・錬金術で「銀の導き手」を作ろう 後編 2/2
「入れ違いになっちゃったみたいね」
「ごめん、姉さん……。もしかして、探してくれてた……?」
「いいのよ。あなたも見たいでしょ、ユリウスの調合」
「もち……」
言うよりも行動というやつで、俺はオアシスの水を釜へと流し込んだ。
それから杖を釜へと立てて魔力を水に流し込む。
すぐに2人はタイミングを察してくれて、机に手配した魔物素材を1つずつ投入していってくれた。
「以心伝心……ツーと言えばカー……私たち、まるで夫婦みたいだね、姉さん……」
「ふ、ふふふふ、夫婦っ?! な、何言ってるのよっ、もうっ!」
「必要もないのに姉を攪乱するな……」
「必要、あるよ……? 動揺した姉さん、好き。キュン死、不可避……」
「お前は何を言ってるのかわからん……」
姉妹の手でサハギンの鱗が投入されると、輝く濃紺に液体が染まった。
そこにゴブリン系の素材が入ると、色合いが薄まってゆく。
「姉さんがマント脱いでるところ、凝視してたくせに……」
「ちょ、ちょっとぉ……っ!?」
「落ち着け、お前はメープルにからかわれてるんだ」
じっくりと見ていたのは事実だが。ここはそういうことにしておこう。
かしましい姉妹のやり取りを横目に、俺はじっくりと魔力をかけて、全てのベースとなるエッセンスを完成させていった。
「でも、本当は見てた、でしょ……?」
「ああ、話をしていれば相手を見るに決まっている。それよりもそろそろいいぞ、銀を入れてくれ」
「あなたも一緒にうろたえてくれてもいいのに……」
「それこそメープルの思う壺だろう」
「銀入れるね……。あ、手が、滑った……」
メープルが器用に銀貨を次々と指で弾いて、釜へと投入していった。
ところがその中に、やけに白くて綺麗な物が混じっていたような気がする……。
「ちょっと待て、お前、今のまさか……」
「ニーアが拾ってきた白い金……入れちゃった……」
「お前な……。レシピにないもん勝手に入れんなよ……」
「白い金ってなんのこと?」
無事な方の1枚を懐からシェラハゾに手渡して、俺は銀貨の溶けた錬金釜をかき回した。
シェラハゾは不思議そうに俺から受け取った銀貨を日光にかざして、気に入ったのかうっとりとしていた。
「これ、銀じゃないじゃないっ!?」
「姉さん、気づくの遅っ……」
「だって綺麗だったんだもの……」
「そこは、激しく同意……」
しかしこれは手応えが妙だ。
釜の中の液体は、銀貨の投入により水銀のような輝きに変わっていた。
しかもその水銀もどきは、杖を介して俺の魔力をグングンと吸い上げている。
工場では長いこと仕込みをやらされて来たが、こういったケースは初めてだった。
「ユリウス、平気……?」
「責任を感じているならカバーしてくれ」
「おけ……」
「あたしも手伝うわ、魔法は苦手だけど、一応これでもエルフだもの」
メープルとシェラハゾが同じ杖に手をかけると、少しだけ楽になった。
3人で魔力を掛け合わせて何かを作る。やってみると悪くない一体感だ。
「姉さんの魔力……ハァハァ……」
「変な言い方しないでよっ……。で、でも、何この、ビリビリくる感覚……っ、ん、んん……っ」
シェラハゾのひび割れ1つない唇から、いきなり色っぽい声が上がった。
調合も大詰めだというのに、それはドキリとこちらの胸を高鳴らせて、俺の集中力をかき乱しに来た。
「はう……姉さんとユリウスの、ドキドキ、感じる……」
「何よこれっ、なんなのよっ、あっああっ!?」
「あ、あぅ……っ♪」
シャンバラの迷宮事業を飛躍させる魔法のアイテムは、甘ったるい姉妹の声と、銀色のまぶしい光と共に生まれていた。
白い金が混入するという予定外こそ起きたが、釜の底に現れたそれはL字型の銀の棒、すなわちダウジングロッドだ。
俺たちの魔力をグングンと吸い上げただけあって、どれもが微弱どころではない魔力を秘めていた。
「すまん、作り過ぎたみたいだ……」
「成功してれば、問題ない……。はぁ……えかった……」
失敗していたらそれはメープルのせいだ。
シェラハゾはそう言いかけて止めた。なぜ俺にわかるかと言えば、俺だって同じことを言いかけたからだ。
釜から1つ1つ拾い上げてみると、ダウジングロッドは21対も完成していた。
「銀の導き手――もとい、白銀の導き手の完成だな。早速実験に行くか」
「待って、先に都市長に報告しましょ」
床にへたり込んでいた姉が立ち上がる。
「そんなの成功してからの事後報告でよくないか?」
「よくないわよ。彼があたしたちのパトロンよ」
「お義父さんに、初めての共同作業……出来ました……って、報告、しなきゃ……」
お前はまたそういう妙に語弊のある言い方をする……。
ところがシェラハゾまでその言葉に反応して、恥じらいの流し目をこちらに向けて来ていた。
「魔力を吸われたからか少し疲れた。オアシスの前で少し休んでくる。悪いが報告は任せた」
あの甘い声はなんだったのだろう。
そんな疑問が頭をよぎったが、また煩悩に飲まれそうになりかけたので思考から追い出した。
そんなことより報告の後に、実験開始だ。
この『白銀の導き手』で、これから俺たちは新しい迷宮を発掘する。
そしてあの廃墟になってしまった町を、オアシスごとよみがえらせるのだ。
あの枯れたオアシスに輝く湖水が戻り、人々に賑わいで包まれれば、さぞやそれは見応えのある光景となるだろう。
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今夜更新分、非常に短くなります。




