・土の迷宮で素材を集めよう 1/2
母国ツワイクにおいては、土の迷宮は雑草とも呼ばれるほどにありふれた迷宮だ。
その名の通り、それは地中に掘られたトンネルのような迷宮で、冒険者たちの中にはこの迷宮を毛嫌いする者も少なくない。
その理由は数えて3つほどある。
1つ、自然に近い迷宮ゆえに、明かりの持参が必須。もし失うと極めて危険。
2つ、通常の迷宮とは異なり、地下世界そのものが崩落する可能性がある。
3つ、果てしなく続く暗闇の世界への、本能的な恐怖。
対する長所は、比較的にモンスターの危険度が低いところや、金属や宝石の鉱床に出会える点だ。
そのため嫌うやつは嫌うが、土の迷宮には他にはない歴としたロマンがあった。
「待ってっ、待ってってばっ! もうっなんで平気なのよ、あなたっ?!」
「仲間から噂には聞いてたけど、物凄い蛮勇だミャ……」
照明魔法はシェラハゾの数少ない得意系統らしい。
俺は背後からのライトボールに照らされながら、白いネコヒトと並んで暗闇の迷宮を進んだ。
まあ後ろがやかましいのは恒例のことだ。
「こういうのに慣れてるだけだ」
「なんで慣れてるミャ?」
「あ、それ聞きたい……。宮廷魔術師だったのに、どうして、迷宮に詳しいの……?」
「宮廷魔術師だからだ」
「どいうこと……?」
「考えてもみてくれ。確実にガッポリ稼げる迷宮が国内にあったとして、それを国の業突く張りどもが、フリーの冒険者に解放すると思うか? 冒険者を金で雇って、稼ぎの上前をはねる方が儲かるに決まっている」
これはツワイクが抱えてきた社会問題の1つだ。
利益性の高い迷宮を独占する王や領主ばかりがブクブクと肥えて、年々と貧富の差が激化している。
「つまり……公務員として、あなたが手伝わされたってこと?」
「ああ。訓練って名目で、これまで何十回も潜ってきた」
「それ……危険手当とかは……?」
「1度も出たことはないな」
「ケチくさい……」
決まってガッチリと前衛が前を固める編成なので、当時は後方から術で敵を狙撃するだけだった。
1つの迷宮に、過剰とも言える人数を投入する傾向があった。
「そうだったの……。なんだか嫌ね、シャンバラもいつかそうなっちゃうのかしら……」
「それを決めるのは都市長だ」
ツワイク王国の失敗をこの目で見た者として、この国がああならないよう願うばかりだ。
豊かな産業があるのはいいが、民がその産業の奴隷になっては本末転倒だ。
ところがそうしていると、暗闇の向こうに狭いフロアが現れて、そこに立ちはだかるようにモンスターがひしめいているのが見えた。
「なんだあれっ、でっかい宝石だミャッ!?」
「違うぞ、よく見ろ。宝石の下になんかいるだろ」
「ミャ……? ミギャーッ、な、なんかいるミャァァッ?!」
「お前いちいちリアクションがいいな……。あれがルイン・タートルだ、最後は自爆するから、あまり近づかない方がいい」
言うよりも見せた方が早いので、亜空間転移で合計5体のルインタートルの背後を取った。
妙に平たいその甲羅の、柔らかい尻のあたりにナイフを突き刺すと、自爆のスイッチが入った。
「さすが、ユリウス……。言ってることと、やってること、全然違う……」
「俺はいいんだ」
ルインタートルの甲羅上の宝石がチカチカと光り始める。
俺は魔力爆発の臨界寸前に、新たな扉を開いてみんなの前に舞い戻った。
宝石亀が爆発して、それが他の宝石亀に激突して、連鎖的に起爆のスイッチが入ってゆく。
時間差で派手な花火が5回弾けて、ドロップだけがそのフロアに残った。
宝石亀の鼈甲が3、小粒のサファイアが1だ。
あの職人の集まるオアシスで、この鼈甲を櫛にしてもらってシェラハゾにプレゼントしたら、彼女は喜ぶだろうか。
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