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32/308

・俺を拉致したエルフ姉妹の様子がどうもおかしい

 その翌日、色彩のない世界から外へと出ると、広大な砂漠とシャンバラの夕日が俺を迎えてくれた。

 この土地には数々のオアシスがあり、人はそのコロニーごとに集まって暮らしている。


 それらを全てをひっくるめて、砂漠の国シャンバラだ。

 短距離の転移を繰り返して、市長邸のある都心を探して、俺はようやく自宅に帰って来た。


 今回は行き来と師匠との戦闘で魔力を大きく消耗してしまったので、しばらくの間は休暇を取らなければならないだろう。


 要するに疲れに疲れ果てていたので、俺は報告も済まさずに2階のベッドを借りて、夜まで眠ることにした。



 ・



「あ、あれ……ここは、あれ……。なんで……あ」


 寝て気づいたら朝だった。外気はまだ冷たく、だけど都市長がわざわざ用意してくれただけあって、ベッドはとても温かかった。

 というより、熱源が己の左右に存在することに気づいて、俺はハッと飛び起きた。


「むにゅ……。おお……おはー、ユリウス……」

「お、おはよう……。あ、ああっ、あなたがベッドを占領するからっ、け、結果的に、こうなっただけよ……っ!?」


「ユリウス、まだ寒いから……温めて……えいっ」

「な、何をっ、こらっ、くっつくなっ!」


 メープルが二の腕にしがみついて、俺をベッドに引き戻した。

 しかし意外だったのはシェラハゾの行動だ。妹と結託して、掛け布団で俺を覆うと、同じように二の腕に抱き付いてきた。


「うっ……」

「姉さん、効いてるよ……有効、有効、クリティカルヒット……」

「も、もう少し、ゆっくりしなさいよ……」


 メープルはともかく、シェラハゾの場合はとてもまずい。

 とてもとても大きな胸がたぷたぷと密着して、俺をベッドに縛り付けようとした。


「お前ら、何を考えているんだ……。これまずいだろ、あきらかにまずいだろっ、うっ……ううっ……」

「あたし、ユリウスをからかうメープルの気持ち……少しだけわかったかも……」

「へへへ……お兄さん、こういうとこ、初めて……?」


 お前はそういう言葉をどこで覚えてくるんだ……。

 2種類の甘ったるい匂いが俺の鼻孔を攻撃して、メープルの方は布団の下で足まで絡めて来た。


「俺がいない間に何があったんだよ……。離れてくれ、ヤバい、真剣にヤバいから……っ」

「ふぅー♪」


「ウヒャァァッッ?! んなっ、何すんだよっ、お前っ!?」

「ふー……♪」


「うがっ……?!」


 何かがおかしい。何かがおかしいぞ……。

 メープルが耳の穴に息を吹きかけると、続いてシェラハゾまでひかえめに同じことをして来た。


「姉さん、上手……」

「そ、そうかしら? ふふふ……フーッ♪」

「あっあふんっ……。ちょぉぉーっ、止めろって、こらーっ?!」


 俺が抗議をすると、姉妹が子供みたいにコロコロと笑った。

 これは歓迎されているということなのだろうか。


 彼女たちからすれば、信じて送り出した俺がちゃんと戻って来たわけで、それが嬉しいのだろうか。考えても何もわからない……。


「はー……鞭でしばきたい……」

「ないわ。それは聞かなかったことにしておくわ」


 再び身を起こして左右を見ると、薄手の寝間着姿に心臓が暴れた。

 俺はなんていかがわしいことをしていたのだろう。

 シェラハゾは俺の凝視を受けて、掛け布団の中へと潜るように身を隠してしまった。


「姉さんって、エロいよね……」

「え、ええっ、何聞いてるのよっ!?」

「同意を求めてくるな……」


 ベッドをはい出すと腹の虫が鳴った。

 まともに食事を摂ったのは孤児院での滞在時くらいで、以降は飲み物を調達する程度だった。

 人の腹の音がそんなに面白いのか、姉妹は布団の中で腹を抱えて笑っている。


「腹が鳴っただけだぞ……?」

「テンション……上がってるから……。わりと、なんでも面白い……」

「女の子2人に囲まれて、なんでお腹の方がなるのよ……っ、ふふふっ……」


「お前ら、やっぱなんか変だぞ……」

「少し早いけど朝食にしましょ。ユリウスは暖炉をお願い。メープルは水をくんで」

「任せて……エルフのおいしい水、水瓶いっぱい、くんでくるね……」


 慣れない甘ったるい空気から離れられて、食事が食べられるならなんだっていい。

 俺たちは階段を下りて、朝の支度をした。


 暖炉の前でしばらく薪を眺めていると、朝食が居間のテーブルに並んだ。

 昨晩の食事だったのか、羊肉の煮込み料理と、スープと、パンという朝食らしからぬ豪華さだ。


「食べ終わったら、あの膨大な本から必要な情報だけ拾い集めないとな。お、これ美味いな」

「それなら問題ない……。姉さん、本読むの早いから……」

「見繕っておいたわ。ツワイクでも同じような事件が前にあったみたいで、コンクルっていう補修剤が研究されていたの。砂と混ぜ合わせると固まる、不思議な土よ」


 ジンジャースープは温かく、空きっ腹にパンがガツンときて、羊肉の煮込みは少し癖があったが淡泊で、どれも必要な栄養が詰まっている味がした。


「どの本だ?」

「これ……。あとね、このページ、おすすめ……」


折り目(ドッグイヤー)が付いてるな。ん……巨乳化、薬……作んねーよっ、こんなのっ!」

「えーー……」

「こ、これ以上大きくなったら困るわ……」


「姉さん……それは危険……。ユリウスを、後戻りできない、泥沼に導く行為……」

「人を変態みたいに言うな……」


 ドッグイヤーを戻して、コンクルのページを見つめながら腹を満たした。

 瞬間的に固まる半液状の石材か。これならば隙間なくふさげるので今回の用途に向いている。

 素材を集めて、作ってみることにしよう。


「ユリウス、ユリウス……お願い、一生のお願い……」

「お前な……。一応聞くが、巨乳になって何をするんだ……?」


「ユリウスを誘惑……」

「却下な」


「なんて、無慈悲な……」

「あ、あなたが望むなら……あ、あたしも、別に……ぅ、ぁぅ……っ」

「本当にお前ら、何があったんだよ……」


 やっと帰ってきて、やっと疲れが取れたと思ったら、ずっと会いたかった姉妹が完全に色ボケしていた。


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