・禁忌と代償 1/2
「離れてくれ、転移出来ない」
「するなって言ってるミャッッ!!」
「あんな大物は初めてだ。倒してみたい」
「あなた人の話聞いてないでしょっ!? あんなのが爆発したらっ、大変だから止めましょうってあたしたちは言ってるのっ!」
「じゃあここからはソロで――」
「バカ過ぎ……。金的、食らわすよ……?」
「金的とか鬼かお前は」
「それこっちのセリフ……。蹴っていい……? ハァハァ、むしろ、積極的に蹴りたくなってきた……」
メープルはそう言ってジャンプと屈伸によるウォーミングアップを始めた。
まずい、コイツ、目が本気だ……。
「や、止めろ、わかったから金的だけは止めろ。よし、ここは出直すとしよう」
大事なところを蹴られたら肉体的にも精神的にも死んでしまうので、メープルの奇襲を警戒しながら俺は観念した。
と見せかけて、彼女たちが手を離した一瞬の隙を突いて転移した。
狙いはキングルインタートルの尻だ。
起爆して、逃げて、最後は魔法盾を展開すれば仲間を守れるだろう。……たぶんな。
「消えたミャァッ?!」
「ま、まさか……ユリウスゥッ!!」
「騙された……。後で絶対、金的食らわす……100発食らわす……」
なんか文句も聞こえたが、やるべきことを優先だ。
ルインタートルみたいな敏捷性に欠けるモンスターは俺のカモでしかなく、俺は短剣を逆手に両手持ちして、転移で急所の上空に飛ぶと、筋力と万有引力の限り刃を突き刺した。
亀が咆哮とも悲鳴とも取れない叫びを上げた。
背の巨大な赤い宝石から、メチャクチャに炎や爆裂魔法をぶっ放して、死なば諸共の本能ってやつを見せつけてくれた。
「危険よユリウス逃げてっ! どうしてあなたって人は――あ、あれ……脚が、あっ……?!」
「姉さん……!?」
「逃げるミャッ、あんなのが吹っ飛んだらみんな仲良しこよしのオダブツミャァッ!」
何かあったのだろうか。地に崩れるシェラハゾを2人が引っ張って後退して行くのを見た。
炎、電撃、氷、風、ありとあらゆる属性の魔法がフロアの壁に放たれ、今にも天井が落ちて来そうだ。
「浅かったか。短剣じゃなくて、師匠みたいに魔法剣を持つべきかな……」
そこで俺は短剣越しに、ヤツの急所に電撃魔法をぶち込んだ。
再び絶叫が上がり、巨体が暴れ回り、ようやくやつが動きを止めることになった。
他のルインタートルにも等しく、背中の宝石が暗転を始めている。じきに爆発するようだ。
すぐに転移して、姉妹とネコヒトと合流した。
「起爆して来た。どうしたんだ?」
「わからない……。姉さん、急に立てなくなって……」
「今起爆したって言ったかミャッ!? もぉぉーっ、なんてことする人だミャァァーッッ?!」
シェラハゾからの抗議はなかった。
酷く苦しそうに俺を流し目で見るだけで、こんなのは俺の予定になかった。
「大丈夫だ。予定より爆心地に近いがどうということはない。メープル、手伝ってくれ」
「あたし、は……逃げ、て……」
短剣を増幅装置にして魔法盾を展開すると、さっきの攻撃で切っ先の刃が欠けてしまっていることに気づいた。
姉を守るには他にないと悟ると、メープルは本気で俺を睨んでから杖を掲げる。
「来るぞ」
「後で絶対……絶対食らわす……。100発、食らわす……」
「いいから集中しろ。……ちなみに何を食わせてくれるんだ?」
「後で絶対、金的食らわす……100発!」
「アタイが許可するミャッ!」
奥の通路に白い閃光が走ると、大地が揺れて音速に至った爆風が魔法盾に激突した。
直撃したら爆死、爆風を食らっただけでも内臓破裂だ。盾の強度が足りなかったら死ぬ。
爆風を受け止めきると、パラパラと天井や壁が崩れる音と、スリルに呼吸を乱すみんなの声だけが聞こえるようになった。
粉塵は魔法盾を越えることが出来ない。盾からこっち側にいれば安心にして快適だ。
おまけにこれはなんの幸運か、魔法盾のすぐ先に、岩のように大きな『大地の結晶』を発見することにもなっていた。
「姉さん、平気……?」
「ごめんなさい……。なぜだか、足の感覚が、ないみたいなの……」
「脚かミャ? アタイが見るからじっとして――え……っ!?」
魔法盾の位置を動かして、大地の結晶を足で蹴ってこっちに移動させた。
しかし盾を展開したままみんなの方に振り返ると、なぜか彼らは青ざめている。
変だなと、シェラハゾの脚を見るとそこに原因があった。
「ユリウス、お願い……お願い、姉さんを助けて……。姉さんの、綺麗な脚が、そんな……助けて、助けて、お願いユリウスゥッッ!!」
「これは石化毒だミャ……。まさか、あのときのラットマンかミャ……? ア……アタイがヘタレたせいだミャ……」
やっと水の迷宮の大穴を塞ぐ補修剤が作れるというのに、シェラハゾの左脚が石になっていた。
石化が重要な臓器に至れば、そいつは死ぬ。この世界の常識だった。




