。


 だからユリウス、お願い。

 あたしが死んでも、メープルにやさしくしてあげて……。


 そしてどうか、あたしの代わりにどうか――お父様とお母様が愛したシャンバラを救って……。

 お願い、お願いよ、ユリウス。遺志を継いで。


 あたしを少しでも哀れむなら、そのやさしさをどうか、メープルとシャンバラに……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ