・休日と買い物 シャンバラに帰国してから姉妹の様子がどうもおかしい 1/3
今日は朝から不思議な高揚感があった。
たった3日しかシャンバラを離れていなかったというのに、メープルとシェラハゾが俺の帰国を心より喜んでくれていて、それがとても嬉しかったからだろうか。
どうやら俺はあの美しい砂漠エルフたちを、早くも家族として感じ始めている。
どうにもおかしな話だ。思えば出会ったときから、俺たちには種族の壁といったものがなかったようにも感じられる。
朝食が済むと俺たちはゆっくりとお茶を交わした。
ガラス張りの窓から外をのぞけば、青みがかった朝日が今は白く姿を変えていたが、外気の方はまだ冷たく冷え込んでいる。
「そういえば、あの白いゴーレムはどうした?」
「ん、たまに見る……」
「昨日、市場の方で見かけたわ。あんなに高度な知能を持ったゴーレム、初めてよ、あたし」
「迷宮はたまに、ああいう異質な存在をこちらの世界にもたらすそうだ。……しかしいないといないで、ちょっと寂しいな」
「むふ……ニーア、それ聞いたら、喜ぶ……」
「いい子よ。この前なんて、洗濯物をたたんでくれたもの」
あの子猫並みの身体でか……?
それは、少し見てみたいな……。
「ニーアの、自発的行動……」
「そうなの、あの子ゴーレムとはとても思えないわ。ふふっ、まるで小さな妖精さんみたい……」
意外と少女趣味なことを言うのだな。
そう口に出しかけて、引っ込めて、気温がもう少し暖かくなるまでゆっくりと過ごした。
・
「あのね、あたし、あなたにあえて聞かないでおいたのだけど……」
「そういう言い方されると怖いから、ハッキリ言ってくれ」
「あなた今日の予定は……?」
「休む」
2人にとってそれは非常に重要な質問だったのか、窓からオアシスを見つめていたメープルまでこちらを向いた。
簡潔に即答すると、小麦色の口元が喜びにほころんだ。
「だったら買い物に付き合ってくれないかしら……!」
「付き合って……付き合うべき……付き合わないと、末代まで……たたる……」
メープルは直情的なのでさておき、シェラハゾの方からこうも力強く誘ってくるとは意外だ。
しかし買い物か。なかなか悪くない休日の過ごし方だ。
「たたられるのは困るな。わかった、付き合おう」
「あ……やった……」
「よかった! じゃ、今日は丸1日付き合ってもらうから、そのつもりでねっ!」
「あ、ああ……。お前ら、やっぱり何か変じゃないか?」
「腹、くくったから……。否、くくりまくったと、言い直したい……」
残りのお茶をすすって、外の暖かい陽光を眺めた。
オアシスの水で肌だけでも拭っておいた方がいいだろうか。
「布とかあるか? よく考えたら、あの日からろくすっぽ身体を洗ってなかった」
「知ってるわ。ベッドが男臭かったもの……」
「グフフ……」
「悪かったな。……メープル、お前はせっかくかわいいんだから、変な笑い方をするな」
「あた……」
メープルの額を小突くと、なぜだかシェラハゾまで一緒になって嬉しそうに微笑んだ。
それに不覚にも家族の温かみを感じてしまった。
「待ってて、すぐ用意するわ」
「悪いな。……シェラハゾはまるでお母さんだ」
「そ、そういうのはっ、気が早いわよ……っ?!」
「なんでそうなる……」
「意識し過ぎの姉さん……ハァハァ、かわいい……」
そうして布を受け取った俺は、すぐそこのオアシスまで行くと服を脱いで、冷たい湖水に膝まで入って汚れを清めた。確かにこれは男臭い。
スッキリするまで全身を一通り拭っていった。
……いやところがだ。だいたい綺麗になったのでトーガを手にかけて身に巻き付けようとすると、右手側のオアシスの陰から、メープルの顔が生えていた。
「あ、お構いなく……」
「おまっ、のぞくなよっ!?」
「ふ……」
姉さんの水浴びを毎朝のぞいてたくせに。
メープルは意味深に鼻で笑うと、内股になった俺の隣を素通りして行った。
あの子には弱みを握られっぱなしだ。
のぞきという悪い習慣を止めればいいだけの話だが――あいにくその気はまったく起きなかった。
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