・錬金術で「銀の導き手」を作ろう 前編
こんな習慣、いい加減に止めなければいけないのに、その朝も俺は木陰に身を隠して、彼女の水浴びを密かに見やっていた。
止めようとしても、どうしても止められない。
ツワイク本国に帰ったきり、ずっとお預けだったのもあって、いつになくシェラハゾの姿が輝いて見えた。
平行して、ぼんやりと仕事のことも考える。
かっぱらってきた書の数々はゆっくりと崩してゆくしかないが、現状においては『コンクル』というアイテムを作るのがベターだ。
「ふふふっ……自分から戻って来たってことは、そういうことよね……。あたしたちが要らないなら、戻ってくる必要ないもの……ふふ……」
よく聞き取れないが、今日のシェラハゾは機嫌がよかった。
ときおりこちらを横目で見ているような、そんな気もするが……それはきっと気のせいだ。
俺の存在に気づいていたら、この時間にここには来ないからだ。
遠い姿が水浴びを終えて、家に戻ってゆくのを見届けると、俺は1人で街へと出た。
冒険者ギルドはここと同じオアシスに新設された。
活動を公にするわけにはいかないのでまだ看板は立てていないが、中はツワイクでよく見る酒場併設型のギルドだ。
「あらん、ユリウスちゃん、んふっ、いらっしゃい♪」
「出たな、妖怪……」
受付は野太い声をした美形の男エルフだ。
女の格好をしているが長身で、ところ構わずウィンクを飛ばす愛想のいい受付嬢(?)だ。
「あら酷い♪ 好きな子ほどイジメたくなるアレかしらん?」
「抜かせ。それより倉庫を見せてくれ、作りたい物がある」
「もちろんいいわよ♪ 貴方の緑のタマタマのおかげでうちは絶好調だもの♪」
「タマタマゆーな……」
「あらまっ、深い意味はないのよぉ?」
「カマにセクハラされたって都市長に訴えるぞ……」
受付嬢に案内されて倉庫にやってきた。
ここには都市長が俺たち職人のために、様々な素材をプールしてくれている。
必要なときに材料が手には入らないのでは、始まらないからな。
「ところで何を作るのかしらん?」
「マク湖オアシスの底に迷宮が現れたって話は聞いたか?」
「もちろんよ。ユリウスちゃんのお手柄ね」
「見つけたのはメープルだ。で、湖の地下水が迷宮内部に流れていてな、それを塞ぐアイテムを作る」
「新しいタマタマじゃないのね、残念♪」
「タマタマ言いたいだけだろ、お前は……」
「あらわかっちゃぅー?」
「わかりたくもないな」
冒険者たちはがんばってくれているようだ。
大量の魔物素材がひしめいていたが、しかし大地の欠片はどこにも見つからなかった。
最悪はツワイクから素材を輸入することになる。
だがそれでは一月はかかる。待ってなどいられない。
「あら、シャムシエルお爺さん、いらっしゃい。その顔はタマタマ坊やにご用ね」
「変なあだ名付けんなよっ、このカマカマ野郎っ!」
「あらお上手♪」
「フフ……すっかり打ち解けているようですね」
「このオカマ、メープルといい勝負だ……」
俺の口からメープルの名前が出ると、都市長がやさしげに微笑んだ。
昨日の銀のティアラも絹のベールも都市長の策略で、既に報告が入っているはずだ……。
「アタシ席を外した方がいいかしらん?」
「いえ、構いません。ユリウスくん、素材の供給も安定したところですし、そろそろポーションの輸出を検討しませんか?」
「そのことか。それは俺も考えていた。……これは国に帰ったときに聞いたんだが、ツワイクのポーションの効果が、現在は以前の6割ほどに低下しているそうだ」
「ほぅ……それは絶好の機会ですね。出所をつかまれないように裏ルートから流せば、ポーションの売り上げでこの国の不景気も改善出来るはずです。お力を貸して下さい」
断る理由はない。うなずいた。
さすがにエリクサーの状態で売るわけにはいかないので、アレを薄める試行錯誤が必要になるくらいだろうか。
「後でエリクサーを溶かし直して、薄めて、ポーション瓶に移してみるよ。それよりカマカマ野郎」
「なぁに、タマタマ坊や?」
「これと、これと、あれ。作りたい物があるから持ってっていいか?」
「いいわよ。だけど何を作るのかしらん?」
「ダウジングロッドだ」
「……はて、なんですかな、それは?」
なんだと聞かれても説明しにくい。
「俺もわからん。パクッてきた希書によると、迷宮を発見するアイテムらしい」
「なんとそんなものが! ぜひ作りましょう!」
「あらまぁっ、素敵な棒ねぇ♪」
この受付嬢、チェンジ出来ないかな……。
お下品な意味にしか聞こえない意味深なセリフに、さすがに付き合いかねて素材をかき集めると、俺はギルドを出て行くことにした。
「ユリウスちゃんったら、意外と純粋でかわいいわね♪ んもぅ食べちゃいたいくらい♪」
「フフ……。うちのメープルとシェラハゾと並べると、もっとかわいいですよ。すっかり惚れ込んでいるようで……まるで、少年少女の初恋を見ているような気分です」
「おっぱい大きいものね、シェラハゾちゃん」
おっぱいゆーなっ!
ああもうやだ、このオカマ……。
チェンジで、チェンジでお願いしたい……。
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