・錬金術で「銀の導き手」を作ろう 後編 1/2
美形のオカマと触れあえる愉快な冒険者ギルドから帰ると、我が家の肌寒さに肩を抱くことになった。
緑豊かなツワイク王国では家といえば木造で、俺は石造りの家の融通の利かなさにまだ慣れていない。
反面とても気に入っているところもある。
曇りがちな母国の空とは正反対に、シャンバラの空は瑠璃のように青く明るい。
開け放たれた窓からは暖かな日差しが白妙のカーテンを作って、それが少しずつ居間を暖めてくれていた。
「お帰りなさい、ユリウス。あら、それは……?」
荷物をテーブルに置くと、厨房の入り口からシェラハゾが首から上だけをひょっこりと生やしてこちらをのぞいていた。
水浴びを終えると彼女は必ず髪をとかすのが習慣で、その湿った髪が柳の木のように長くしだれる姿は、否応もなく男の目を奪い取った。
何が彼女の身に起きたのかわからないが、シェラハゾという女は日に日に美しくなっていっている。
「これは異世界の銀貨だ、冒険者ギルドから拝借してきた」
「ふぅん……迷宮って不思議ね。異世界ってどんなところなのかしら」
彼女は小麦色の細い指で、袋の中の黒ずんだ銀貨を持ち上げるとしげしげと見つめだした。
「俺からすればこのシャンバラもちょっとした異世界だぞ。なんというか、この国は――平凡な賞賛かもしれないが、キラキラしていてとても綺麗だ」
「ふふ……ユリウスに言われると嬉しいわ」
「ああ、それより手が空いてたら手伝ってくれるか?」
「うんっ、もちろん手伝うわっ! 調合を始めるのよねっ!?」
「あ、ああ、そうだが……。いやにテンションが高いな」
「あっ……。ふふっ、ごめんなさい、あたしったらつい……」
銀貨を袋に戻して、エルフの美姫は自然体の笑顔を見せてくれた。
俺たちの間にあったはずの壁は、いったいどこに消えてしまったのだろう。心を許されている実感を覚えた。
「実はあたしね、あなたの調合を見るのが好きなの。だって見ていて不思議で、とっても面白いんだものっ! あなたの錬金術って素敵よ! あ、そうだわ待ってて、メープルも呼んでくるわ」
綺麗なブロンドをはためかせて、シェラハゾが裏口から外へと駆けていった。
初めて出会ったときはちょっとお堅いやつだと思っていたのに、本当の彼女は童心も持ち合わせていて、そこに人間的な魅力を感じた。
「人間関係って、どんな方向に転がるかわからないもんだな……」
一足先に工房へと入ると、日当たりのいい窓際に黒光りする錬金釜が置かれていた。
水槽とオーブを用いたツワイク式の設備の方はまだ未完成だ。
というよりも、現状においては釜と杖さえあれば、どういうわけか何もかもが事足りてしまっていた。
姉妹が来る前に一通りの準備を済ませてしまおう。
倉庫から魔物素材の在庫を物色して、作業テーブルに並べてゆく。
サハギンの鱗とゴブリンの爪に牙、あの水色のプリズンベリルも使ってしまおうと加えた。
「そういえば――」
続いてギルドから調達した異世界の銀貨を並べた。
これがダウジングロッド『銀の導き手』の主材料だ。これは魔力を帯びているため、処理をせずに市場に流すことは出来ない。
持ち主がモンスターに狙われたり、良からぬ現象を引き起こす場合もあるので、ツワイクでも異界銀貨は一般の流通が禁じられてた。
ちなみに面白いことに、この銀貨から魔力を除去して通常の銀貨に加工し直そうとすると、かかる金額は作り出した銀貨と同額になる。
世に流通している銀の多くは、実は異世界からやってきた銀なのだと、一部ではまことしやかに言われている。
「ニーアが拾ってきたこれは、もしかして……」
少し気になることがあって、どこぞの別世界から漂着してきたくすんだ銀貨と、ニーアが拾ってきたやけに白い銀貨を並べてみた。
左右の手で重さを比べてみれば、比重がまるで異なることを発見した。
「何やってる……?」
そうしていると工房の入り口が開かれて、そこに白い日差しとオアシスを背にしたメープルがいた。
細く小柄な身体でバケツを抱えて、よたよたと危なっかしくこちらに歩いて来ている。
「それが妙でな……。ニーアが拾ってきたこの銀、どうやら銀じゃないみたいだ」
どうも心配なので片手でバケツを受け取り、もう片手で2種類の銀貨を彼女に渡した。
「あ、ホントだ……。こっちの方が重くて、ピカピカしてる……。へーー、いいね、これ……」
「まるで白い金だな」
「それ、言い得て妙……」
工房は薄暗いので、入り口の扉はそのままにしておこう。
釜へと水を流し込むと、メープルが背中の杖を貸してくれた。
「ナイフでかき回すわけにもいかんし、自分の杖も作らなきゃな」
「それも、錬金術で作ればいい……」
「それ悪くないな。予定に加えておこう」
「そうしよ、そうするべき。……あ、姉さん」
言葉に顔を上げると、工房の入り口にシェラハゾが仏頂づらで立っていた。
探しに行ったはずのメープルがなぜか俺の隣にいるせいだろう。
彼女は徒労感のため息を吐いて、それから素肌を守るためのマントを脱いでいた。
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