表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/308

・休日と買い物 シャンバラに帰国してから姉妹の様子がどうもおかしい 1/3

 今日は朝から不思議な高揚感があった。

 たった3日しかシャンバラを離れていなかったというのに、メープルとシェラハゾが俺の帰国を心より喜んでくれていて、それがとても嬉しかったからだろうか。


 どうやら俺はあの美しい砂漠エルフたちを、早くも家族として感じ始めている。

 どうにもおかしな話だ。思えば出会ったときから、俺たちには種族の壁といったものがなかったようにも感じられる。


 朝食が済むと俺たちはゆっくりとお茶を交わした。

 ガラス張りの窓から外をのぞけば、青みがかった朝日が今は白く姿を変えていたが、外気の方はまだ冷たく冷え込んでいる。


「そういえば、あの白いゴーレムはどうした?」

「ん、たまに見る……」

「昨日、市場の方で見かけたわ。あんなに高度な知能を持ったゴーレム、初めてよ、あたし」


「迷宮はたまに、ああいう異質な存在をこちらの世界にもたらすそうだ。……しかしいないといないで、ちょっと寂しいな」

「むふ……ニーア、それ聞いたら、喜ぶ……」

「いい子よ。この前なんて、洗濯物をたたんでくれたもの」


 あの子猫並みの身体でか……?

 それは、少し見てみたいな……。


「ニーアの、自発的行動……」

「そうなの、あの子ゴーレムとはとても思えないわ。ふふっ、まるで小さな妖精さんみたい……」


 意外と少女趣味なことを言うのだな。

 そう口に出しかけて、引っ込めて、気温がもう少し暖かくなるまでゆっくりと過ごした。



 ・



「あのね、あたし、あなたにあえて聞かないでおいたのだけど……」

「そういう言い方されると怖いから、ハッキリ言ってくれ」


「あなた今日の予定は……?」

「休む」


 2人にとってそれは非常に重要な質問だったのか、窓からオアシスを見つめていたメープルまでこちらを向いた。

 簡潔に即答すると、小麦色の口元が喜びにほころんだ。


「だったら買い物に付き合ってくれないかしら……!」

「付き合って……付き合うべき……付き合わないと、末代まで……たたる……」


 メープルは直情的なのでさておき、シェラハゾの方からこうも力強く誘ってくるとは意外だ。

 しかし買い物か。なかなか悪くない休日の過ごし方だ。


「たたられるのは困るな。わかった、付き合おう」

「あ……やった……」

「よかった! じゃ、今日は丸1日付き合ってもらうから、そのつもりでねっ!」


「あ、ああ……。お前ら、やっぱり何か変じゃないか?」

「腹、くくったから……。否、くくりまくったと、言い直したい……」


 残りのお茶をすすって、外の暖かい陽光を眺めた。

 オアシスの水で肌だけでも拭っておいた方がいいだろうか。


「布とかあるか? よく考えたら、あの日からろくすっぽ身体を洗ってなかった」

「知ってるわ。ベッドが男臭かったもの……」

「グフフ……」


「悪かったな。……メープル、お前はせっかくかわいいんだから、変な笑い方をするな」

「あた……」


 メープルの額を小突くと、なぜだかシェラハゾまで一緒になって嬉しそうに微笑んだ。

 それに不覚にも家族の温かみを感じてしまった。


「待ってて、すぐ用意するわ」

「悪いな。……シェラハゾはまるでお母さんだ」


「そ、そういうのはっ、気が早いわよ……っ?!」

「なんでそうなる……」

「意識し過ぎの姉さん……ハァハァ、かわいい……」


 そうして布を受け取った俺は、すぐそこのオアシスまで行くと服を脱いで、冷たい湖水に膝まで入って汚れを清めた。確かにこれは男臭い。


 スッキリするまで全身を一通り拭っていった。

 ……いやところがだ。だいたい綺麗になったのでトーガを手にかけて身に巻き付けようとすると、右手側のオアシスの陰から、メープルの顔が生えていた。


「あ、お構いなく……」

「おまっ、のぞくなよっ!?」


「ふ……」


 姉さんの水浴びを毎朝のぞいてたくせに。

 メープルは意味深に鼻で笑うと、内股になった俺の隣を素通りして行った。


 あの子には弱みを握られっぱなしだ。

 のぞきという悪い習慣を止めればいいだけの話だが――あいにくその気はまったく起きなかった。

もし少しでも気に入ってくださったら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ