・森の園ミズガルズ 潜入編 - パパ -
「あら、ジュードとレアじゃない! えっ、2人ってそういう関係だったのっ!?」
「あ……っ」
サンディとウルドと鉢合わせになった。
手を繋いで歩くクラスメイトの姿に、どちらも目を丸くして驚いていた。
シェラハはレア。俺はジュードという偽名で行動している。
レアは俺の手を強く握り、離さなかった。
「ええ。でも他の人には秘密にしてね」
「お、おい……っ」
見られてもシェラハは手を離さない。
それでも俺が強引に逃げようとすると、今度は二の腕にしがみつかれた。
彼女は胸が大きい。それはもう、とても……。
「わぁぁ……いいなぁ……。うちもパパみたいに素敵なおじさまとラブラブになりたい……」
「パ、パパ、だと……?」
「うんっ、アルヴィンスおじさまも素敵だけど、うちはパパが一番好きなの!!」
「サンディちゃん……もう、行こ……? ね……?」
「えー、なんでーっ!?」
「えと、それは……。デ、デートの邪魔かも、しれないよ……」
「あ、そっか。それじゃまたね、2人とも!」
ウルドは俺たちの正体に感づいたようだ。
気を使うように俺たちを見てから、サンディの手をベンチの方へと引っ張っていってくれた。
「よかったわね、パパ」
「俺は……アルヴィンスよりも、サンディに好かれていたのか……」
「何を当たり前のことを言うのよ? そうでなきゃ一緒に旅行したいなんて言わないわ」
「そ、そうだったのか……っ」
自制できない喜びに言葉がはねた。
シェラハは俺の二の腕さらにピッタリとくっついて、大きな塊を押し付けた。
普段はあれだけ控えめなのに、なんでこの姿になると彼女はこうなのだろう……。
「手を繋ごう、歩きにくい……」
「ねぇ、もう少しこのままじゃ、ダメ……?」
「これではただのバカップルだ……」
制服姿のシェラハは、雰囲気が大きく変わって可憐だ。
ついついふとももに目が行き、それに気付かれると笑われた……。
「犯人、見つかるかしら……?」
「絞り込めてはいるが、相手が動かない限り難しいかもしれんな……」
「だったら、そう仕向けてみたらどうかしら……?」
制服姿のシェラハが腕から離れてくれた。
凄くもったいないことをしたような気になったが、言われて俺も考えた。
「お祭りとかどうかしら? 外国の大きな学校だと『学園祭』というのをするそうよ」
「今の規模と段階だとどうだろうな……あまり盛り上がらなさそうだが」
「なら、遠足! みんなでピクニックに行って、仲良しになるのはどうかしら!」
今のギスギスした空気を改善すれば、新たな破壊工作が行われる。
なければないでいい。俺たちも手を引ける。
「少し早い気もするが、迷宮での実戦訓練というのはどうだ? 戦友は特別なものだ」
「迷宮……? 危険じゃないかしら……?」
「その分だけ相手も大きく動く。何か起きたら俺たちでカバーすればいい」
シェラハはしばらく考えて、納得したのか微笑んだ。
「そうね……。迷宮がきっかけで、人間関係が変わることは確かにあるわ……。あたしたちだってそうだったもの……」
唇を押さえてシェラハは、あの時のことを思い返したようだった。
あの日、迷宮の底で彼女は石化毒に冒された。
俺は彼女を生かすために禁忌を冒し、少し未来の世界に飛んだ。
薬を死にかけの彼女に口移しで与え、衝動任せの行動を取った。
「レア、最近になって時々思うのだが……」
「なあに、ユリウス……?」
「今はジュードだ、レア。今になって思うのだが――ここは、本当に俺たちが属していた世界なのだろうか……?」
転移魔法はあの時、失敗していたのではないかと疑った。
「本当の俺たちの世界では、俺たちは行方不明になっているのではと、考えたことはないか……?」
「……もう、怖い話は止めて。メープルが帰らぬあたしたちを待ち続ける世界なんて、そんなの想像したくないわ……」
俺たちは互いを繋ぎ止めるように手と手を重ね、散歩にしては長い帰り道を歩いて行った。
あの頃のシャンバラは砂漠だった。
果てしない砂の大地がどこまでも広がっていた。
あの頃の世界は渇いたもうどこにもない。
美しい木々と、みずみずしい香りがありとあらゆる土地に立ちこめていた。
もうあの頃には帰れないのだと思い返し、美しいエルフの美姫の手を引いて帰路についた。
あの砂漠の国が俺たちは恋しい。
先日、書籍版2巻の開発が決まりました!
編集プロダクションさんの変更などのゴタゴタで、2巻の計画が遅れていたそうです。
よりよい第二部になるよう、これからがんばって改稿して参ります。
心苦しいですが、以降のウェブ版は不定期更新とさせて下さい。
プロである以上、チャンスを広げるために新作も作らなくてはいけないので、現在はスケジュール管理が難しくなっています。
また、こんな流れで申し訳ありませんが、本日新作を公開しました!
ストーリー上で滅亡が決まっている勇者の故郷の、パン屋さんの物語です。
どうか応援して下さい。
追記。またご投稿していました。
ぬか喜びさせてしまってすみません。




