・白銀の導き手で迷宮を発掘する 3/3
「この真下みたい」
「わかった、離れてくれ。いつもの手口でぶち抜いてみる」
「ふふっ、あなたがいればスコップ要らずね」
「ま、身体で掘るより遙かに楽だ。……アースグレイブ!」
巨大な大地の槍を発生させて、その槍を崩すとそれが地下トンネルになった。
しかもビンゴだ。砂の下には地下へと続く空洞があった。
その空洞に下りて進んでゆくと、それはあまり砂漠でお会いしたくないタイプの迷宮だった。
炎の迷宮だ。熱を帯びた壁のところどころが赤熱する、対策装備なくしては攻略どころか進入すら難しいやつだった。
「これは大外れだ。他を当たろう」
「凄く蒸し暑いわ……。だけど夜間のキャンプ地にはよさそうかしら……」
「かもな。目印だけ置いて移動しよう」
砂漠エルフの技術に、導石というものがある。
これは特定の魔力に反応して、場所を知らせるアイテムだ。
砂漠という広大で日々様変わりする土地で暮らすためには、こういったアイテムが必要だったのだろう。
それを置いて、俺たちはまたラクダの前に立った。
「て、提案があるの……」
「却下だ」
「な、なんでよっ!? あたしまだ何も言ってないわ!」
「どうせ自分が後ろに乗ると言うんだろ……却下だ!」
「そんなの不公平よ! あなただって、あたしと同じ気持ちを味わいなさいよっ!」
「お前は女で俺は男だろ!?」
「だったらなんだって言うのよっ?! とにかく、あなたが前ったら前よっ!」
コイツは炎の迷宮の暑さでおかしくなったのではないか……。
どうしても聞かないので、彼女の提案に従うことになった。
すなわち俺が前で白銀の導き手を水平に構え、シェラハゾが後ろから背中を抱くように手綱を持つ構図だ。
失敗はすぐに明白となった。彼女は胸がとても大きい……。
「ごめんなさい……。ま、まずいわね、これ……」
「わかったなら入れ替わってくれ……」
「……嫌よ。こっちの方がまだマシだわ」
「な、なんだと……?」
「だって、されるより、する側の方が気持ちは楽じゃない……」
「まあ確かにそれは、肌身で感じ始めているな……。主導権が自分にあった方がいいな……」
次の迷宮が見つかるまで、俺はシェラハゾの身体の正面を背中に押し付けられながら、ただただひたすらに耐えた。
役得? そうも言えるかもしれないが、長く続き過ぎる役得は、恐らくは拷問だ。
白く輝く砂漠を、エルフの美姫と共に俺はさまよった。
・
そろそろ付近の村に寄って休もうかとシェラハゾと話していると、俺たちは2つ目の迷宮を発見した。
雷の迷宮だ。これはこれでレアで、需要の高い迷宮となる。
だが俺たちが欲しているのはこれではない。
電撃と青い光を放つ岩で覆われた扉を離れ、俺たちは近隣のオアシスで一休みすることにした。
「なんだか変な感じね」
「何がだ?」
「あなたとこうしていることよ。ちょっと前まで、あたしたち行商人のふりして世界中を回ってたのよ。諜報のためにね」
「ああ……。メープルのことを考えれば、腰を落ち着かせた今の生活の方がいいだろうな」
「そうね。だけどあなたが迷宮に1人で突っ込んで行こうとしなければ、もっと安心できるわよ……?」
「まだ根に持ってたのか」
「戦いがからむと、あなた普通じゃないわよ……」
「ははは、言われてみればそうなのかもな。だが大半の男はそんなものだ。男は戦うのが好きなんだよ」
小さなオアシスを眺めながら、俺たちは木陰でゆっくりと休んだ。
水深が深いのか、やけにここの湖水は青く見える。
「本当に不思議よ……。なんであなたが、あたしたちを選んだのか、最初はわけがわからなかったもの……」
「断り文句のつもりだった」
「知ってるわ。だけど、それだけじゃないでしょ……?」
「いや、どうもわからん。自分でもなんであんなことを言い出したのか、今ではよくわからん」
俺を拉致した実行犯を困らせてやろうとか、話したことがある相手の方がまだマシという部分も確かにあった。
しかし俺は、あの馬車の中でシェラハゾの姿を見たあの時点で、好ましい物を感じていた。
メープルだって面白いやつで、さらに愛らしく、それがあの選択を導いたとも言える。
「あたしもよ。断ることだって出来たのに、なんでか今こうなってるわ。……ん、顔が赤いけど、あなた大丈夫? もっと水を飲まなきゃダメよ」
シェラハゾは立ち上がると湖水をすくって、俺の前に両手を差し出してくれた。
その繊細な手から直接飲めと……?
「早く! こぼれちゃう!」
「わかった……」
これは熱射病ではなく、今朝のオアシスで踊っていた彼女と、今のオアシスの前でたたずむ彼女を重ねて見ているせいだ。
そうとも知らず彼女は両手を差し出して、俺にその指へと間接的に口付けさせた。
いや、やはり熱射病なのかもしれない。
それだけでは物足りない俺は立ち上がり、オアシスの水を何杯も飲み干した。
「あたしね、ユリウス。あなたが1人でツワイクに戻ってしまったとき、凄く不安だったの……。このままあなたが帰って来ないかと思うと、なぜだか凄く不安で……」
「だがこうしてちゃんと帰って来た」
「うん……。帰って来てくれて、ありがとう、ユリウス……」
「お、おう……。いやに素直だな……」
「だって、あなたは自分の意思でシャンバラに戻って来たのよ。あたしもメープルも、そのことが凄く嬉しかったの。あなたは帰ってきてくれたの! 約束を守って帰って来てくれたのよっ!」
「大げさだ。単にここの居心地が良かっただけだ。工場に縛り付けられた生活より、こっちの方が遙かに優雅だ」
俺たちは気を取り直して、オアシスから南東へと再出発した。
あまりシャンバラの中央を離れ過ぎた場所を発掘しても、その後が行き来なり管理なりが大変だ。
それからまたシェラハゾと言い合うように言葉を交わしてゆき、やがて昼前になると、ようやく白銀の導き手に反応があった。
指し示された方角へとラクダを導いてゆくと、そこで俺たちは思わぬ顔ぶれと出会うことにもなった。
「ユリウス様ミャ! ブミャァッ、ベタベタしてるミャァァッッ?!」
「もふもふ、最高……。ぁ……これが、百合の世界……?」
あの白いネコヒトとメープルの乗ったラクダだ。
メープルはふわふわのネコヒト後ろから抱き込んで、実にご満悦だった。
「どうやらそこの地面みたいだな。ぶち抜くからラクダを移動させてくれ」
シェラハゾから白銀の導き手を受け取り、手綱を彼女に握らせると慎重にラクダを下りた。
続いて皆が待避するのを待ってから、短剣を増幅装置にして本日3発目のアースグレイブを大地に放つと、期待通りの地下空洞がそこに生まれていた。
一足先に降下してみると、やっとこさのビンゴだ。
俺たちはついに目当ての『土の迷宮』を発掘することに成功していた。
「ユリウスと、姉さんが仲良しだと、私も嬉しい……。もうおっぱい触った……?」
「昼間から酷い寝言だな……。それより少し休め」
「なんで……?」
「今からこの迷宮を攻略するからだ」
「フフ……。ヤバ、ドン引き……」
最短でキーアイテム『大地の結晶』を手に入れるなら、これこそが真だ。
土の迷宮の前はひんやりとしていて空気に潤いがあり、ちょっとした休憩に最適だった。
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